ASCO2012レポート 経口抗がん剤の効果など日本発の臨床試験データが注目を集めた「肺がん/大腸がん/胃がん」の化学療法に関する最新情報
進行非小細胞肺がんの初回薬物療法として標準治療に劣らない成績を示した経口薬「TS-1」の併用療法、大腸がんの術後補助化学療法として標準薬に劣らない効果を示した経口薬「UFT」の併用療法、胃がんの2次治療に関する最新データなど、注目された3つの発表をレポートする。
進行肺がんの初回薬物療法にTS-1の併用療法
日本で行われた臨床試験の結果が注目を集めました。1つは、進行した非小細胞肺がんに対する〈TS-1(*)+シスプラチン(*)療法〉の効果を調べた、CATS試験と呼ばれている臨床試験の報告です。
CATS試験で比較対象として選ばれたのは、世界的な標準治療の〈タキソテール(*)+シスプラチン(*)療法〉です。タキソテールは第3世代薬に分類される抗がん剤ですが、第2世代薬レジメンとの比較試験で、生存期間ではっきり差をつけた第3世代薬レジメンは、〈タキソテール+シスプラチン療法〉しかありません。
一方、TS-1は日本で開発された経口抗がん剤。世界標準治療の1つである相手にどんな結果を出すか、この臨床試験の結果は、期待を込めて待たれていました。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
*タキソテール=商品名ドセタキセル
生存期間の比較で非劣性が証明された
試験の対象となったのは、ステージ3Bとステージ4の非小細胞肺がんで、まだ化学療法を受けていない患者さんたち608人を〈タキソテール+シスプラチン群=以下タキソテール群〉と〈TS-1+シスプラチン群=以下TS-1群〉で比較することになっていました。
〈タキソテール群〉は、タキソテールとシスプラチンを、それぞれ点滴で3週間に1回投与。これを6回投与しました。投与量は、タキソテールが60㎎(体表面積1㎡あたり・以下同)、シスプラチンが80㎎です。
〈TS-1群〉は、TS-1を3週連日服薬後2週休薬し、シスプラチンは8日目に点滴します。これを6回行いました。服薬量は、TS-1が1日80㎎で、シスプラチンが60㎎。シスプラチンの投与量は、〈TS-1群〉のほうが少なかったことになります。
両群の生存期間(中央値)を比較すると、〈タキソテール群〉が17.1カ月、〈TS-1群〉が16.1カ月でした。この結果から、〈TS-1+シスプラチン療法〉は、標準治療の1つである〈タキソテール+シスプラチン療法〉に対して、統計学的に劣っていないことが証明されたのです。
脱毛や好中球減少などの副作用が起こりにくい
副作用は、それぞれの治療法の特徴が現れていました。とくに差が大きく、統計学的に有意差があると認められたものの1つが、グレード3~4(比較的重症)の好中球減少です。〈TS-1群〉の発現率22.9%に対し、〈タキソテール群〉は73.4%と、多くの患者さんで起きていました。
また、発熱性好中球減少は1.0%対7.4%、グレード3~4の感染症も5.3%対14.5%で〈TS-1群〉が少ないという結果でした。
もう1つ、副作用で大きな差があったのが脱毛でした。〈TS-1群〉の12.3%に対し、〈タキソテール群〉は59.3%。患者さんの精神的な負担も考えると、大きな差だといえるでしょう。
この臨床試験では、QOL(生活の質)についても調べています。時点1(1コース目投与開始前)、時点2(1コース目シスプラチン投与1週間後)、時点3(2コース目終了時)の各時点におけるQOLを両群で比較しているのです。
結果は、副作用が影響する時点2のQOLは、〈TS-1群〉より〈タキソテール群〉のほうが低下しており、治療効果が影響する時点3のQOLは、両群が同程度になっていました。
この結果から〈TS-1+シスプラチン療法〉は、生活の質をあまり下げずに、標準治療と同等の効果が得られる治療法だといえそうです。
初回薬物療法の新たな標準治療
CATS試験が明らかにしたのは、〈TS-1+シスプラチン療法〉の生存期間を延長する効果は、標準治療である〈タキソテール+シスプラチン療法〉に劣らないということです。効果が劣らないのであれば、副作用が軽く、QOLを低下させず、通院などの利便性に優れた治療法のほうがいい可能性があります。
副作用やQOLに関しては、前述したように、〈TS-1+シスプラチン療法〉のほうがよさそうです。
通院に関しては、〈タキソテール+シスプラチン療法〉は3週に1回の点滴、〈TS-1+シスプラチン療法〉はTS-1が経口剤なので、5週に1回の点滴ですみます。
また、シスプラチンは通常3日ほど入院して投与されますが、〈TS-1+シスプラチン療法〉では投与量が少ないため、将来的には入院しないで治療できるかもしれませんので、利便性の点で大きなメリットになります。
この研究報告は、「TS-1+シスプラチン併用療法は、進行非小細胞肺がんに対する初回薬物療法として標準治療となり得る」と結論づけています。
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