抗がん薬と悪心嘔吐
優れた患者向けサイト「がん医療における栄養・支持療法」

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2007年8月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

抗がん薬による悪心・嘔吐を防止する薬物

ラモセトロン(商品名ナゼア)を紹介する頁は、書き方がしっかりとわかりやすいので、簡略化して紹介します。作用は、抗がん薬の治療で起こる吐き気や嘔吐をおさえ、心身の苦痛をやわらげると明快で、メカニズムは嘔吐を引き起こす5-HT3(セロトニン)の伝達経路を遮断する「5-HT3受容体拮抗薬」タイプの制吐薬で、抗がん薬投与後の即時型の悪心・嘔吐に有効と知られています。シスプラチンなど白金製剤の抗がん薬は嘔吐の副作用が強いものですが、その群でも8割くらいの人に有効だそうです。

特徴として、唾液で瞬時に溶けるタイプです。この飲み薬は抗がん薬の投与1時間前に服用して悪心・嘔吐の予防に使いますが、ほかに注射薬もあり、こちらは悪心・嘔吐が発現している場合の制吐療法に使います。

なお【備考】として、「この薬のほかにステロイド薬も使う」、「遅発性の悪心・嘔吐にはメトクロプラミド(商品名プリンペラン)も使う」、「心理的な要因がみられるときは安定薬も使う」とあります。

副作用は少ないほうですが、頭痛・頭重感・けん怠感・発熱など。重い副作用として、頻度は低いけれど、ショック・アナフィラキシー様症状などがある、となっています。

オンダンセトロン(商品名ゾフラン)も同じ頁で紹介されています。ラモセトロンと同系統の類似薬なので、説明が酷似していますが、少しだけ差があります。オンダンセトロンだけにある注意としては、重い肝臓病のある人は用量に注意、飲み合わせ・食べ合わせの注意として、抗結核薬のリファンピシンや抗けいれん薬のフェノバルビタール・フェニトイン・カルバマゼピンなどとの併用で、この薬の作用が減弱するおそれがあると指摘しています。また、ラモセトロンにはない小児用のシロップがあります。

アメリカのがん研究所から

アメリカのがん研究所から患者向けの文章として、「がん医療における栄養:支持療法」というものが出ており、日本語化されています 。この文章自体は大変に優れており、翻訳も良好で、分量も50KB もある充実したものです。悪心・嘔吐の問題も、単に「薬で抑える」問題だけでなく、それががんとの闘病に障害となること、抗がん薬だけでなく、放射線治療でも悪心・嘔吐が起こること、悪心・嘔吐を起こす薬物のリストなどを説明している点で幅広く有用です。

実のところ、この文章の真価は本テーマに直接引用する問題よりは、がん全体をもっと広く扱っている点にあります。具体例としては、抗がん薬と食物の相互作用、ハーブの問題点、フードガイドピラミッド(*1)、がんのリスクを下げる食事(2次がん予防、肺がん・前立腺がんなど個々のがんも扱う)、そのほかにいくつかのがんの予防のための食品へのサジェスチョン(示唆)などに特徴があります。この点は、機会があれば別に紹介したいと感じました。

日本臨床腫瘍学会発行の「がん薬物療法専門医のための研修カリキュラム」というPDFファイル が発表になっています。「専門医のための」という割にはわかりやすく、興味深く書かれています。抗がん薬の解説や一般的な支持療法の事柄にもある程度のスペースを割いており、この種の文献としては量も多く、一般の方も読めるようにもできています。もっとも悪心・嘔吐の問題自体は、項目を立ててはいるのですが、「制吐剤の作用機序および薬理、日常診療における使用法を知らなければならない」という記述1行だけで終わっています。

*1健康を維持するために、なにをどれだけ食べたらよいかがひと目でわかるようにビジュアル化されたもの

研究から:動物実験と看護師の研究と

「くすり開発の最前線シリーズ」の「D1医薬品の遅発性副作用予測の問題点」という文章で「悪心」を検索したら、興味深い記述がありました。そこに引用されている表には「臨床副作用と非臨床データとの関連性」というタイトルがつき、中に「動物試験から予見性が高い臨床副作用」と「動物試験から予見性が低い臨床副作用」という項目が4項目ずつ掲載されています。それによると、1. 口渇、縮瞳など自律神経系への作用、2. 消化管障害、3. 血圧、心拍数など循環器系への影響、4. 注射部位の障害などは、動物実験から臨床副作用が予見できます。一方、1.頭痛、悪心、食欲不振などの自覚症状、2. 薬疹などのアレルギー症状、3.白血球とリンパ系の障害、4. 血中トランスアミナーゼの上昇など肝機能障害などが、動物実験から臨床副作用を予見するのがむずかしいというのです。

「頭痛・悪心」などは動物実験で予見困難は理解できますが、「食欲不振・白血球とリンパ系の障害・血中トランスアミナーゼの上昇など肝機能障害」などは明確に数値に出る問題なので、やや不思議な印象で、それだけに興味も惹かれます。

「外来化学療法を受けながら生活しているがん患者のニーズ」というタイトルの論文は、長野県看護大学などの看護師の方々の調査です。優れた論文で、文章も平易で比較的読みやすく感じます。文章部分の内容は、どちらかと言えば抽象的な説明で具体的な数値などが乏しいのが欠点です。けれども掲載されている5つの表は具体的なデータを示しており、文章と対比すると内容豊かです。最後に残念に感じたことを1つ。「生涯教育シリーズ:がん化学療法の看護」というタイトルで「主な副作用とその対応(1)悪心嘔吐」というテーマで6頁の論文が発表になっています。今回扱ったテーマにズバリ適合しています。しかし、この文章は画面では読みにくいスタイルです。PDF形式のファイルですから印刷すれば読めます。ところが、中身をテキストにしていながら、コピー/ペーストを許してくれません。「インターネット」を標榜する記事で紹介するのは躊躇します。内容はともあれ、資料としての価値が大幅に減ずると評価し、内容紹介は止めます。

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