がん情報の上手な活用の仕方
〝情報戦〟の最前線にいる新聞記者として、自らも確かな情報を集めるがん患者として

文:本田麻由美 読売新聞記者
発行:2005年5月
更新:2014年1月

  
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ほんだ まゆみ
1991年お茶の水女子大学卒。同年、読売新聞社入社。東北総局(仙台)、厚生労働省記者クラブ、長期連載「医療ルネッサンス」などの担当を経て、2000年から社会保障部で、医療保険や介護保険制度の取材を担当している。
闘病体験をもとに、連載コラム「患者・記者の視点」を、読売新聞「くらし安心」面で2003年4月に開始。
伊ミラノに本部を置くNPO「European School of Oncology」が主催する「Awarding Cancer Enlightenment 2004 Special Award」、及び「第23回ファイザー医学記事賞優秀賞」を受賞した。
現在、タイトルを「がんと私」に改めて連載を継続中。

闘病は“情報戦”の時代

「現代の闘病は情報戦だ」

これは2年半前、作家の柳田邦男さんに取材した際、乳がん患者になって間もない私にアドバイスしてくれた言葉です。

当時、私は乳がんの手術を受けて3カ月が経ったころ。乳房温存手術でいいか、全摘手術が必要か、脇の下のリンパ節を郭清するか否か、術後治療はどうするか――などといった治療の選択を経験していました。そのたび、様々な情報を書籍やインターネットで調べては判断に悩むということを繰り返していただけに、この言葉はとても印象深く、心に刻まれました。その後も、局所再発が見つかるなどの病状の変化に応じて「効果と副作用を考えながら自分が納得できる治療法を選択していく」ことの難しさに直面するたびに、この言葉を思い出し、「情報戦をどう闘うか」ということの意味の重さを痛感しています。

その思いは、新聞でがんに関するコラムを連載するようになって、より強くなりました。読者から、「専門医はどこにいるのか」「この治療法でいいのでしょうか」などの相談がひっきりなしに寄せられ、“情報戦”の中で翻弄されている患者・家族の姿をまざまざと見せつけられるようになったからです。

新たな治療法や薬の研究・開発はどんどん進み、そうした多くの医療情報に、患者はインターネットなどを通して簡単に接することができるようになりました。それはプラスの面も多いのですが、現実には情報は玉石混交で、本当に患者が欲しいと思うものは整備されていないということもあります。また、調べれば調べるほど「どう判断したらいいのか」などと、不安に駆られてしまうということも多いのが実情です。納得して治療を受けていくためには、この“情報戦”を生き抜くためのコツが必要な時代になっていると実感しています。

情報をどう見極めるか

例えば、死亡率や術後生存率などの「治療成績」は、患者にとって病院選びの際に最も気になる情報の1つです。最近は、医療機関のホームページに「当病院の肺がんの5年生存率」などとして公表するケースも増えています。しかし、数字の出し方が統一されていないため、A病院とB病院の指標をそのまま単純比較しても意味がない場合も少なくありません。

こんなことになっている背景には、広告規制の問題があります。医療機関は医療法で、広告してもいい事項を「診療科名」や「専門医認定の有無」「手術件数」などに定められ、「治療成績」などは広告できないことになっています。

その理由を、厚生労働省の審議会は「医療機関が(治療成績を不当に上げるため)重症患者の受け入れを拒否したり危険度の高い手術をしなくなり、患者に不利益を与える恐れがあるから」としています。そのため、数字の出し方の基準などは決められていないのですが、一方で、ホームページは「広告ではない」と分類されているので、現実には医療機関がそれぞれ独自に公表を始めています。これでは、審議会の言い分は本末転倒です。逆に広告可能としてきちんと生存率などの算出基準を確立させ、統一させたほうが、患者に無用な混乱を与えないのではないかと思います。医療界には、こうした手法の統一化を早急に進めて欲しいですが、現時点では、治療成績の数字は「傾向が読める」程度のものと私は考えています。

最大の“武器”

写真:本田麻由美記者
現在は、社会保障部に所属する本田麻由美記者(手前)

治療法を考える際も、情報を見る目が問われます。ある大学病院のホームページで、その病院独自の「最新治療法で難治性がんの治療成績が大幅に向上した」などと、眉唾な数字を堂々と掲載しているのを見たこともあります。一般に信頼性が高いと思われる大学病院などでも、こうした実態があることに注意しなければなりません。

また有望な「最新治療法」でも必ずしも誰にでも有効という訳ではありません。

以前、新聞で「サイバーナイフ」という最先端の放射線治療を紹介した時には、「その病院を教えて」という電話が殺到しました。何人かに話を聞いてみると、まだ標準的な治療法の中に選択肢が幾つもあるにもかかわらず、「主治医に相談できず、とにかく不安なので最新治療がいいと思った」とのこと。患者にとって“最新”とか“最先端”という誘い文句は魅力的に見えますが、有望な治療法であっても自分の状況に適しているとは限りません。

実は私も、乳房全摘手術の決断に迷っていた時、最新治療ではないものの、ある大学の本で「乳頭温存乳房全摘手術」という手法を知りました。全摘は嫌だったこともあり、これなら我慢できるかも・・再建手術で膨らみを取り戻せば変わらないはずと考え、「これしかない!」と思い込んだのです。しかし、乳がんの標準治療に関するホームページなどを調べ、主治医にも相談するうちに、残念ながら私のがんの広がり方から適用は無理だと納得したという経験があります。一方で、主治医の最初の提案とは異なり、自分が勉強して納得できると考えた治療法を、話し合いの末、選んだこともあります。

様々な治療法が開発されているという期待が高まっている中、「主治医はすべての選択肢を提示してくれているのだろうか」「どこかに自分の知らない“もっといい方法”があるのではないか」と考えてしまいます。実際私も、主治医の最初の提案とは異なり自分が勉強して納得できると考えた治療法を、話し合いの末に選んだこともあります。日本では医師や医療機関によって治療法がまちまちであることが少なくなく、勉強不足の医師だっています。1人の医師がすべてを熟知することは不可能な状況にもなっています。だからこそ、信頼できるサイトで自分の病気の標準治療と選択肢を確認し、今受けている又は受けようとしている治療と比較して考えてみるというクセが必要だと、自分の体験から痛感しています。そのうえで、素人判断は危険なので、主治医のほか複数の医師に話を聞いて見極めることが大切です。このインフォームド・コンセントやセカンドオピニオンこそが、現代の情報戦を戦う最大の“武器”になるはずだと思います。


乳頭温存乳房全摘手術=乳首を温存して皮下乳腺を摘出する手術

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