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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
がん患者、家族1800人を対象にした大規模調査から問題点をアピール
患者の声を医療政策に反映させようと立ち上がった
こんどう まさあき じぇーむす
1997年、ハーバード大学経営大学院修士号修了。1990-92年、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社。1992-93年、平成政策研究所・平成維新の会 主席研究員。1994-03年、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社ほか。2003年、東京大学先端科学技術研究センター客員助教授。2004年、東京大学先端科学技術研究センター特任助教授。特定非営利活動法人日本医療政策機構副代表理事。専門は医療政策。主な著書・論文に『マッキンゼー戦略の進化』(共編著。ダイヤモンド社刊、2003年)「誤解が多い日本の医療費」(「東洋経済」2005年12月24日号)「なぜ「患者の視点」は必要か」(「病院」2005年11月号)など
よしだ としや
1961年北九州市生まれ。84年一橋大学卒業後大手広告会社入社。89年アメリカ国際経営大学院(サンダーバード)でMBA取得。2003年秋に急性骨髄性白血病発病、臍帯血移植を行い、05年6月復職、現在部長。著書に『二人の天使がいのちをくれた』(小学館刊)
根深い日本の医療問題
吉田 あれは確か13年前だったと思います。ジェームスさんは、市民の立場から政治を変えるための活動に取り組んでおられ、その内容を広報する仕事でご一緒させていただいたことがありました。
今、ジェームスさんは東京大学先端科学技術研究センターの特任助教授として、またNPО法人日本医療政策機構の副代表理事として、医療にかかわる仕事に取り組まれている。じっさい昨年はがん患者やその家族を対象にした大規模なアンケート調査を実施して、がん医療の現場だけでなく、政治やメディアの世界からも大きな注目を集めています。
今回はそのアンケートを実施なさった舞台裏にもふれながら、ジェームスさんの医療政策や医療そのものに対するご意見をお聞きしたいと思っています。
その前にマッキンゼーという世界有数のコンサルティング会社のトップ・コンサルタントだったジェームスさんが、なぜ医療をご自身の仕事として選ばれたのか。まず、そのあたりの経緯から話していただけますか。
近藤 そうでしたね。吉田さんにお会いした93年頃には、政治に対する市民の関心が大いに高まり、その過程で細川政権が誕生しました。新政権が誕生し、これで日本も変わると安心して海外に仕事に行ってしまいました。当時は、日本の政治に楽観的な20代の青年だったのですね(笑)。
それから7年間、海外で経済政策立案の仕事に従事し、帰国したときに小泉政権下の経済財政諮問会議でサービス産業改革の仕事を手伝うことになりました。
そこで改めて日本の様々な産業を眺め直したときに、医療に根深い問題があることが浮かび上がってきた。それを何とかしたいと考えたことが医療の仕事に取り組むきっかけになっています。
患者の声が反映されていない
吉田 具体的にいうとどういうことでしょう。
近藤 まずひとつは、受益者である患者さんの声が反映されていないということ。医療という世界では、一部の政治家、官庁と医療従事者が医療のあるべき姿を規定しています。患者さんの意向はそこに参加できない。これはおかしな話で、そこに私は問題意識を持たざるを得ませんでしたね。
第2は、日本が世界でも例を見ないスピードで高齢化が進んでいることです。このままの体制では、医療制度そのものを維持していくことが困難です。高齢化に対応した医療制度の構築は、世界共通の課題であり、日本の対応が世界の道しるべになりうる可能性もある。そこで新たな医療のあり方を模索するために東京大学で医療政策の講座を持つことにしました。
最初は1年間、本業を休んで取り組めば何とか形が見えてくると思っていた。ところがじっさいに日本の医療制度と対峙してみると、問題は根深くて、とても短期間では成果が出せないことに気づきました。そこで1年前からフルタイムで医療問題に取り組んでいるわけです。
吉田 医療という問題への取り組み方としては、患者の視点からそのあり方を変えていこうということですね。ところで医療に主体的に関わっている人は、ほとんどが私のように自分自身が病気になった、あるいは家族が病気を患ったという個人的な問題が出発点になっている。その点でジェームスさんはまったく違う世界から、困難な問題に自分から立ち向かっている。その姿勢には感心します。
近藤 医療という分野は、全ての人に関連する問題だと思います。私は今は健康ですが、いつかは病気になります。また、現時点でも、周りの大切な人々が医療の受益者です。親、兄弟、親族、友人など、誰でも見渡せば身近な人が必ず医療の世話になっています。
ただ、今の自分に直接的な関係がないと、他人事のように錯覚してしまうんですね。私にはその錯覚が日本の医療を不幸にしているように思えてなりません。教育もそうですが、医療も社会的なインフラです。多くの人が関心を持ち、自分の意見をいうことで、制度も整備されていく。その意味では、多くの人たちが持っている錯覚を是正していくことも私達の仕事といえるでしょうね。
患者の存在を無視してきた日本の医療
吉田 本論に入りたいと思います。まずジェームスさんが現在の医療制度をどう見ておられるのか。これまで書かれたものの中で、ジェームスさんは医療に関しては厚生労働省、医師会、自民党だけが政策の意思決定に参画し、患者にはまったく関与する余地がなかったと話をされていますね。
近藤 そのとおりです。もっとも、1970年頃までは、こうした意思決定システムはそれなりに効力を持っていたと思うんです。当時の医療は、感染症への対応が中心で、全国に展開されたクリニックで、抗生物質などの薬剤を用いて、早く見つけて早く治すということが医療の最大のテーマになっていましたからね。感染症では、医師主導で治療が行われ、それが患者や国民の利益にもつながっていたんです。
それがここ20、30年の間に疾病構造が一変し、がんをはじめとする生活習慣病への取り組みが医療の至上命題になり、患者と医療の関係もガラリと変わっています。かつてはかかりつけの医院で薬をもらえば、それで事足りていたのが、現在では、患者さんはかかりつけ医、専門医を中心とするシステムとしての医療とつき合わざるを得ないし、つき合いも長期化しており、また患者ごとの価値観も多様化しています。
そうなると、当然のこととして、患者さんの個別の価値観、意向というものを医療に反映させる必要が出てきます。しかし、残念ながら、そうした状況変化に制度が追いついていないのが実情ですね。
吉田 小泉政権下の改革路線で少しは状況が変わったようにも思いますが……。
近藤 そうですね。最近になって未承認薬の問題、混合診療の問題、さらにがん情報センターの問題など、さまざまな問題提起が行われています。小泉首相が提唱する改革路線といわゆる抵抗勢力が拮抗するなかで、従来の医療の意思決定プロセスに変化が生じ、その過程で患者の声が拾い上げられる機会が生じてきているわけです。
1つひとつの議論の是非はありますが、こうした議論が総体として、現在の硬直化した医療制度を変革させるための突破口にはなり得る可能性は大きいと感じています。というか、患者の意向を反映した医療を構築するためには、そうしなくてはならないと思っています。
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