腹痛とがん
がんから腹痛が発生する割合は?

文:諏訪邦夫(帝京大学幡ヶ谷キャンパス)
発行:2010年4月
更新:2019年7月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

「がんは痛くない」といいます。がんの性質から考えて納得できますが、それでもいろいろな経路で「痛くなることはある」ので、「腹痛」とがんの関係を調べてみました。腹痛に関係する臓器の数と種類は多く、病態や病気の種類も多種あることがわかりました。

「診察が必要な症状」を紹介する日本消化器病学会

最初にみつかったのは、日本消化器病学会のページです。

このサイトは、腹痛の随伴条件と腹痛の種類について、一般の方々に「お医者さんの診察が必要な症状」として紹介しています。

まず「腹痛の条件」として、医師の診察が必要な腹痛について、下記8項目を挙げています。

(1)突然、お腹がはげしく痛みだしたとき

(2)もどしたものや大便に血液がまじるとき

(3)お腹にしこりがあるとき

(4)尿が濃くなったり、体が黄色くなったとき

(5)下痢や便秘をともなうとき

(6)体重の減少をともなうとき

(7)発熱をともなうとき

(8)腹痛は軽いが、最近、健康診断をうけていないとき

そこからすぐに、「腹痛の概観」の文章に入り、「腹痛を招く病気は軽い胃腸炎から恐ろしいがんまで幅広い。自分で安易に痛み止めを飲みつづけたり、お医者さんの診察をうけることをいつまでもためらっていると、病気の発見がおくれ、病気の回復を長びかせる」と警告して、「上記の腹痛の場合、医師に相談して欲しい」とお願いしています。

次に、腹痛の原因をはっきりさせるために医者がたずねる質問に、自分で答えてみることをすすめているのは、単に医師への相談時間を節約するというだけではなくて、「病気の状況は患者自身が把握するのが本来の姿」「何が問題かを知れば、症状は患者自身がもっともよくわかる」という意味で、非常に重要な考え方です。

内容は、以下の質問からなります。

(1)どこが痛むか?

(2)いつ頃から痛いか?

(3)どのような痛みか?

(4)腹痛のほかには何かかわったことがあるか?

(5)いままでに病気したことがあるか?

その他、「するどい痛みか、鈍痛か」「痛みが持続的か、強さが変化するか」なども重要な情報でしょう。

腹痛の原因の質問を医師だけに任せると、重要な質問を落としたり、検査成績に頼る結果にもなりやすいので、患者側から積極的に伝える態度も必要です。

最初の「随伴症状」と2番目の「痛みの様子」を組み合わせると、腹痛の原因は、かなりしぼられます。また、すぐに詳しい検査が望ましいか、とりあえずは簡単な検査だけで様子を観察しておくのがよいのかについても、ある程度推察できます。

個人サイト内「癌患者に100の質問」ページは興味深い

次に興味深く感じたのは、個人サイト内にある「癌患者に100の質問」というページです。

質問は「プロフィール編」(通常の個人情報)、「がんのプロフィール編」(種類、経過、自覚症状、転移の有無、検診の経験)で始まり、「告知編」(告知された年齢、そのときの心境、カウンセリング・心療内科など受診の経験)と進みます。

その後も、「治療編」、「入院編」、「手術を受けた場合」、「放射線治療」、「腫瘍マーカー」、「検査」、「身上調査」、「嗜好品」と続き、最後に「その他」(がんになって得たこと……100の質問に答えた感想)で終わります。

腹痛について訊いている要素は少ないのですが、これだけ多数の問いがあり、それに答えていくと、がんの、あるいは健康全体のいろいろな面をカバーして、「自分の病気をしっかりみつめる」、しかもある程度「客観的に考察する」のに有用と感じます。

個々の質問は簡単ですが、これだけ多面的に答えてみると、同じ問題だけにこだわってくよくよしたり、堂々巡りになるのを防ぎ、そこから抜け出すのに有用かもしれません。

gooヘルスケアは、腹痛を起こす病気リストを紹介

gooヘルスケア内「腹痛から考えられる主な病気」のページでは、まず腹痛の部位を、下記の9カ所に分けて考察、紹介しています。

(1)心窩部(みぞおちあたり)

(2)(3)左右上腹部(季肋部)

(4)へそ部

(5)(6)左右側腹部

(7)(8)左右下腹部

(9)下腹部

実にいろいろな病気が載っており、たとえば(1)の心窩部痛は、食道(マロリーワイス症候群、特発性食道破裂)、胃(急性胃炎、慢性胃炎、胃アニサキス症、急性胃粘膜病変、胃潰瘍、胃軸捻転症、胃がん、胃肉腫)、十二指腸(十二指腸潰瘍)などです。

意外なのは心筋梗塞で、腹痛がある場合があります。これは医師には常識ですが、一般の方々には想像がつきにくいかもしれません。

こんな風にして部位と病気を列記して、最後の(9)の下腹部では膀胱(膀胱炎)、女性(付属器炎、子宮筋腫、子宮頸がん、子宮体がん、月経困難症、切迫流産、子宮外妊娠)、男性(前立腺炎)、他に大腸と尿管の病気など、さらに腹部全体の痛み(過敏性腸症候群、感染性腸炎、腸閉塞、急性腹膜炎、腹部大動脈瘤)まで紹介しています。

ここに掲載されている病名は全部で70ほどあり、そのうち「がん」と「悪性腫瘍」は10、他に腸閉塞・水腎症など「がんの合併症・後遺症」として起こりうるものは5つほどあります。

つまり、腹痛発生率は15/70(≒21パーセント)です。

この計算は、各病気の頻度は無視して単に「名前同士の比較」だけで、中には発生頻度の低い病気も含まれ、正確な評価とはいえません。

この20パーセント強という数値を、「20パーセントしかないから、がんの初発症状としては腹痛を無意味」と解釈するか、「20パーセントならある程度は頼れる」と解釈するかは考え方によって分かれるでしょう。

私は後者の立場で、こう考えます。

この種の質問に、自分で答えを書いてみるのは有用です。それが、自分に教える事柄は多いでしょう。

この方法のよい点は、費用はかからず、時間もさほどかからず、そのうえに各種の「検診にともなう危険」がまったく存在しないということです。

それなのに、検診のようにあなたまかせではなくて、自身を観察評価できます。

この種のものは、一種の自己検診用チェックリストとも言えます。

「わかっている」と考えて放置するのではなく、ある程度まじめにメモして評価したうえで、診察を受けるか否かを決断する材料とするのが正しい態度と考えます。

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