切除不能膵がん 抗がん薬の新しい治療戦略
効果の高い治療法が登場し、切除不能膵がんの選択肢が増える
大川伸一さん
膵臓は胃の裏側の後腹膜にあるため、がんの早期発見が難しく、年間発症する約3万人のうち、手術を受けられる人は約2割だ。切除不能進行がんの治療では、根治を望めないまでも延命を図るための模索が行われており、昨年(2013年)12月に新しい治療法FOLFIRINOXが承認された。それに続く治療薬の動向も紹介する。
新たな治療法 FOLFIRINOXとは
切除不能膵がんの化学療法には、これまでの標準治療としては、2001年に承認された*ジェムザールという薬が、ずっと使われてきた。さらに2006年に*TS-1、昨今では*タルセバも加わった。そこへ昨年12月、*FOLFIRINOXという治療法が保険承認された。これが最近の大きなトピックだ。
FOLFIRINOXとは、大腸がんで有名な治療法であるFOLFOXという3剤併用の治療法に*イリノテカンを追加したもので、*5-FU、*ロイコボリン、イリノテカン、*エルプラットという4つの薬を組み合わせて投与する治療法だ。
海外で実施されたACCORD11という試験では、転移性膵がんに対するFOLFIRINOX群とジェムザール群との治療効果が比較された。結果、全生存期間(OS)中央値は、11.1カ月対6.8カ月、無増悪生存期間(PFS)中央値は、6.4カ月対3.3カ月、さらに、全奏効率(完全奏効率CR+部分奏効率PR) は31.6%対9.4%でいずれもFOLFIRINOX群のほうが高い有効性が示されたのだ(表1)。
その後、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)および、全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)のガイドラインに収載され、日本では、その結果を踏まえて、2011年9月、日本臨床腫瘍学会と日本膵臓学会と患者会パンキャンジャパンが、適応拡大を求める嘆願書を厚生労働省に提出した。そして、膵がんの遠隔転移の症例を対象にした第Ⅱ相試験が行われた結果、38.9%という奏効率が得られて薬事(製造販売)承認されたのだ。
神奈川県立がんセンター副院長/消化器内科部長の大川伸一さんは、FOLFIRINOXの治験に携わり、その後昨年の承認以来、約30例実施している。この治療法について、次のように説明する。
「4剤を使用するため効果の切れ味はよく、試験の結果での奏効率38.9%の実感はあります。ジェムザールやTS-1の腫瘍縮小効果が10%前後であるのに比べると明らかな縮小効果があります。ただし、日本人において腫瘍が縮小することが延命につながるかどうかは、また別の問題であり、生存率の評価については今後2、3年から5年間など、もう少し長期の観察が必要になります」
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *タルセバ=一般名エルロチニブ *FOLFIRINOX=4つの抗がん薬名(FOL:ホリナートカルシウム、F:フルオロウラシル、IRIN:イリノテカン、OX:オキサリプラチン、それぞれ一般名)の頭文字を組み合わせた略称 *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン *5-FU=一般名フルオロウラシル *ロイコボリン=一般名レボホリナートカルシウム
*エルプラット=一般名オキサリプラチン
どのような患者さんに使える治療法か
今後、効果が期待できそうなFOLFIRINOXだが、一方では、患者さんへの適応は慎重を期し、副作用の管理も重要だと大川さんが指摘する(表2)。
「現在、当院で適応としているのは原則として、70歳未満の患者さんで、全身状態(PS)が0~1などいくつかの要件を満たした、『元気な患者さん』です。そうすると適応できる患者さんは3割弱といったところです」
治療に入る前の患者さんへの説明では、ジェムザールとの治療成績の比較や副作用について詳細に説明する。さらに、中心静脈からの投与であるため、鎖骨部の皮下にポートを留置する手術が必要なことも伝え、患者さんの希望を聞く。これらの説明を受けて躊躇する患者さんも少なからずいるという。
加えて、代謝酵素であるUGT1A1の遺伝子多型UGT1A1*28またはUGT1A1*6のホモ接合体(UGT1A1*28*28,*6*6)、あるいは複合ヘテロ接合体(UGT1A1*6*28)を持つ人の場合、イリノテカンの副作用が強く出る可能性があるため、治療適応にならないという。
「したがって、UGT1A1を治療前に調べることは必須です。この変異は10%弱の人にあります」
他には黄疸、肺機能低下、臓器機能低下、喫煙者なども治療適応外となる。
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