味、形態、容量などを見極めて選択
栄養補助食品を利用して食べる意欲へつなげる
コンビニや薬局などでよく見かけるようになった栄養補助食品。がん治療中に、体重や食欲の低下から、こうした栄養補助食品を利用したいという患者は少なくない。たくさんの種類の中から、どの栄養補助食品を選び、どう役立てていけばよいのだろうか。
様々に出そろった 栄養補助食品やサプリメント
がんの症状や治療に伴って体重が減ったり、食欲が低下したり、吐き気のために食べられなくなったり……、これらは多くの患者さんが経験する。体力維持のためにもきちんと栄養を摂ることは大切だが、どうしても量的に食べられないとき、患者や家族が目を向けるのは栄養補助食品やサプリメントなどだろう。
今日、たくさんの栄養補助食品やサプリメントが薬局はもちろん、スーパーにもコンビニにも並び、インターネットでも販売されている。それはあまりに多種多彩で、「選択肢が多くてよかった」というレベルを明らかに超えている。
こうした栄養補助食品にはどんな種類があり、患者はどう選べば効率的に栄養補給ができるのか。国立がん研究センター東病院栄養管理室長の千歳はるかさんと、同管理栄養士の渡邊太一さんに聞いた。
「健康の保持や増進を目的とした食品は、大きく分けると医薬品と健康食品に分類できます。医薬品は病院で医師に処方してもらうもの、健康食品は薬局やコンビニで買えるものですが、健康食品には様々な名称のものがあります。種類も数年前、食品メーカーの方にドリンクタイプだけで数百種類と聞きましたが、今はさらに増えていると思いますし、通常のドリンクタイプ以外に、とろみのあるタイプなど、バリエーションが次々出て、とても全部は把握できないのが現状です」
日本は、10年後には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、超高齢社会を迎え、介護を要する人が急増する。こうした背景から、この市場に参入するメーカーが増えてきていると見られる。
医薬品、健康商品、「いわゆる健康食品」に分類
厚生労働省の「健康食品」のホームページを見ると、医薬品と健康食品に分けられ、健康食品はさらに保健機能食品と「いわゆる健康食品」に分けられている。
保健機能食品に分類されるのは❶機能性表示食品(届出制)、❷栄養機能食品(自己認証制)、❸特定保健用食品(個別許可制)の3つ(図1)。
❶はエビデンス(科学的根拠)のある機能性を表示しており、販売前に安全性や機能性の根拠についての情報が消費者庁長官へ届け出られたもの。
❷は1日に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど)の補給や補完のために利用する食品で、すでにエビデンスが確認された栄養成分を一定量含む場合、届出なしに機能性を表示できる。
❸はいわゆるトクホで、健康の維持増進に役立つことがエビデンスに基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」といった表示が許可されている。効果や安全性を国が審査し、食品ごとに消費者庁長官によって許可されている。
そして、それ以外の分類できないものが総称して「いわゆる健康食品」と呼ばれているようだ。分類されない栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品などと表示されているものは、すべてこの「いわゆる健康食品」、あるいは一般食品として分類されている(*)。
また、錠剤などの形をしていることの多いサプリメントも、実はその多くがこの仲間だ。なお、ドリンクタイプのものを一般に「栄養剤」と呼ぶこともあるが、これもよく考えると「いわゆる健康食品」の仲間。本当に栄養を補給する「剤」は当然、医薬品であり医師が処方するものなので、ここでいう栄養補助食品とは一線を画す。
*本稿では一般的に栄養を補給するための食品を「栄養補助食品」としている
エネルギーが摂れて おいしいことが基本
そもそも体重が低下したり、食事が摂れないがん患者に「栄養を補助する」というとき、この栄養は何を指しているのだろうか?千歳さんは次のように述べる。
「エネルギーとタンパク質ですね。エネルギーは体調を維持し、活動するために必ず必要なもの。タンパク質は体の組織の基本になるものです。この2つは十分摂る必要があります」
この2つに各種ビタミンやミネラルなどをバランスよく加えた栄養補助食品が数多く出回っている(写真2)。
また、特定の栄養素が強化されたものも多い。例えば、鉄や亜鉛などの微量元素は褥瘡の予防、治療に必要。しかし、食事の量が減ると不足しやすくなってしまうため、これらを強化したものも多くある。このほか、便通のコントロールを目指して、食物繊維やオリゴ糖をプラスしたものなども。
さらに、炎症を鎮めるとされる魚油の成分を配合し、暗黙裡にがん患者をターゲットにした商品なども最近は増えているとのことだ。
では、そんな中から自分にあった食品を選ぶには、何を重視したらいいのだろうか。ポイントは「何より味」と千歳さんは言う。
「とにかく摂取することが大事ですから、最優先するのはおいしく食べられること。例えば、栄養が強化された食品の中には、味が落ちるものもあります。そうした食品を食べ続けるのは難しい。今は多様な味が揃っているので、ヨーグルト味、コーヒー味など、その患者さんが食べ慣れている味に近いものを勧めたり、甘いのが苦手な方にコーンスープ味を勧めたりしています。おやつとして、抵抗なく食べられるものを利用してもよいと思います」
渡邊さんも次のように述べる。
「患者さんの中には『入院中の栄養剤はバニラ味しか出なかったけど、退院して薬局に行ったら、フレーバーが5つもあって、別の味が欲しかった』という方もいます。そういうときは医師に頼んで、好みのフレーバーを処方箋に書いてもらうと、好きな味がもらえるはずです」
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