ACPを繰り返して、患者との信頼関係を構築
積極的な薬物治療をいつ中止するか
近年、抗がん治療は急速に進歩。がん薬物療法の効果も目を見張るほど発展し,選択肢も着実に増加している。それに伴い課題も増えてきており、「いつまで、どこまでがん薬物療法を行うか」もその1つとなっている。診断早期からの緩和ケアの導入が延命やQOL(生活の質)の改善に役立つとの報告がある一方で、積極的治療を中止し、完全なBSC(ベスト・サポーティブ・ケア)への移行をいつ行うべきかという判断目安やそれに関するガイドラインは今のところ存在しない。実臨床において、いつまで薬物療法を行うべきなのかを判断することは、患者および医療者のいずれにとっても難しい問題となっている。この課題に対する医療者側からみた見解をうかがった。
薬物療法の位置づけ-あくまでも延命治療
現在、あらゆる固形がんにおいて、手術や根治のための放射線照射ができない進行再発がんと告げられた場合には、薬物療法を受けることになるが、残念ながら根治を望むことはできないのが現状であり、延命治療という位置づけになる。治療目的はがんを治すことではなく、薬物療法によるがんの制御と患者の延命を目指すことになる。
治療を円滑に進めていくためには患者が自分の状況を知ることは大切だ。しかし、患者の中には進行再発がんであることを告知された時に、“根治はできません”と医師から言われたとしてもその意味を十分に理解しているとは言い難い人も多い。
「進行再発がんであっても、患者さんには症状が現れていないことも多く、そのような方はお元気な状態です。がんだと宣告されたことは理解されてショックも大きいと思いますが、それ以外のことについてはよく聞こえていなかったり、覚えていないことが多いのです」
そう説明するのは、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科講師の市川靖子さんだ。
市川さんが医学専門誌に『主治医は積極的治療をどこまで続けたいと考えるか、その決断について』と題して寄稿している記事の中では、IV期のがん患者で、根治しないということを理解していない患者が肺がんでは69%、大腸がんでは81%に上るという海外論文のデータを示している(図1)。
「がんは高血圧や糖尿病などと同じ慢性の疾患です。慢性疾患は原則根治しないため、薬でコントロールしながら一生付き合っていくことになるわけです。内科の先生も治るとは言わず、“付き合っていきましょう“と言うはずです。がんも同じです。ただ唯一違うのは、がんは悪性で命に関わるという点です。特にIV期ともなると、長短はあるにしろ最終的には神に召されてしまうということです。でも告知された時点では患者さん自身は想像もできないと思います。ですからやはり“がんとお付き合いしましょう”と話します。治らないからといって明日どうなるということではないということを理解していただくようにします」
治療中止決定までの平均日数は24日
市川さんは腫瘍内科医として日々治療に当たる中で、早期緩和ケア導入の大切さを訴え、がん治療中の患者がうまく生きていくためには医療者がどう関わるべきかを説き続けている。
「化学療法はがんを抑えるための積極的治療ですが、私は緩和医療の1つだと考えています。ただ患者さんは緩和ケア、緩和医療という言葉に敏感で、緩和ケア=終末期というイメージを持っている方が多いので、そこをどう理解していただくかが重要です」
現在、がん医療の現場では、がんがわかった段階からがんにまつわる苦痛や抗がん治療を通じて起こる苦痛を取り除くための治療として、がん治療と併行して緩和医療を行うべきだと言われている。ただし、一般的にはまだまだその認識が薄いのだ。
2017年6月に横浜で開催された日本緩和医療学会での合同企画シンポジウム『抗がん治療が終了するとどうなりますか?~医療者が患者のためにできる最適な医療の在り方を考える~』で、市川さんは『がん治療中の患者とともに上手に生きていくために~治療医の立場でできること』という発表をした。そこでは、同院腫瘍内科のデータとして、2014年1月1日から12月31日の1年間に薬物療法を行い、最終投与から2015年12月31日まで投与なしの薬物療法を行わなかった進行肺がん患者38人について後ろ向きに解析したものを提示した。その結果は、治療中止までの既治療レジメン数の中央値は3、薬物療法最終投与から治療中止決定までの平均日数は24日、治療中止から死亡までの日数の中央値は41日だった(図2)。
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