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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
がん医療の弱点を補完するアンチ・エイジング医療
病気を治す医療から健康を守る医療へ
さわのぼり まさかず
1967年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。13年間、日本赤十字社医療センター血液内科でがんの臨床に従事。05年より現職。アンチエイジング専門医として、病気にならないための医療提供のほか、がん治療による副作用の軽減や全身状態の改善、再発防止などにも積極的に取り組んでいる
よしだ としや
1961年北九州市生まれ。84年一橋大学卒業後大手広告会社入社。89年アメリカ国際経営大学院(サンダーバード)でMBA取得。2003年秋に急性骨髄性白血病発病、臍帯血移植を行い、05年6月復職、現在部長。著書に『二人の天使がいのちをくれた』(小学館刊)
もっと視野を広げて病気にならないための医療を
吉田 澤登先生は、私が白血病治療のために日赤病院に入院していたときの主治医で、心身両面で面倒を見ていただきました。あのときの先生の手厚い治療がなければ、今の私はなかっただろうと感謝しています。その先生が2年前に病院を離れ、現在はアンチ・エイジング医療に取り組まれています。一般的にアンチ・エイジングというと美容的な要素が強いように思われがちですが、以前、先生にお会いしたときに実際にはもっと広い意味が込められており、がん治療にも取り入れられる要素が少なくないとお聞きしました。
そこで今回の対談では、がん患者にとって、アンチ・エイジング医療がどんな意味があるのか、教えていただければと思っています。
まずはじめに、先生が長年取り組んでこられた血液内科の領域から、アンチ・エイジングに進路を変更されたご動機からお聞きしたいのですが……。
澤登 吉田さんがお元気になられて、私もとても嬉しいです。
私がアンチ・エイジング医療に取り組み始めた動機ですが、まず1つに、人が亡くなるのを見るのがつらくなったことがあげられます。吉田さんもご存知のように、私が主に手がけていたのは白血病を中心とする血液がんの治療です。血液がんは、がんのなかでも、わかっていないことが多く、それだけに大きな可能性を秘めています。私が血液内科という診療科目を選んだのも、そのことが大きな魅力に感じられたからです。
そうして実際に医療に携わってみると、たしかに医療技術はめまぐるしいばかりのスピードで進歩を遂げているのですが、それでも救うことのできない患者さんが跡を絶ちません。そんななかで患者さんを病気から助けることも大切だけれど、もっと視野を広げて、病気にならないための医療、健康を維持するための医療にも、同じように重要な意味があるのではないかと考えるようになりました。考え続けた結果、たどりついたのが、アンチ・エイジング医学ということですね。
健康という側面から検査値の意味を考える
吉田 そこで病気を未然に防ぐ医療を選択されたわけですね。このアンチ・エイジング医学ですが、先ほども言ったように、日本では美容などの側面ばかりが強調され、受け止められているように思います。実際には、どんな意味があるのでしょうか。
澤登 病気を未然に防ぐというと、誰もが頭に浮かぶのが人間ドックなど、病気を早期に発見するための予防医学ではないでしょうか。アンチ・エイジングは、そうした同じ予防医学でも、従来の予防医学とは根本的に考え方が違っています。病気を見つけるのではなく、健康を維持するために、身体の機能を高める(若返らせる)医療と考えてもらえばいいでしょう。
たとえば、人間ドックで肝臓機能の異常を指し示すAST(GOT)の値が35だったとしましょう。ASTの基準値は40未満ですから、おそらく人間ドックでは、その値が問題になることはないでしょう。
しかし、アンチ・エイジング医学では、この値は健康を逸する一歩手前の段階と捉えます。
そして、その人により健康な体に復帰してもらうために、体の働きを若返らせる、さまざまな手段を考えるわけです。
私個人の考えを言えば、アンチ・エイジング医学の概念には東洋医学の「未病」に相通じるものがあるように思います。
吉田 そうした医療が必要になっているということは、自分では健康と思っていても、実は体の働きが実年齢よりも衰えている人が増えているということでしょうか。
澤登 そうですね。実年齢よりも体の働きが衰えている人は少なくないですね。とくに、その人の体の若さを示すバロメータともいうべき血管の老化が進んでいる人が目立ちます。鉄が空気中でさびつくように、血管も種々の原因で酸化が進行すると硬くなり、機能がどんどん低下していくのです。
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