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化学療法と栄養療法併用で予後改善にも期待
栄養改善で元気回復!膵がん化学療法継続の秘訣

監修:庄 雅之 奈良県立医科大学消化器・総合外科学准教授
取材・文:増山育子
発行:2012年6月
更新:2014年11月

  

庄雅之さん 「化学療法継続とQOL維持に栄養療法が大切です」と話す、
庄雅之さん

がんを治療するための化学療法にもかかわらず、それによって全身状態を悪化させる場合が少なくない。
とくに、栄養低下が深刻な膵がんの患者さんでは化学療法の継続・完遂が難しい。
そんななか、化学療法と並行して行う栄養療法の成果が期待される。

膵がん患者さんは栄養低下が深刻

[図1 膵がんの化学療法に、なぜ栄養サポートが必要なのか]
膵がんの化学療法に、なぜ栄養サポートが必要なのか

膵がんでは消化酵素が不足し、また整腸作用が損なわれることから消化吸収不良が起こる。その上、化学療法の副作用により、吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振などがあらわれることで栄養摂取が難しくなる

がんの進行に伴う体重減少は、多くの患者さんが経験する。とくに消化器のがん患者さんでその傾向が顕著だが、なかでも膵がん患者さんは診断されたときから痩せていて、栄養状態が悪いことも多い。

膵臓では食べ物の消化吸収を助ける膵液が作られるが、がんができると膵液の流れが途絶え、膵臓から出る消化酵素が不足する。また、がんが神経を侵食していくために整腸作用が損なわれる。このように膵臓の働きが障害されることで、消化吸収不良が容易に起こるのだ。

さらに膵がん自体も消化吸収不良を引き起こすといわれている。奈良県立医科大学消化器・総合外科学准教授の庄雅之さんは次のように説明する。

「がん細胞がサイトカイン()という炎症を誘発する物質を放出しており、がん患者さんの体内ではずっと炎症が続いているような状態にあるといえます。それだけエネルギーが消費されるのです」

つまり腫瘍側がわの因子と膵臓の機能障害との両方の理由から消化吸収不良が生じ、低タンパク、低アルブミン血症といわれる低栄養状態となるわけだ。

「その上、治療で用いる抗がん剤による吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振、味覚異常などが、栄養状態をさらに悪化させることがあります。膵がんでは低栄養が原因の腹水もたまりやすく、むくみも出やすい。むくみが出ると食欲が落ち、ますます栄養摂取が困難になります。そこで、この悪循環を断ち切る方法はないかと、奈良県立医大病院では栄養療法に取り組みはじめました(図1)」

サイトカイン=細胞から分泌されるタンパク質で、免疫や炎症に関わるものが多い

抗がん剤の効果が期待できるようになった膵がん

ここで膵がんの抗がん剤治療についてまとめておこう。膵がんは進行した状態で発見され、手術ができないケースが大半を占める。したがって膵がんの治療に化学療法は必須だ。

膵がんで使われる薬剤は、TS-1()、ジェムザール()、タルセバ()。それぞれ単剤で用いるのと、ジェムザールとタルセバ、ジェムザールとTS-1を組み合わせることもある。

切除手術を受けた患者さんに対しては、術後補助療法としてジェムザールの投与も有効とされている。庄さんによると、それでもなお不十分で、手術前にできることはないかと、術前の化学療法・化学放射線療法の試験が国内外で進行中だという。

「膵がん治療に新しい抗がん剤が導入され、化学療法をやり終えられるか、継続できるかどうかが余命を左右するようになりました。また抗がん剤治療でがんが縮小すれば、手術で根治させることに期待が持てるのです」

と庄さんは話す。

そこで重要になってくるのが化学療法を乗り切る、継続するための支持療法だ。栄養療法はその1つである。

「術後の化学療法となると、手術で衰弱しているところに抗がん剤治療が上乗せされるので、予後を改善するための治療なのに、さらに全身状態の悪化に至ることもあり得ます。したがって、化学療法を完遂させるための栄養療法の介入は意味あるものだと考えています」

TS-1では、高頻度にあらわれる食欲不振や、腸粘膜が傷つくことで起こる下痢が問題になる。ジェムザールでは、食欲不振は比較的軽度だが食べにくさはある。

「栄養状態をよく保つことは、日常生活の維持と抗がん剤治療の継続につながります」

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
ジェムザール=一般名ゲムシタビン
タルセバ=一般名エルロチニブ

管理栄養士による個別指導でサポート

奈良県立医大病院が実施している栄養療法は、膵がん患者さんへの成分栄養剤の処方と管理栄養士による個別栄養指導だ(写真2)。

庄さんは外来で患者さんから「何を食べたらいいのか」とよく質問される。なかには「肉類は一切ダメ」と極端な制限をしている患者さんも少なくないという。

「制限よりも、おいしく、食べられるだけ食べることが目標です。特別な食材や調理法は必要ありません」

希望された場合、患者さんと食事を用意する家族が、食の専門家である管理栄養士と約45分程度個別面談する。この個別栄養指導は食事についての誤解を正したり、食生活の意識を変えたり、食事療法への理解を促すとして患者さんから好評だ(図3)。

[写真2]
個別栄養指導

患者さんと家族と管理栄養士による個別栄養指導は、時間をかけて患者さんにアドバイスを行っている

[図3 奈良県立医大病院実施の栄養療法に寄せられた感想]
奈良県立医大病院実施の栄養療法に寄せられた感想

6割以上の患者さんが、栄養指導により体調の改善を示した


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