肺がんのラジオ波治療
肺がんの新しい治療法 ラジオ波凝固療法を詳しく解説

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2007年10月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

ラジオ波治療とは何か

「ラジオ波治療とは何か」をまず検討しました。北海道厚生連病院の頁に、斎藤博哉さん(旭川厚生病院) が要領よく解説しています。

ラジオ波治療では、「経皮的局所治療法」が特徴的です。これは、細い針を皮膚から刺して電気を通してがん細胞を死滅させる方法で、局所麻酔でできます。従来は、エタノールや酢酸のような化学物質を使う方法、マイクロ波で凝固する方法が行われてきました。「ラジオ波凝固療法」は名前のとおり、中波ラジオに近い周波数(460~480キロヘルツ)の電波を用います。病変に刺した針にこの電波を通すと熱が発生して、がん組織を破壊します。使用する針の型としては、先端が単純な針型のと、先端が傘状に広がって電極が展開する型との2種があります。

この治療法の特徴は、局所のがん細胞を確実に死滅させられる点で、その割に患者さんの身体への負担が軽く、しかも手術に近い治療効果が得られます。当初は、肝臓がんに対する治療で行われ、その後、肺や腎臓や骨など他領域へも普及していきました。

「ラジオ波凝固療法」は、「原発がん」でも「転移がん」でも適応でき、特に小さいものに効果的だそうです。超音波やCTなどの画像誘導で針を刺すため、出血傾向が強い場合や、胸水があってコントロールが難しい場合には映像が見にくく、適応が困難という問題点もあります。

この方法では、転移によって次々と出る小さいがんを治療できます。これは、転移がんの1つのパターンなので、重要なポイントです。肺全体の大きな切除や胸郭の損傷を避けられるので、肺機能障害の度合いは少なくて済みます。つまり、局所の根治性に優れ、肺機能への影響が少なく、再発した場合の治療も容易な点が利点です。方法は、まず針を刺す部位を決め、そこに局所麻酔をして電極針をがんに向かって刺します。針の太さは直径2~3ミリ程度で、超音波かCTで確認しながら針を進めます。針を刺す時、患者さんは呼吸を止める必要があるかも知れません。針が正しくがんに刺さったのを確認できたら、通電して焼灼します。低い出力から始めて、徐々に出力を上げるのがルールです。治療時間は、30~40分間です。

副作用としては、治療中の熱感・疼痛・出血など、治療後に起こる機能障害・胸腹水などがあります。いずれも一過性で、外科的な処置を必要とすることは比較的稀です。

治療回数の平均は1~3回で、7~21日間の入院を要します。焼灼されたがんの部位は、ほぼ確実に壊死するので、その部位については治療効果が高く、完治の可能性もあります。がん全体がうまく焼灼できない場合は、追加治療が必要かも知れません。再発の可能性はもちろんあるので、術後は定期的に経過を観察します。

 東京地区のNHK第1が594KHz(キロヘルツ)

何故「肺がん」か?

ラジオ波は、何故「肺がんに適切」なのでしょうか。大きな理由としては、肺がんの治療自体が困難なので、いろいろな方法やアプローチが欲しいことが挙げられます。この方法の特徴を最上拓児さん(東京慈恵会医科大学付属柏病院)は次のように説明しています。肺がんは原発性肺がんでも転移性肺がんでも、周囲を空気に囲まれています。空気は熱伝導率が低いので、ラジオ波で発生した熱が局所に留まってがん組織をやっつけます。周囲の肺実質への影響が限局されやすいので、肺組織自体を焼灼治療するのに適しているという論理です。

実際に、原発性肺がんや転移性肺がんにこの「経皮的ラジオ波焼灼治療」を使用して、その有効性を確認しています。症例数は少ないものの、がんを完全に消滅させたケースもあると述べています。がんが残存した場合は、別の方法で治療します。そういうわけで、最上さんは「この方法は肺がんの治療法として有望」と期待しています。

岡山大学の成績

「山陽新聞 いきいきネット」には、岡山大学の「肺がんラジオ波焼灼術」の報告があり、同大学の金沢右さんが報告しています。

この記事では、手術の実況放送のように、金沢右さんの活動を伝えます。肝臓が多いようですが、肺の症例も少なくありません。局所麻酔で治療時間が短く、電極針を刺すだけで傷が小さく、検査を含め3日から1週間前後の入院で済み、患者さんの負担が小さいと述べています。これまで173例で、503の病巣に使いました。2センチ以下の腫瘍では、80パーセントが再発しないと報告しています。

CT透視を行いながら電極針を挿入し、肺がん病巣に当てて通電する治療法が基本的です。針先を少し動かして、腫瘍より少し広い範囲まで焼きます。病巣が1つなら1回で済みますが、多数あると、数日の間隔をおいて2回か3回に分けてくりかえします。

その他の施設の意見

ほかにもいろいろな方の意見が見つかりますが、それほど変わったものはありません。たとえば、岡山済生会総合病院の市民公開講座での、同病院放射線科の安井光太郎さんの意見は、以下のとおりです。

肺腫瘍に対する「ラジオ波凝固療法」の適応ですが、肺以外の臓器に病変のないこと、病変の大きさが2センチ程度まで、肺の予備能が乏しく普通の手術を避けたい条件、抗がん剤や放射線で1個だけ反応しない病変が残存した場合などを挙げています。つまり、各種条件に体力面や併用療法などの因子を加え、総合的に決めるとしています。

費用の点は、保険適用になっておらず原則自由診療で、目安は1回の入院で約30万円程度と述べています。

熊本大学の河中功一さんの頁では、「アメリカの実績では、早期肺がんに対する「ラジオ波凝固療法の治療後4年での生存率は、手術成績と比べて高い」としています。また患者さんのQOL(生活の質)を落とさない点でも優れているとしています。 肺がんの処置全体で、通常の手術と手術をしない場合の率、それに対してラジオ波処置の比重などが知りたいところですが、新しい方法だけにそこまでの分析はみつかりませんでした。

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