亡くなられた方のがん闘病記
非常に充実したある医師の頁

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2006年10月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

「がん検診は宝くじ」

この見出しの文章が、この頁全体のニュアンスを伝えると考えるので、まずそれを紹介します。

……現在のがん検診には、大腸がん検診のように有用性の認められている検診もありますが、肺がん検診のように対費用効果の上で有用でないと判明している検診もあります。

私の場合のように、検診で年2回胸部写真を撮影していても、診断時には手術不能の肺がんという場合もあるわけで、肺がん検診の不十分さは明らかです。

しかし、統計上有用でない検診であっても、受診者のなかには早期がんが見つかって命の助かる人が必ずあるのです。

友人から、がん検診は意味があるの? と質問されたとき、私は、がん検診は宝くじのようなものと答えます。

早期がんという当たりくじを引く人はとても少ないです。ほとんどの人は、はずれくじのためにお金を払うことになるのですが、はずれて喜ばれる唯一の宝くじかもしれません。……(以上、本文より引用)

いかがでしょうか。ユーモラスでいながら真実味にあふれており、「がん検診をどうとらえるか」の考え方の優れた見本と感じます。私(諏訪)自身は、すぐ計算したり理屈を述べたりする傾向が強くて、この方よりずっと年長なのにこうしたふくらみのある思考ができません。私は、この文章に感激し、羨ましく感じます。

内容のリスト

この頁の目次の一部を紹介します。

1.プロフィール:患者自身が血液科の医師で、1959年に生まれて2002年1月に亡くなりました。

2.若い方たちに伝えたいこと:セックスするときは感染を避けるために是非コンドームを使って欲しい、死にたくなったら精神科にかかって欲しい、というように具体的な助言です。

3.がんに関すること:1)がん入門編 2)がんの告知に関して、3)がん検診に関して(上記)、4)末期がんに関して(ご自身がその立場でした)

4.私の意見:1)医療問題に関して、2)雑感、3)代替医療に関して

5.私の株式投資法:底値を狙うのが面白いという具体的な書き方です。

6.闘病日記:2001年1月に始め、同年11月26日に最後の記載をして、1月余で亡くなりました。

7.わが人生のターニングポイント:「子供達へ遺すメッセージ」として人生を振り返って細かく記述しています。

8.最後のあいさつ:「もし、私の告別式であいさつできるなら」という文章で、「親として子供達を成人するまで育てる義務を果たせないのが残念。あとをよろしく」と述べています。

この他に、患者さんの亡くなられた翌日に兄姉の方が書き込まれた言葉が終わりにあります。

「末期がんに関して」と「がんの告知」

どの項目も真実味にあふれ、理路整然としていて、両方から納得させられることの多い文章ですが、まず「末期がんに関して」の項目から「1.末期がん患者の心理」を少し説明します。

その中で、死生について次のように述べています。

……日本人の古来の死生観では、死を忌み嫌うものとしてとらえます。従って、本人のみならず、家族の方々も患者さんが死ぬことに対する拒否反応が強いように思われます。

末期がんと判明すると、家族の方が、怒り(かかりつけ医がなぜ発見できなかったのか)や取引(健康食品や新興宗教に多額のお金を払ってもいいから治ってほしい)の感情に支配されてしまい、結果として本人の死の受容への到達が阻まれてしまうことが多い。……(以上、本文より引用)

このような現実を記述し、「現在は、がんと診断されても半数の方は治る時代です。それでもなお人々ががんを恐れるのは、がんが耐え難い痛みなどのつらい症状を連想させるから」と書いています。つまり「死ぬこと自体よりも、死ぬまでの過程が恐ろしい」のだと推測しています。それよりも「死を受け入れて、自分の人生を振り返ったり、周囲の人々に感謝したりしながら、苦しみの少ない最期を遂げたい。だから家族の方も、『延命してほしい』という家族自身の感情より、患者さん自身の苦しみを和らげる緩和医療を優先する強さを持ってほしい」と述べています。

その他、医療に関する論述など

ついで、実際に末期がんになったご自身の希望として、

1.子供たちに苦しむ姿を見せたくない。とくに「死」を恐れている下の娘には死の直前の苦しむ姿を見せるのは避けたい

2.脳転移による精神症状が最期まで出ることなく死にたい。人格が崩壊した様を子供たちには見せたくないので、精神症状が出るくらいなら、鎮静剤で眠らせてほしい

3.できれば2002年8月まで生きたい。8月までは傷病手当金が支給される。夏休み中なら子供たちの学業に支障が少ない。病状からして難しいが一応最終目標にしたい

といった具体的な事柄を期待をこめて述べています。

他にも、医療問題に関するマスコミ報道や、行き過ぎたステロイドの危険強調のキャンペーンに警告を発し、高齢者の末期医療については「全身を治せないなら無理に寿命だけ引き延ばすな」と述べています。また、がんの告知に関しては「私のように現代医学では治せないがんと診断された方も、自分の一生を振り返ったり、死の準備をする特権を得たのだ」と考え、プラスに捉えています。

この方の文章は内容が多岐にわたる点、どれも説得力の豊かな点に感服しました。できることなら、ホームページに留めずに書籍としてもっと多数の読者の方々に広く読んで頂けることが望ましいと考えながら読み続けました。

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