酸素を用いた健康法
推奨する頁が多いが、米FDAでは警告

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2006年11月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

内容の意味不明な例

意味不明の眉唾的なものをいくつか挙げます。商品広告ですが、少し遠慮して「わざわざ酸素を補給しなければならないような人というのは肺の病気など健康体ではない人だそうですが、健康な人も酸素を少し多めに取ることは悪いことではない」と述べています。前半部分は確かに事実であり、正しい内容ですが、後半を強調するニュアンスでインチキ広告によくあるやり方です。

また、「酸素バー」に関連するブログ記事を集めたサイトもあり、そこには、「アロマテラピー効果がある酸素バーを体験」、「濃縮酸素を吸引すると短時間で血液が浄化されます」、「酸素をお金で買うのってバカバカしいケド……血液サラサラ、ダイエット」、「現代人は、とかく酸素不足におちいりがち」などの内容の記述があります。

インターネットのメールには、女性の名前を騙った勧誘メールの類がよく入りますが、前記の記事はそれと似た印象です。もしかすると、全部同じ人が書いていたりして。

「酸素の水」という無茶な話

ある頁には「吸って頭がスッキリ」、「疲れを癒す『酸素』」というタイトルの有名新聞社による記事が掲載されています。

「お店で酸素を吸う『酸素バー』が人気だったり、家庭で楽しめる携帯型酸素吸入器がヒット商品になるなど、『酸素』に注目が集まっている」と始まり、「酸素は肺で血液中のヘモグロビンと結びついて全身の細胞に運ばれ、脂肪や糖を燃焼する」、「脳内の酸素が不足すると、エネルギーを作る機能が衰えてしまう。酸素を吸うと頭がスッキリするのは、そういった脳の働きが回復するため」というような内容で、酸素の生理作用と酸素吸入の効用を混同した文章であるとの印象を受けます。

次に、「酸素の水」という記事が多数みつかりました。そもそも、酸素は水には極端に溶けにくく、「酸素を余分に含む水」の酸素量は嵩が知れており、しかもそれを「飲んで胃に入れても無意味」です。

ところが、これら「酸素の水」を推奨する内容の頁は数多く見られます。広告的なサイト以外にも、個人が運営するホームページ、ブログなど、他意はないにせよ、効果があるというような内容を何の疑問も持たずに伝えています。また、あるプロ野球選手が推奨している記事もあります。 超一流というわけではないけれど、ちょっと有名な選手であり、その影響力を考えると罪が深い!

酸素を吸っても意味がない

酸素吸入に関する真剣な議論を探したいのですが、概念自体が不真面目ですから検索でみつかりにくいのでしょう。ようやく、少しみつけました。

1つは、学生らしい方の「酸素バーの嘘」というタイトルの記述で、高気圧治療室へ実習に行って学んだことを述べています。これ自体は一酸化炭素中毒やガス壊疽の治療に使う医療機器です。そこで、教師から「酸素バーは効果が無い」と聞いた話として、こう紹介しています。

「酸素が血中に溶けるかどうかは、大気圧下ではほとんどヘモグロビンの飽和度(酸素に結合したものの割合)による。健常人はヘモグロビンの飽和度はほぼ100パーセントで、完全に飽和している。酸素を吸入しても、ほんの微量しか血中に溶け込むことができない。ちゃんと効果を出そうとしたら、装置による加圧が絶対必要になる(加圧すると気体は液体に溶けやすくなる」

続けて、結論としてこう述べています。「結局のところ、酸素バー程度の酸素吸入では血中酸素濃度を有効濃度まであげることができない。さらに、健常人に酸素投与を行った場合、血管の収縮が起こり余分な酸素が体に回らないような防御機構が働くらしい。この反応は、微量の酸素上昇によっても引き起こされる。このため、酸素バーで酸素を吸入することでも反応が生じて、血管が収縮し、脳や心臓などの各臓器ではむしろ軽い酸素欠乏状態となる」。

「酸素バーを体験して得られるリラックス感は、脳の活動低下や心臓の活動低下による徐脈(脈がゆっくりになる)によってもたらされている可能性がある。しかし、この程度の酸素欠乏であればとくに問題はないため学会としても口を挟まずにきた」との内容です。

酸素吸入の危険性

ある個人のブログにこういう文章が紹介してありました。「酸素療法がちょっとしたブームです。酸素バーが出来たり、スポーツ選手だけでなく会社員も疲労回復のために酸素カプセルを利用し……。コンビニでは、酸素入り飲料や酸素缶まで販売されるようになりました。ただ基本的に、健康な人にはそれほど必要ないのも事実。むしろ誤った使い方で、事故が起きることもあるため、FDA(米国食品医薬品局)は警告しています」

と書き、その後にFDAによる警告の英文が載っています。

大意は、「酸素吸入により、現在の病気が悪くなったり新しい病気になるなど思いがけない危険がある。酸素を加えた飲料を摂って作用があるとすれば、げっぷがでる程度のこと」と述べています。

また、すべて英文ですが、この元となるFDAのサイトへのリンクも記載されています。

日本の厚生労働省など公の機関には、これほど明確な態度を示したものがみつかりません。

一流新聞が馬鹿な態度をとり続けるだけに、「無意味だ」という意見表明だけでもすべきではないでしょうか。

言うまでもありませんが、肺や心臓の悪い方が酸素吸入するのは別問題で、こちらは明らかに利が大きく場合によっては是非必要なものです。

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