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抗がん薬と間質性肺炎
厚生労働省のホームページが充実した内容の文書を掲示
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
以前、「抗がん薬の肺障害」というテーマを扱いました。ちょうど、イレッサの肺障害が話題になった時でした。この回では、イレッサ自体の問題を詳しく扱いましたが、抗がん薬の肺障害の重要な要素である「間質性肺炎」を中心テーマに据えなかったので、今回はこのテーマに限定して扱いたいと思います。
「患者さん」と「医療関係者」に分かれた厚労省文書
「間質性肺炎」に関しては、素晴らしい文書が掲示されています。厚生労働省ホームページ(HP)の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」の「間質性肺炎」で、日本語の記事では断然充実しているので、このHPを中心に説明します。 表紙を含めて23頁にわたるこの文書は、「患者さん」と「医療関係者」の2つに分かれています。特に「患者さん」用の文章は簡潔で、読みやすく書かれており、文量も3頁です。
「A.患者の皆様へ」の記述
内容はまずはじめに、「間質性肺炎が薬物で引き起こされることがある」と記述し、ついで症状の簡単な説明では「階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる」「空咳(からせき)が出る」「発熱する」が見られ、症状が急に出現したり持続する、となっています。「空咳」は、「咳が出るだけで痰がでない」状態と説明しています。間質性肺炎の解説では、肺の構造と機能の簡単な説明があり、間質性肺炎は肺の「肺胞の壁や周辺に炎症が起こる」病気で、この病態になると血液に酸素が取り込めず、酸素欠乏を起こし、呼吸が苦しくなる、ことなどが述べられています。間質性肺炎の原因としては、判明しているものと原因不明のもの(特発性間質性肺炎)があり、さらに医薬品による原因としては抗がん薬以外にも、抗リウマチ薬・インターフェロン・漢方薬・解熱消炎鎮痛薬(アスピリン、サリチル酸など)・抗生物質・抗不整脈薬などを挙げています。なお、間質性肺炎が進行すると、炎症が治癒した後に組織の線維化が起こって「肺線維症」という肺が硬くなってしまう危険を述べています。「早期発見と早期対応のポイント」では、右に書いた症状をもう1度やや詳しく説明しています。 ここまでが患者さん向けの記事です。
「B.医療関係者の皆様へ」の記述
ここは「医療関係者」向けのページとなっていて10頁の文量があり、充実していますが、一般の方にも十分に読める書き方です。
副作用の好発時期は、免疫反応なら1~2週間と早く、細胞障害性薬剤では数週間~数年とゆっくりですが、こんな一般論は当てはまらない場合も多く、抗がん薬でも早期に発症する例もあると断っています。
患者側因子として、全身状態が悪い場合はもちろんですが、肺に線維化の所見がすでにある場合は炎症素地があって間質性肺炎が起こりやすく、発生すると重症になりやすいと述べています。
薬の量との関係では、ブレオマイシン(一般名)とマイトマイシンC(一般名)は量が多くなると傷害の危険が増すことが明確ですが、その他の薬物では毒性と投与量の関係は不明です。症状が出れば診察と検査を受けますが、内容は血液検査でCRP・LDH・KL-6・SP-Dなどの炎症のマーカーが、他に胸部エックス線写真と胸部CT、動脈血ガス分析(酸素の低下を検出)が有用と説明しています。
この他、「治療方法」としては、ステロイド薬しか挙げていませんが、「典型的症例概要」で4例を提示し、その中に漢方薬(小柴胡湯)で発生した例も示しています。一般の方は読みなれないでしょうが、具体的な経過の説明で常識的な用語が多いので、挑戦してみると案外楽に読みこなせるのではないでしょうか。
次の「早期発見・早期対応に必要な事項」の項目では、薬剤性肺障害頻度の人種差の問題を検討しています。イレッサで問題になった「日本人は西洋人と違うらしい」問題です。「差があることは間違いなさそうだが、正確な頻度差などは不明」としています。
厚労省の文書に対する評価と注文
厚労省の文書は、内容が充実しています。関心のある方は是非参照して下さい。一般の患者さんや関係者に読ませるべく、精一杯わかりやすい文となるよう努力しています。
それが100パーセント成功しているとは言えないかもしれませんが、こういう多数の人たちの知恵を集めたものとしては最高の出来栄えで、PDFファイル(パソコンの文書ファイル形式の1つ)23頁という文量は十分です。しかも自由にダウンロード(インターネット上のデータを自分の端末に転送すること)できるので、印刷して読むことができます。厚生労働省という「お役所」が、これだけ努力している点に敬意を表します。
敢えて注文をつけるとすれば、図がほとんどない点が残念です。病気の注意点やメカニズムなど、ポイントとなる図があれば完璧でしょう。内容から考えて、今後も改訂される可能性がありそうで、その際は是非、図を加えて欲しい点を注文しておきます。
もう1つは、小さな問題かもしれませんが、冒頭部分を見ると表紙1頁の他に、委員と施設のリストが2頁、「本マニュアルについて」という解説(1部目次にもなっている)が2頁載っています。重要なことが書いてはあるのですが、これが合計5頁にわたり、本文が(表紙を数えないで)5頁目から始まるので、「読もう」という気合を殺がれる印象をうけます。少なくとも、委員と施設のリストの2頁は最後に移動すると読みやすいと思います。また、「本マニュアルについて」という解説も「注意」と「目次」を明確に分けて記述すると読みやすくなるでしょう。
gooヘルスケア、熊本日日新聞社も充実
厚生労働省の記事が素晴らしいので、他の記事がかすんでしまいました。間質性肺炎自体を解説したものとしては、「NPO法人統合医療と健康を考える会 大阪支部」の「間質性肺炎」の記事、gooヘルスケアで中島正光さんが執筆した「薬剤性肺炎」というタイトルの解説記事があり、特に後者は充実しています。
熊本日日新聞社の解説記事では、アストラゼネカ社(肺がん治療薬イレッサを開発した会社)が行った発症率などに関する詳しい国内調査結果を載せています。2003~2006年に全国51の施設から延べ4423人の患者さんを調査したもので、約4パーセントというイレッサによる発症率は、他の抗がん薬(2.1パーセント)の約2倍としています。
間質性肺炎に関する今回の検索では、厚生労働省の素晴らしい報告があって満足しました。