精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋
実例紹介シリーズ第12回 友だちが黙って入院して娘がショックを受けている
Q 友だちが黙って入院して娘がショックを受けている
テニス部で仲良くしていた友だちが夏休み直前に部活をやめ、そのうちLINEも既読がつかなくなり、嫌われたと娘がショックを受けていました。その後、友だちが急性骨髄性白血病で入院したと先生から聞いたそうです。それで、すごく疲れたり、ボールが当たったわけでもないのに腕にアザができていたことを思い出したと言っています。長期入院になるそうです。知らせてもらえなかったのは、病気のことを知られたくなかったからかもしれないと娘に言っていますが、ふさぎ込んだままです。娘にどうアドバイスをしたらいいでしょうか。
(39歳 女性)
A 患者さんが必要なときに何かできる心構えで
先生が娘さんたちにどういう経緯で話したか、入院した本人が了承の上かどうかを確認したほうがいいでしょう。先生から友だちの病気のことを聞いたとありますが、それを伝えることを本人が了承していたかどうかで、この回答は変わります。
本人が了承の上で、伝えて欲しいということでしたら、「先生から病気のことを聞いたよ。自分は白血病のことは想像がつかない部分があるんだけれど、きっと大変なんだなと思っている。自分が何かできることがあるかわからないけれど、もし本を送って欲しいとか、学校の様子を教えて欲しいとか、何でもいいから言って。できることをやりたいので、遠慮なく言って欲しい」などと、LINEで伝えたらどうでしょう。
もし、本人が言わないで欲しいと先生に伝えていたのであれば、LINEなどしないほうがいいでしょう。その場合は娘さんに対する手当てが必要です。
「病気のことを言わないで欲しい」と本人が思うことも、「まだがんになったことを知られたくない」という気持ちも、自然なことなのだ。自分がその人の立場だったらどうかと考えると、少しは想像がつくかもしれないけど、それは決してあなたのことが嫌いになったからではないということを娘さんに伝えてあげてください。いずれまた、話しあえる日が来るので、そのときまではそっとしておいてあげたほうがいいでしょう。
よく私は、LINEで友だちを気遣うときの心構えを、「available」(アベイラブル:利用可能)という言葉――ある有名な精神科医の言葉を引用して伝えています。
その精神科医が肺がん患者になった体験から、遠方の者がああしろ、こうしろと言ってくるのが鬱陶しい、自分が必要なときに、手をあげれば来てくれる空車のタクシーのような心構えで周囲の人が接してくれるのが助かると言っています。
空車のタクシーのことを「available Taxi」というのだそうですが、あなたのことを気にかけているから、手を上げてくれればどこへでも乗せていってあげますよ。何ができるかわからないけど、もし言ってくれれば、私にできることは何でもやります――という心構えを勧めています。
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