ポイントは、ナース。ナースが意思決定に加われば医療の質も、患者満足度も上がる
がん医療全体の質を上げるために、骨身を惜しまず取り組む

ゲスト:埴岡健一 医療ジャーナリスト
発行:2006年6月
更新:2013年5月

  

埴岡健一

はにおか けんいち
1959年兵庫県生まれ。大阪大学卒。1992年7月から1997年3月まで『日経ビジネス』のニューヨーク特派員と同支局長。1999年4月から2003年3月まで骨髄移植推進財団(骨髄バンク)の事務局長。現在は『日経メディカル』編集委員。著書に『インターネットを使ってガンと闘おう』(中央公論社)、『もっといい社会、もっといい人生』(河出書房新社)など

吉田寿哉

よしだ としや
1961年北九州市生まれ。84年一橋大学卒業後大手広告会社入社。89年アメリカ国際経営大学院(サンダーバード)でMBA取得。2003年秋に急性骨髄性白血病発病、臍帯血移植を行い、05年6月復職、現在部長。著書に『二人の天使がいのちをくれた』(小学館刊)

がん医療全体をよくするため、アメリカではみんなが頑張る

吉田 前回は、アメリカの医療に関する日本人の印象は、「国民皆保険制度じゃないから、いい医療を受けられるのは金持ちだけ。肥満も多く、医療には学ぶことのない国だ」という誤解があるけれど、実は99年から、アポロ宇宙計画のように壮大な医療改革に取り組んでいて、日本が学ぶことは多い、というお話をうかがったところで、時間切れとなりました。
埴岡さんは最近も約2カ月間、アメリカにおけるがん医療の最先端を取材して来られましたが、その現場で日米の何が違うと感じたか、今日はそこからうかがいたいと思います。

埴岡 いろいろありますが、「個人主義の国」というイメージに反して、アメリカの医療者は、がん医療全体の質を上げるために、骨身を惜しまずできることをするし、また、それができる仕組みになっていると思いました。全体として、「合言葉は連帯主義」。少なくとも私が2カ月間の取材で接した人々はそうでした。学閥や医局に分断され、知識や技術を求めてあまり外に出られない日本とは、そこが大きく違うと思いました。

吉田 それは私も患者として感じました。たとえば、手術には細かいノウハウが無数にあるのに、日本では系列以外の手術現場を見られず、医師は人の技術を見て学べないんですね。

埴岡 アメリカでは、そういうことがかなり自由にできるようです。
また、連帯主義だけに、現場のチーム医療もすごく整っている。日本では医師が高度な医療から医療の実践、入退院の判断や家族のケアまで、すべてを引き受けていますね。でも、アメリカでは、医師は高度な医療や医療判断しか行いません。そのかわり、それぞれの専門家がいて、細かく分業しています。

吉田 主治医におまかせの日本の制度に慣れた人だと、不安を感じるかもしれませんね。

埴岡 精神面でのさびしさはあるでしょうね。でも、高度な医療を行う医師が家族のケアまで担当したら、時間的にも経済的にも計算が合いません。日本でも現実に医師は忙しすぎて、パンクしていると思いますよ。私が骨髄バンクの仕事をしていたときも、医師が書類の提出が遅かったり、書類を紛失したりと、いろいろありました。

家族が点滴までこなすアメリカ式充実在宅ケア

埴岡 私自身、とくにアメリカナイズされた人間ではありませんから、妻の白血病でアメリカの医療を受けてみたら、いいことが10、いやなことが3、といった感じでした。たとえれば、キャデラックで高速道を走るような医療。燃費が悪い、融通が利かないなどの面もあるけど、日本人でも米国でがん診療を受ければ、多くの人は「日本でもこういう医療が受けられたらいいなあ」と思うと思います。言葉の問題が解決できるとしたらね。

吉田 でも、退院が早いのも、医療保険の適用がきびしいからなど、必ずしも医療現場主導ではありませんね。

埴岡 たしかに、医療保険は圧力にはなっています。でも、たとえば在宅ケアを受ける場合の病院と在宅ケア会社が非常によくコーディネートされていて、在宅にしてみると、患者も家族も入院中より満足度が全然高いんですよ。ハンドブックも、専門家のレクチャーもあり、お膳立てが全部できていて、24時間電話対応してくれますから。
もちろん、医療費が高く、医療費原価で見ると日本の10倍近いといった面もありますが、日本の健康保険の3倍ぐらいの保険料の民間保険にさえ入っていれば患者もハッピー、家族もハッピー。アメリカではすぐに退院させられますが、「それでも病院にいたい」という人は見ませんでしたね。むしろ、病院は危ないところ、病院にいる日数に比例して医療事故に遭う確率が高くなると思われているところもありますね。

吉田 点滴も家族がやるとか。

埴岡 私も毎晩、妻に点滴をセットしました。やってみると、こわさより「してあげられた」という感覚のほうが強く、満足感につながりましたね。事前に病院でやり方のレッスンを受けて練習をしたおかげで不安が少なくてすみ、そう感じられたのです。

吉田 なるほど。それが可能なのも、医療スタッフの役割がきちんと決まっているからなんですね。なかでも、とくにナースの役割は大きいのだとか。

埴岡 患者さんを継続的に診ているのは、ナースです。医師はスポットで見るので、前後の経緯がわかりませんが、そこをナースがつないで、医師に患者さんのことを説明したり、進行管理やチェックを行ったりする。そして、ナースが注射を打ち、医師がサインをします。

吉田 すごい。ナースが進行管理までやるんですね。

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