がん治療における漢方薬の有効性
疼痛治療、副作用軽減に可能性。広告に注意

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2006年8月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

まず広告的記事の類から

検索エンジンのGoogle で、キーワードが「がん+漢方薬」では66万件も見つかりました。「がん治療+漢方薬」で5万件に、さらに「がん治療+漢方薬+有効性」で、ようやく580件程度まで減りました。

薬の記事一般にあてはまることで「がんの漢方薬治療」にかぎりませんが、検索の上位に広告的な頁が多く出てきました。

ある記事には、「がん克服率は末期がんを含め実に70パーセント以上という驚異的成績」で「克服者たちは、がんになる前よりも遥かに元気になり完治している」などとあります。

別の記事には、「免疫療法を支え、漢方薬・サプリメントのネットトップセラー」で、「がん細胞を抑制する」「活性酸素を減らす!」などとあります。また別の記事には「驚異の抗がん漢方薬とは」、「がん21世紀驚異の奇跡」、「奇跡のがん予防漢方薬」などとあります。

どれも眺めるだけでうんざりで、中身のない空虚な文字の羅列です。

漢方の可能性を示した記事

真面目な記事ももちろんあります。1つが、「幕張新都心ガイド」内の「健康の森」です。Q&Aのテーマが10余りあり、その1つ「がん」の中で漢方薬を扱っています。(がんの)治療に関する27のテーマの1つに、「Q11がんの治療で有効な漢方薬はあるか?」とあって、回答が載っています。

3つほどの薬物名を挙げ、「自覚症状、とくに食欲不振と全身倦怠の改善率が高い」と述べています。さらに、「化学療法や放射線治療における副作用防止、とくに白血球減少の防止効果」に触れていますが、これに関しては「効果が示唆される」という表現をしています。

また、実験的には作用がありそうというだけで、「直接の抗腫瘍効果については、あるとしてもそれほど強いものではなく、抗がん剤との併用効果が期待される程度」と述べています。

2番目は、「癌治療における漢方薬の併用」で、順天堂医学部医史学客員教授、丁宗鐵さんの記述です。

「漢方薬の中に、制がん作用を持つものがあるが、直接的にがん細胞を破壊・殺傷する効果は、西洋医学の抗がん剤のほうが強い」、また「漢方薬を化学療法や放射線治療に併用すると、制がん効果が強められるとともに、副作用が軽減される」ということを述べています。

さらに「免疫力を維持する働きもある」「痛みも和らげる」と書いていますが、漢方薬に限らず薬物の鎮痛効果は調べ方が確立しており、この点は信頼できます。ただし、「どのがんのどういう条件」に対してかは不明です。「食欲の改善効果もある」というのも事実ではないかと思います。さらに、使用頻度の高い病気への効果と問題点及び漢方薬適応(と著者が考える)を表にまとめています。

「和漢療法」の紹介

3番目は、「和漢療法」というタイトルの記事で、文量は、原稿用紙にして15枚分くらいで内容的にも一番充実しています。出所も大阪府立成人病センターですから信頼できます。そのホームページで、「各種がんの解説」の欄をクリックすると最後に出てくる「17・和漢外来」がそれです。

この欄は、「はじめに」、「1・和漢療法とは」、「2・和漢医療はいまなぜ見直されるか」、「3・がん治療における和漢療法の役割」、「4・和漢医学診療法について」、「5・漢方薬について」、「6・漢方薬の副作用」、「おわりに」と分かれて、「和漢医療」の概念を説明しています。

「和漢医療」は耳慣れない用語かと思います。漢方医療が日本に入ってから少なくとも数百年の歴史がありますが、その双方を結合し、日本で独自の発展を遂げてきたものを「和漢医療」と呼びます。

5と6の薬と副作用の項目は具体的な例も挙げて、わかりやすいと感じました。「伝統的な煎じ薬だけでなくてエキス剤として用いられるようにもなったが、揮発性・芳香性の有効成分が減じている可能性」を指摘しています。

副作用に関しても、甘草配合方剤による偽アルドステロン症発症や麻黄配合方剤による血圧上昇を詳しく説明しています。「麻黄」は、そもそも明治初期に日本の薬学者長井長義が、その分析からエフェドリンを発見したことで有名な漢方薬で、この説明は納得がいきます。副作用の説明はこの2点がわかりやすいだけに、もっと詳しくいろいろな薬物について説明して欲しいとの希望も抱きました。

偽アルドステロン症=高血圧、浮腫、低カリウム血症などを起こす。アルドステロン症(副腎皮質ホルモンであるアルドステロンが過剰に分泌された状態)と同じ症状が出る

有効性についての結論は出ず

「がんの治療薬としての漢方薬の有効性」は、今回の検索では不明なままです。有効性を否定はしません。「有効性を確認できる情報がみつからなかった」のであり、検索の不備や私自身の知識の不足も原因の一部にありそうです。

言い訳のようになりますが、疼痛治療に対しては「漢方薬の有効性」に科学的な証拠もあり、ペインクリニックで働いた自分の経験からも信頼しています。同じように考える医師は多いでしょう。疼痛治療の場合は、「AがダメならB」というやり方が使えて、それが当たり前です。症状を対象にするなら、他の病気の治療でもそうかも知れません。一方「がん自体の治療」は、基本が進行性の病気ですから、このような出たとこ勝負は許されず、明快な情報が出にくくて当然です。

「漢方薬の有効性」というテーマの設定がインターネットに合いにくいとも推測します。「漢方薬」自体が概念的に大きなテーマで、それは「検索」では捉えにくいでしょう。「漢方薬」と「有効性」を単純に掛け算して拾い出すのは無理なようです。

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