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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・佐々木常雄さん
腫瘍に精通したホームドクターが増え、チーム医療が充実すれば、がんの在宅治療は定着する!
佐々木常雄
ささき つねお
1945年、山形県生まれ。弘前大学医学部卒業。国立がん研究センターを経て、1975年より東京都立駒込病院化学療法科勤務。現、副院長。日本胃癌学会理事、胃癌治療ガイドライン作成委員会委員長、日本癌治療学会抗がん剤適正使用ガイドライン作製委員、がん集中的治療財団理事。がんの化学療法のパイオニアであり第一人者。
田原節子
たはら せつこ
エッセイスト。1936年東京に生まれる。早稲田大学文学部卒業後、日本テレビに入社。アナウンサーとして17年、CMプロデューサーとして10年勤務した後退社。現在は田原事務所代表を務める。乳がんを中心に医療、そして女性問題をテーマに各方面で執筆活動を行っている。98年10月に乳がんを発症、再発転移はあるが、満5年生存を超えた。
化学療法の説明は家族だけでなく必ず本人に
田原 私も現在、化学療法を受けている身ですが、化学療法のパイオニアであり第一人者でいらっしゃる佐々木さんに、化学療法を受ける心がまえなどについてうかがいたいと思います。
それともう一つうかがいたいのは、在宅治療についてです。佐々木さんが勤務されている都立駒込病院は、在宅医療にも積極的ですね。がんで在宅治療を受けるとはどういうことなのか。私自身、在宅ケアが治療のうえでとても重要な選択の一つだと思いますが、どういうときに化学療法を受けるべきでしょうか。できるだけくわしくお聞きしたいと思います。
まず、化学療法ですが、患者はどんなことを心がければ、効果的に化学療法を受けられるのでしょうか。
佐々木 一番大切なのは、患者さん本人が病気について理解することだと思います。その点、田原さんのご著書に、今日お話ししようと思ったことが全部書いてありました(笑)。
田原 本当ですか。
佐々木 がんという病気の場合、最初の段階で患者さん本人が充分納得して、お互いに言いたいことをみんな言いあってスタートしないと、なかなかうまくいかないと。
田原 コミュニケーションは難しいのね。本当に言いたいことを患者はなかなか言い出せない。本当に知りたいことを質問しにくい。
佐々木 それで今は、医師のレジデントたちに対しても、「診断がついたら、なるべく早くご本人とご家族と一緒に説明をしなさい」と指導しています。
がん告知とほぼ同時に化学療法=抗がん剤治療について説明しなくてはならないケースは、進行がん、手術不能がんということが多いのですが、突然聞かされた患者さんはびっくりして頭が真っ白になってしまいます。説明を聞いても、化学療法まで頭に入らない方も少なくありません。それでも、ご自分のことですから、まず病気についてできるだけ冷静に理解していただくようにします。人によっては別な日に分けて、化学療法について説明するようにします。
田原 告知と説明はやはり本人にということですね。
佐々木 そうです。できればご家族が一緒のほうがいいのですが、レジデント・マニュアルの本には「家族に聞かれても、本人より先には話さない」とも書いてあるんです。ご家族から病名を隠したいという話が出てきたりしますから。抗がん剤治療は、つらくても本人が理解していないと、効果的に進めることはむずかしいと思います。副作用のこともあります。
ここで心配なのは、患者さんが真実を聞いて落ち込むことです。ご家族のサポートも大事ですが、医師や看護師の「私たちも一緒にがんばるよ」という熱意が伝わると、患者さんの心の元気は早くよみがえってくるように思います。
効く=治るではない 化学療法のむずかしさ
田原 がんになって初めて知ったことの一つに、「抗がん剤治療はトライ&エラー。実際に使ってみないと、このがんに効果があるかどうかわからない」というのがあります。普通、火傷には火傷の薬をつければ治るし、風邪には風邪薬が効きますね。私たちは薬=治るというイメージをもっています。でも、抗がん剤はそういう薬ではない。
つまり、化学療法とは、「治らないかもしれない」と理解して、医師と一緒にトライ&エラーしていくことなんですね。薬の性格から考えても、医療者を信頼して一緒に治療を進めるには、病状を正しく知ることが不可欠でしょうね。
佐々木 化学療法で、治るがんとなかなか困難ながんがあります。できれば自分のがんはどうなのかを主治医から聞いておきたいものです。「何十パーセントの方に効いた」と言うと、患者さんは「治る」と受け取ることが多い。化学療法で効いたというのは、「がんが半分以下になり、それが1カ月以上続いた場合」です。ですから、効いたといってもどう効いたのかを知っておきたいわけです。
田原 「抗がん剤は20パーセントの人に効く」という数字をはじめて見たときは、ショックでした。薬があえば100パーセント、でも、あわなかったら0。そして、その20パーセントに自分が入らないことを覚悟して、治療を受ける。がんは覚悟の病気だなあと思います。
佐々木 「余命6カ月」などと医師が言うのも、どうかと思います。この数字は生存の中央値といって、たとえばあるがんの治療で101人の人を生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の51人目の人が亡くなったのは半年くらいというデータなんですね。
実際はすごく長く生きる人もいれば、ずっと早く亡くなる人もいる。そういう説明をしないで「あと半年」と言うのは、単なる死の宣告です。その患者さんがどれ位生きられるかは誰もわからないのです。治療がうまくいって長年生きておられる方もたくさんいますし、生きていればまたいい薬が出てきてさらに長く生きられるのです。
田原 私自身は中央値を越えたとき、「ああ、うまく治療していただけた」と思いました。がんというのは本当に、薬と医師について、ものすごく考えさせられる病気ですね。
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