何よりも治療のタイミングが大切。治療成績向上の秘訣はそこにある
血液がん治療に新たな可能性を開く臍帯血移植

ゲスト:井関徹 千葉大学医学部付属病院輸血部副部長
発行:2006年10月
更新:2013年5月

  

井関徹さん

いせき とおる
1955年、山口県生まれ。81年、千葉大医学部卒業、同第1内科入局。栃木県厚生農業協同組合連合会石橋病院などを経て、92年、学位取得。98年、東京大学医科学研究所助手。02年、東大医科研付属病院輸血部講師。04年、千葉大学付属病院輸血部講師で、現在に至る。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定医。日本臨床血液学会(評議員)、日本造血細胞移植学会(評議員、編集委員)。(財)骨髄移植推進財団、日本臍帯血バンクネットワークでも活躍

吉田寿哉さん

よしだ としや
1961年北九州市生まれ。84年一橋大学卒業後大手広告会社入社。89年アメリカ国際経営大学院(サンダーバード)でMBA取得。2003年秋に急性骨髄性白血病発病、臍帯血移植を行い、05年6月復職、現在部長。著書に『二人の天使がいのちをくれた』(小学館刊)

まだわからない白血病の発症原因

吉田 ごぶさたしています。井関さんは私にとって文字通りの意味で命の恩人ともいうべき存在です。2年前、白血病が再発して骨髄移植を受けようとしたものの、私のHLA(ヒト主要組織適合抗原)に適合するドナー(移植提供者)が見つからず、困惑しているときにセカンドオピニオンを受けさせていただき、当時は今ほどポピュラーではなかった臍帯血移植の有効性を教えていただきました。そしてじっさいに臍帯血移植を受けることで、今も元気な毎日を送れています。
井関さんが以前いらした東京大学医科学研究所付属病院では、私に限らず多くの患者さんが移植治療を受けてうまく病気をコントロールされている。治療成績も日本ではトップ水準にあると聞いています。 そこで今日は井関さんから、白血病の治療の現状、とくに私が受けた臍帯血移植の状況について、くわしくお聞きできればと思っています。

井関 あのときは大変でしたね。しかし吉田さんがこうして元気にやっておられる姿を見ると、一医師として私もとてもうれしく思います。

吉田 まず、お聞きしたいのは白血病が起こる原因についてです。私の場合でいえば、当時はかなりストレスが強く、結局はそれが発がんの原因になっているように感じられてなりません。白血病の場合は他に放射線などの影響が強いといわれていますが……。

井関 端的にいうと、大部分の白血病の原因はまだわかっていません。皮膚や内臓で起こる固形がんの場合には、欧米型の肉食中心の食生活が影響しているといわれていますが、白血病の場合はそうした生活のなかでの要因はまったくつかめていないのが実情です。
ただ小児白血病の場合は電磁波が影響していることがあるといわれていますし、またこれは白血病に限りませんが、チェルノブイリの例を見てもわかるように、放射線ががんの原因として作用することは間違いないでしょうね。ただ現実的に考えると、日本で放射線が原因で白血病になっている人はほとんどいないでしょうね。

吉田 日本と海外とを比べるとどうなのでしょう。白血病にはかなり人種間による差異があるとも聞きますが……。

井関 そのとおりですね。白血病の発症率そのものは、日本と欧米でそれほど格差があるわけではありません。しかし病気の種類はかなり違っていますね。たとえば日本では珍しくない成人T細胞白血病は欧米ではほとんど見られませんし、逆に欧米で多い慢性リンパ性白血病や悪性リンパ腫の一種であるホジキン病は日本では少ない、という差はあります。

細胞数が安定している日本の臍帯血

写真:対談風景

吉田さんの著書『「二人の天使」がいのちをくれた』の中に井関さんに会った第一印象がこう記されている。「とても慎重な先生で、ゆっくり、しかもわかりやすく1時間近くかけて質問に答えてくださった」

吉田 なるほど。では治療法についてはどうでしょう。私が移植を受けた2年前には、すでにある程度、標準治療が確立されていたように思いますが……。

井関 そうですね。ただ、ひとことで白血病といっても、いくつもの種類があります。骨髄系の白血病もあれば、リンパ球ががん化する悪性リンパ腫、急性、さらに慢性リンパ性白血病もあれば多発性骨髄腫というのもある。それらの病気ではそれぞれに、標準的治療方法が確立していますから、多くの場合には、日本全国どこの病院でもほぼ同じ治療が受けられると考えていいでしょうね。
もっとも、現実には患者さんがご高齢であったり、肺炎など他の病気を患っておられて、標準的治療が適切でない場合も少なくない。そんな場合は、やはり主治医の独自の判断が重要になってきますね。

吉田 私が患った急性白血病の場合は、標準治療はまず化学療法から始まるんですね。

井関 そうです。初発の場合には、まず強力な化学療法で寛解を目指します。そうして白血病細胞が5パーセント以下になって寛解した後に再び化学療法で地固め療法を行ってさらに白血病細胞を抑えていきます。とはいえ白血病は再発例が多く、そうなると今度は移植を考えることになるわけです。

移植治療を行う際の選択の基準は?

吉田 その移植ですが、これにもいくつもの種類がありますね。骨髄移植、末梢血幹細胞移植、それに私が受けた臍帯血移植、他人からの移植、本人からの移植、他人からも血縁者からの移植、非血縁者からの移植といろいろある。これらの選択の基準はどうなっているのでしょう。最近になってミスマッチ移植といって、HLAが部分的に異なる骨髄を移植する傾向も増えているように思うのですが……。

井関 骨髄移植では、やはり免疫反応が起こらないようにするために、HLA(ヒト主要組織適合抗原)が適合しているかどうかが、最大のポイントになりますね。
このHLAには多くの種類がありますが、移植でとくに重要なのは6種類で、できれば6種類とも合致しているに越したことはありません。そこで当然ながら、最初の選択は兄弟、姉妹など血縁者でHLAが6種類フルマッチしている人から骨髄を移植させていただくことになります。
しかし、現実にはなかなかうまくHLAが適合することはありません。じっさい血縁者でHLAがうまくマッチする方は2割程度しかいないのですからね。そこからは確たる指針が定められているわけはなく、一般には骨髄バンクからHLAが適合するドナーを探すことになるわけです。もっとも、残念ながら骨髄バンクにもやはりピッタリのドナーがいないことも少なくない。その場合に初めて臍帯血移植が考えられることになるわけです。

吉田 井関さんがいらっしゃった東大医科研付属病院では、他の病院と判断基準が違っているのでしょうか。

井関 そうですね。医科研の基準ではまず最初の選択として、血縁者でHLAがフルマッチされている方を探します。それがいない場合には、第2の選択として対象をいとこくらいの関係まで広げて、HLAが6分の5以上合致している人をドナーとする方法を模索します。それでもうまくドナーが見つからない場合に臍帯血移植を選択肢として捉えているのです。つまり、臍帯血移植を骨髄バンクを介した移植と同等に考えているということです。


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