がん患者が安心して上手に抗がん剤を使う個人輸入手引書
個人輸入で入手した日本で未承認の代表的抗がん剤
世界60カ国で承認された薬が承認されない不思議
欧米先進国はもとより、世界でごく当たり前に用いられて病気を改善したり延命したりしている世界標準のがん治療薬。ところが日本では、こんな薬すらも使えなくて病院や医師から見放され、路頭に迷っているがん患者が多い。
たとえばエロキサチン(一般名オキサリプラチン)という抗がん剤。8年前の1996年にフランスで、続いて2002年にアメリカで発売され、いまでは世界60カ国以上で承認されている、名実ともに進行・再発大腸がんの世界標準の治療薬だ。このエロキサチンを用いたFOLFOX療法(エロキサチン+5-FU+ロイコボリン)は、従来の標準治療であるIFL療法(イリノテカン+5-FU+ロイコボリン)よりも、奏効率をはじめ、効いた患者の再発までの期間、生存率、いずれも上回っている。当然ながらエロキサチンは欧米では進行・再発大腸がんの第1選択の抗がん剤だ。
ところが、日本ではこのエロキサチンが厚生労働省で承認されていない。そのため、日本のがん患者はこの世界標準治療のFOLFOX療法を受けられない。従来の抗がん剤治療で大腸がんの進行が抑えられなくなると、次の有力な方法が尽き、抗がん剤治療自体を断念せざるを得ないのだ。京都大学医学部教授の福島雅典さんによれば、「日本では、欧米でスタンダードとして使用されている抗がん剤(101種類)の約3割、32種類が未承認のままです」と指摘する。保険に適応されていない抗がん剤まで入れると約70種類にのぼり、依然として日本のがん患者は厳しい環境に置かれている。
しかし、そうした日本の患者にも救いの手はある。それが未承認抗がん剤の個人輸入という方法である。
未承認抗がん剤の個人輸入を積極的にサポートするレメディ・アンド・ヘルスコーポレーション(RHC)やアイアールエックス・メディシン(iRx)、ボストン・トレイダーズ等の個人輸入代行サービス会社によると、現在、個人輸入される抗がん剤とがん治療薬の種類は30近くに及び、その輸入量も増加しているという。
「これまで私どもに依頼されてこられた医師は1143名、クリニックや病院の数は962にのぼります」とRHC代表であるヨン・サ・リムさんは言う。
個人輸入に協力してくれる医師を紹介するサービスも
未承認抗がん剤を海外から輸入するには、いくつかの方法がある。患者とその家族や医師が海外の製薬会社から直接輸入することも可能だが、簡便なのは、個人輸入代行サービス会社等へ依頼して購入することだ。
ただし、個人輸入代行サービスでは医師の依頼しか受けつけないところもある。その場合、患者は自分の主治医に未承認抗がん剤の個人輸入を依頼し了解してもらうことが必要となる。主治医の了解が得られないときは、個人輸入に協力してくれる医師を探さねばならない。ボストン・トレイダーズでは、そのような患者や家族に、了解の得られる医師を紹介もしている。
「未承認抗がん剤の個人輸入と治療に協力してもらえる医師は、東京をはじめ、大阪、京都、愛知、福岡、札幌などにいます。患者さんにそうした医師を紹介しています」とボストン・トレイダーズの代表の楳崎宏樹さんは言う。
個人輸入代行サービス会社が代行するのは、海外の製薬会社や薬問屋、薬局などへの抗がん剤の発注と送付依頼、そして厚生労働省から薬監証明を発給してもらうための申請手続きと、税関へ薬監証明を提出する手続きだ。輸入する抗がん剤は輸入当事者個人が使用するもので、販売譲渡を目的とするものではないことの証明書が薬監証明である。ただし、輸入する抗がん剤が1カ月分以内の使用量で、かつ患者が直接依頼する場合、薬監証明は必要とされない。
