精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

実例紹介シリーズ第8回 進行がんで療養中。どう子どもと向き合っていけばいいのでしょうか

構成・文●小沢明子
発行:2022年1月
更新:2022年1月

  

進行がんで療養中。どう子どもと向き合っていけばいいのでしょうか

大腸がん4期とわかり、現在化学療法を行っています。治療日以外、なるべく普段どおりに過ごそうとしていますが、このところ横になる日が多くなってきました。将来のことを考えると悲しみや不安が大きく、これからやってくる死という現実にどう向き合っていけばいいのかわかりません。

いちばんの気がかりは8歳の息子のことです。息子にはまだ私の病気のことを、正確には伝えてはいません。もし事実を伝えたらどうなるかと思うと、怖くて言い出せません。

息子の成長を見届けることもできず、親としてなんの役割も果たせないと思うと、苦しくて仕方ありません。これから子供とどう向き合っていけばいいのでしょうか。

(40代 女性)

いつか別れがくることをきちんと伝えて

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

おそらくあなたは、息子さんが成人するまで母親としての役割を果たそうと思い、懸命に子育てをされてこられたのでしょう。

なので、小学生の息子さんの将来を考えれば考えるほど、現実を受け入れがたく、苦しくなってしまうのは無理もないことだと思いました。

「自分がいないと息子は大丈夫なのだろうか?」 「きっととてもさみしく思うだろう」「困難にぶつかったらどうするんだろう」などと、息子さんのことを心配する気持ちと、息子さんと別れなければならない悲しみが同居されているのではないかと想像しました。

ですから、病気のことを知ったときの息子さんの気持ちを思うと、「病気のことを伝えないほうがいいのではないか」「この先どう接していけばいいのだろう」と、迷われる気持ちもわかります。

ただ、子どもは親の様子から、いつもと違う何かが起きていることを感じているものです。言葉を濁したりごまかしたりしていると、かえって息子さんが疑心暗鬼になり、不安を増幅させてしまうかもしれません。

また、病気を伝えない場合、つじつまを合わせるために息子さんに嘘をつき続けなければなりません。いっしょに真実に向き合えないというのは、あなたと息子さん双方にとってつらいことなのではないでしょうか。

また、死別したときの悲しみが長く続く要因のひとつに、〝予期しない死〟があります。大切な人が突然目の前からいなくなってしまったら、だれでも混乱して大きなショックを受けるでしょう。家族の一員である息子さんにも、あなたとの別れを受け止める心構えが必要ではないでしょうか。

「お母さんと、一緒に過ごせる月日は限りがある」という、心の準備をすることが大切ではないかと思います。

息子さんを悲しませたくない気持ちは痛いほどわかりますが、伝えないことのデメリットを考えると、やはりがんであることを隠さずに伝え、いつかお別れのときが来ることを、きちんと話されたほうがよいと思います。

もちろん、親ががんだとということを知ると、子どもはふさぎ込んだり怖がったり、あるいは「なんでお母さんがいなくならなければならないの?」と怒りを感じたりすることもあると思います。息子さんも激しく落ち込んでしまうかもしれません。でも、大切な人と別れなければならないのですから、息子さんが動揺するのは普通のことです。

しかし、人は苦しみを乗り越え、また歩き出す力を持っています。息子さんが取り乱した場合、息子さんのことを信じて、気持ちを受け止めて励ましてあげていただきたいと思います。

普段通り、子どもに愛情を示しましょう

病気のことを話したあと、大切なのは息子さんに対する愛情は変わっていないことを伝えることでしょう。

治療で体調がよくなかったり、イライラしてしまう日もあるでしょう。「お母さんはどうしたんだろう」と息子さんは心配するでしょうから、「ごめんね、抗がん薬の後は体調が悪いからいつものようにできないの」と理由を伝えましょう。

このように、息子さんの立場に立ってできる限りコミュニケーションをとることで、あなたがとても息子さんを愛していることが伝わります。

また、「今日はどんな勉強をしたの?」「学校で楽しいことはあった?」など、息子さんに興味を持っていることを伝え、息子さんの話しに耳を傾けるようにしましょう。そして、どうしてもつらいときは弱音を吐いていいことも、伝えられるといいと思います。

息子さんは、あなたに対して何かできることはないかと考えるかもしれません。その場合、「洗濯物を取り込むから、手伝ってくれる?」「買い物してきてくれるかな?」などと、頼んでみてください。あなたの役に立てることは、息子さんの心の支えになるはずです。

あなたが亡くなったあとに、子どもに愛していることを伝える方法もあります。患者さんの中には、わが子への思いを手紙にして伝える方もいますし、10歳、15歳、20歳などの節目ごとにメッセージを残される方もいます。子どもが好きな料理の作り方を教えてあげるのもいいと思います。

息子さんにとって、「自分はお母さんに愛されていた」という記憶は大きな力になるはずです。母親がいないという点ではいっしょでも、子供に興味を持たず、家にいない(ネグレクト)ということとはまったく違う意味を持ちます。母親と別れなければならないのはつらい経験ですが、むしろそれを糧に強く、優しく成長される子供もいます。

あなたとご家族が最後まで豊かな時間を過ごせることを、そして息子さんが健やかに成長されることを願っています。

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