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磁気と電気とがん治療
思わしい記事が見つからず結局、検索前から進展せず
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
がん治療とは限りませんが、電気や磁気を用いた治療というのが一部に喧伝されているので、それを調べてみました。「電気+磁気+がん治療」の3つの単語を組み合わせて、日本語のページで3万4700件検索されたので、なかなかの数です。
この中で、MRIは診断法として確立した手法であり、「治療」でもないので今回の考察対象からは除きます。
「磁気の作用を強調する」傾向が否めない
テープ会社のTDKのホームページに、「磁気と生体」というタイトルの26回に及ぶ大きなシリーズが掲載されています。
第1回「磁気と肩こり豆知識」にはじまり、第26回「エピローグ 磁気と生体」まで、人体や医学のいろいろな面を扱い、その第4回が「磁性物質とがん治療」というタイトルです。
各回は5~10KB程度の分量で、もっぱら文章だけで図・絵・表などはほとんどありませんが、内容は真面目です。ただし、データがないまま「磁気の作用を強調する」傾向は否めません。たとえば、「臨床的な有効性は証明されているのに、ミクロレベルでの理論が十分に確立されていないという理由から、その効果を疑うのは科学的とはいえない」と述べていますが、その「臨床的な有効性は証明されているのに」という前提があやしく、「臨床的に有効」という明確な証明はありません。「理論が十分に確立されていないという理由から、その効果を疑うのは科学的とはいえない」という議論は正しいので賛成ですが、今のままでは「もしかすると有害かもしれない」と推測もできます。
この記事の中に、『「フレミングの法則」で血行を促進』というタイトルで、「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」という記述があります。一見科学的な説明と読めますが、実は何重にも疑問や反論が考えられるでしょう。それだけに、科学の初歩を一応認識している人たちに対してはこの種の文章は説得力がありません。
この記事の最大の欠点としては、全部で200KBにも及ぶ大きな記事なのに著者の署名がない点を指摘します。文章自体には宣伝臭はありませんが、どういう立場の人がどういう根拠でこの文章を書いているのかがまったくわかりません。その分だけ、この大きな記事の信頼性を大幅にマイナスしています。
「磁気を使えば良い」という論理が不明
「代替医療を分類すると」という記事では、代替医療を詳しく項目を多数挙げて、この8番目が「電気療法」という項目で、「ブルー光治療・人工光照射・電気ばり・電磁場治療法・遠赤外線療法・電気刺激と磁気刺激・微細エネルギー・光線療法・波動療法」などとなっており、光療法や電気ばりとならんで、電気刺激と磁気刺激のことが解説されています。
ここでは、電気と磁気を漢方・鍼治療・カイロプラティック療法・オステオパシー療法・ホメオパシーといったものと同列に扱っています。漢方や鍼治療は、私の理解では一応の科学的な評価は受けているので、この扱いは「格上げ」という印象でしょうか。
「テーマ:ガン」という頁は、「最近の研究では、ガンは絶えず体の中で発生しており免疫システムがそれを発見(免疫監視機構)し絶えず消しているという風に考えられるようになっています」という記述で開始します。そこまでは正しいでしょうが、「だから磁気を使う」という論理が不明です。
マグネットの商品がみつかりました。「エポレック」で、5粒で2000円ですから、途方もなく高価なものではないというか、むしろ安いものです。
「だからどうだ」という疑問への答えはなし
「ホリスティック医学」という頁で、帯津良一さんが詳しく紹介されています。気功などで名高い方ですが、この領域にも手を広げているとは初めて知りました。「人間全体を診るがん治療」という意味の講演に、聴衆が多かったと書いてあります。
SARSの解説を、磁気の応用にひっかけた頁があります。東大の上野照剛さんの名前を登場させて、「森羅万象あらゆる物にある」と述べています。しかし「だからどうだ」という疑問の答えを探しても、何も書いてありません。要は「東大の先生が『磁気は普遍的に所在する』と述べている」と記述しているだけで、勘ぐれば名前を勝手に借用しただけです。
「フコイダンって何?」
最後に、電磁波とは無関係なようですが、「フコイダン」というものを紹介します。
「がん治療+フコイダン」で検索すると実に4万8000件もみつかり、がんの代替医療の領域で大きな勢力をもっていることがわかります。
探しているうちにやや詳しい説明がみつかりました。「フコイダンって何?」という頁で、ここには、次のような記述があります。
「フコイダンとは海藻類等に含まれる硫酸化多糖類というヌメリ成分の1つであり、乾燥重量の約4パーセントが含まれています。食用海藻の中でもとくに褐藻類に多量に含まれており、もずく・昆布・ワカメなどが挙げられます」
「このヌメリ成分は、潮の流れや砂などで傷ついたときに細菌が侵入しないように防御したり、引き潮で海藻が大気にさらされたときに乾燥から守ったりと、バリアの役割を果たしています。また、胃の粘膜となじみやすいという特徴を持っています」
「多くの研究の結果、フコイダンにはがん細胞を自滅させる働き「アポトーシス誘導作用」を持つことが見つけ出されました。他にも「新生血管抑制作用」「免疫強化作用」があります」
「がん細胞を自殺に追い込む物質、それがフコイダンなのです。このような作用を持つことから、フコイダンはがんの代替医療として注目を浴びているのです」
この文章に一応の論理は通っており、今回の頁の中では1番「もっともらしい」印象を受けました。それでも、ふつうの医療のルールに乗らずに代替医療として扱われる理由などに興味を惹かれますが、納得させる説明はこの頁にはありません。
「電気と磁気とがん治療」で思わしい記事が見つからず、骨折り損というか検索開始前の状態から進展しませんでした。フコイダンという物質の説明が、私には新しくて納得もできました。