白血病
さまざまな角度から捉えられている、かつての「不治の病」

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2007年5月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

白血病に関する詳細な解説

真っ先に見つかったのが、市橋卓司さん(岡崎市民病院血液内科)の解説で、その内容は大変に充実しており、全体で50KBほどもあります。

最初に、目次で解説全体の構造を示して、その各項目から各々の詳しい記述にとぶようになっています。内容の分量が多いだけでなく、いろいろな角度から白血病というものを捉えています。その例をいくつか紹介します。

Ⅰ 科学的に興味深い部分

(1) 白血病は骨髄中での造血幹細胞のがんで、末梢血管へのがん細胞の出現とは基本的に無関係で、早期には白血球数が正常か、むしろ減少することもあります。

(2) 白血病細胞の寿命は、正常な造血細胞より2~3倍も長く(この点は他のがん細胞でもいえる)、正常細胞は成熟分化すると、計画細胞死(アポトーシス)という機構により死ぬようにプログラムされています。しかし、がん細胞は遺伝子の異常で死ににくくなり、細胞が増え続けてがん組織になります。別の言い方をすれば、計画細胞死が起こらず死ににくくなった細胞が、がん細胞なのです。

(3) 白血病は、患者さんからがん細胞(白血病細胞)を得やすいので、遺伝子異常をはじめとする研究はヒトのがんで実行可能です。

(4) 例として、急性前骨髄球性白血病の染色体相互転座に関する解析が行われて、第15番染色体と第17番染色体の一部が切断され、互いに入れ替わる相互転座が判明しています。この転座に関しては図を使って解説しています。

(5) 融合遺伝子が異常タンパクをつくり、それが白血球の成熟分化を阻止するので、前骨髄球の段階で細胞の成熟分化が停止して白血病となります。

(6) 白血病では「レチノイン酸受容体」の作用が抑えられる現象があり、本態の1つらしいのです。レチノイン酸とは活性型ビタミンAなので、この物質を大量に使ってこの作用を正常化できる場合があり、実際にも急性前骨髄球性白血病にレチノイン酸が著しい効果を示す例があります。

(7) 類似の現象が、慢性骨髄性白血病の染色体相互転座で、チロシンキナーゼの働きが活性化されて、細胞が死ににくくなり白血病になるのです。

その他にも、白血病は遺伝するか伝染するかのテーマが載っています。

小児から青年層で発生頻度の最も高いがん

Ⅱ 医学面の説明(症状・検査・分類など)

白血病は骨髄の正常機能が抑制されるのが本態で、正常血液細胞の産生が低下し、赤血球減少で貧血になります。すると、正常の白血球、とくに好中球が減少するので感染に弱くなり、血小板の産生も悪くなって出血しやすくなります。そして、病状が進行すると、脾臓・肝臓・リンパ節に白血病細胞が浸潤して腫大します。

急性白血病と慢性白血病とはがん化機構が全く違うので、基本的に経過の速度が異なり、急性の病気が慢性化するわけではありません。白血病の発生率は、年間人口10万人あたり5・3人で男性にやや多く、年間死亡数は6000人で、現在の交通事故死亡数とほぼ同じです。70歳代以上の高齢者では人口10万人あたり10人以上と倍増しますが、この層では他のがんも多くなって、白血病の重要性は相対的には低くなります。 これに対し、小児から青年層において白血病は発生頻度の最も高いがんで、それゆえに実数が多くはないのに注目されやすく、実際にも青年層の死因としては事故死に次いで第2位です。

白血病の関連疾患を詳しく扱っているサイト

無料のフリー百科事典である『ウィキペディア(Wikipedia)』にも白血病の項目があり、こちらも充実しています。

「白血病」の血の色に関してちょっと興味深い記述があります。「白血球は透明な細胞で、白血球が増えても血は白くはならない。一方、家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症では血の中に脂肪が溜まり、血が乳白色となるが、これは白血病とは呼ばない」と。

市橋さんの記述にもあったビタミンAの使用に関しては、「白血病の中で最も緊急性の高いものであった急性前骨髄球性白血病は、ビタミンA製剤であるオールトランスレチノイン酸がよく効くと発見され、白血病の中で治療成績が良好な疾患となった」と断言しています。

医学教科書として名高い「メルクマニュアル」の白血病の項目もなかなか充実しています。

1つ目立つのは「骨髄異形成症候群」というグループを、白血病の関連疾患として詳しく扱っている点です。「この疾患は同一細胞群(クローン)が増殖して骨髄を占拠する病気」と述べ、また通常の白血病との差や、どうやらこれだけは本物の白血病に移行する場合があるらしいことを指摘しています。

闘病記――毎日父さん「白血病日記」

最後に闘病記を1つ紹介します。毎日父さん「白血病日記」というもので、「私は50歳代の男性です。
2004年2月に急性骨髄性白血病を発症しました。現在も治療中です。少しでも、他の患者さんやご家族のために役立ててもらおうと思い、病気の経過や患者の思いなどをまとめてみました。『毎日父さん』は西原理恵子さんの漫画『毎日かあさん』からヒントを得ています」という記述で始まる闘病記です。

『がん患者学Ⅰ』(柳原和子 中央公論社)に触発されて、「あー自分もそうだった。あのときのこの出来事はそういうことだったのか。自分も同じだな」ということが多いので、患者さんの気持ちを落ち着かせ、家族の不安の解消にも役立つなどを考えてまとめた、と書いています。

本欄と同じアプローチで、いくつかのサイトを検索して、代表的なサイトに「ただ情報を提供するだけでなくて、運営に患者団体の支援機構の意見を聞こう」という態度が見られると指摘しているのが、新鮮です。

一方、奥様から街角に佇んでいる姿を「影がうすい感じがした。でも、子供を見ている目は聖人のようだった」と言われて、「生命力がうすくなったのではなく、きれいな映像のように、風景に溶け込み、自然な存在になったと思いたい」と洞察したり、骨髄移植の影響でしょうか、血液型に表と裏が出現した現象を「そうすると二重人格者?」ととぼけたり、優れた能力と豊かな人間性の両方が感じられ、闘病記でありながら楽しい気分で読ませていただきました。

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