未承認抗がん剤を個人輸入するときは、まず個人輸入代行サービス会社に購入希望の抗がん剤やがん治療薬を扱っているか否かを電話やファクス、メールで問い合わせてみることから始める。取り扱っているときは、(1)抗がん剤の薬剤価格はもちろん、(2)国際宅急便等の輸送費、(3)関税と通関手数料、(4)薬監証明取得費等の諸費用、(5)消費税を含めたトータルな費用の見積もりも出してもらうことだ。個々の個人輸入代行サービス会社によって、薬剤価格をはじめ、輸送費、薬監証明取得費等の諸費用が異なるからだ。たとえばエロキサチン(100ミリグラム)の薬剤価格はRHCが10万6871円、iRxが11万968円だが、それ以外に輸送費等の諸費用も違うので購入費用の全額は異なってくる。為替の変動によって価格が変わることも忘れてはならない。
また、購入希望の抗がん剤が、海外から届けられるまでの日数も確かめておかねばならない。通常は1~2週間で海外の発注先の薬問屋等から直接、医師や患者へ国際宅急便等で届けられるが、ものによってはそれ以上の日数を要することもある。
依頼する個人輸入代行サービス会社が決まったら、次は正式な発注である。
発注するときは電話かファクス、メールで行う。発注を受けた個人輸入代行サービス会社は、折り返し正式な注文書と個人輸入のための所定の書類を送ってくる。所定の書類は(1)商品説明書、(2)輸入報告書、(3)仕入書のコピー、(4)航空貨物運送状のコピー、(5)委任状、(6)必要理由書で、それぞれの書類に書き込み、(7)医師免許証のコピーと一緒に個人輸入代行サービス会社へ返送すれば発注は完了する。
患者や家族の発注を受けつける個人輸入代行サービス会社に依頼する場合、先述の(6)必要理由書と(7)医師免許証のコピーの代わりに、(8)医師の服用指示書を添付する必要がある。
抗がん剤に精通した医師の協力が不可欠
未承認抗がん剤の個人輸入は、日本のがん患者が世界標準とされる化学療法を受けるための現実的方法だが、そこには大きな落とし穴もある。
「アメリカでは化学療法の専門教育と訓練を受け、国家試験に受かった腫瘍内科医しか抗がん剤を扱えません。エロキサチンには独特の神経毒性、アバスチンは傷が治りにくい等特有の副作用があります。抗がん剤、がん治療に精通した医師による投与が望ましいでしょう」と癌研究会付属病院化学療法科医局長の水沼信之さんは警鐘を鳴らす。
実際、抗がん剤は個々の患者ごとに適切かつ十分な量を、きちんとしたスケジュールで投与しない限り、しっかりとした治療効果を得るのは難しい。副作用を抑える支持療法を十分に行うと同時に、患者の全身状態や副作用の発現程度などを考慮しながら適切に投与量や投与スケジュールの調整が求められる。
一方、抗がん剤の副作用を恐れるあまり、その投与量が少ないと治療効果はほとんど得られず、副作用を招く毒性のみが身体に蓄積されることになる。世界標準の化学療法に精通した医師に、個人輸入した抗がん剤による治療を依頼することが不可欠だ。
最近は未承認抗がん剤の個人輸入と治療を積極的に行う医師も増えつつある。千葉健生病院内科科長の今村貴樹さんもその1人。
「私のところでは現在、大腸がんや脳腫瘍、骨髄腫、肺がん、卵巣がん、胸膜中皮腫などの患者さんに、個人輸入した未承認抗がん剤で治療しています。ほとんどが進行がん、再発がんの患者さんで、がんセンターや大学病院などで『治療の手が尽きた』といわれ、世界標準治療に望みをつないでいます」
今村さんは「癌を語る会」のホームページで、自ら翻訳した未承認抗がん剤の海外における治験データや投与方法、副作用等を掲載した「癌情報アーカイブ」を公開している。地方のがん患者には、今村さん自らのネットワークを活用し、数多くの医師の協力を仰ぎ、未承認抗がん剤による治療の普及をはかっている。
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