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進行すると体重・筋肉量減少を引き起こすので要注意

長引く咳は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を疑うことが重要

監修●滝口裕一 千葉大学大学院医学研究院先端化学療法学/医学部付属病院臨床腫瘍部教授
取材・文●半沢裕子
発行:2015年12月
更新:2016年2月

  

「がんになってからでも禁煙は重要です」と語る滝口裕一さん

肺疾患の中でも潜在患者が530万人以上と推測されている慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙歴が深く関係している病気。高齢者になるほど有病率が高く、COPDを併存していても気づいていないがん患者が少なくないという。COPDの症状や治療法、がん治療への影響や治療中に注意することなどについてレポートする。

男性では死因の第8位という深刻な病気

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺気腫と慢性気管支炎を含む疾患概念で、気管支の末端や肺胞で空気の出し入れができなくなったり、血液のガス交換に障害が起こり、呼吸が十分行えなくなる病気だ。

「原因の90%は喫煙」と千葉大学大学院医学研究院先端化学療法学教授の滝口裕一さんは説明する。

「主な自覚症状は咳、痰、体を動かしたときの息切れなどですが、患者さんは『タバコを吸っている(いた)せい』と考え、病気に気づきにくいのが特徴です」

日本には潜在患者が530万人以上と推測されているが、治療を受けている人が5%に満たないのもそのため。実際には深刻な病気で、ゆっくり進行し、次第に重症化する。一度呼吸機能が悪くなると、元には戻らない不可逆性の疾患だ。

2014年の人口動態統計では、COPDによる死亡者数は約1万6,000人(図1)。全死因の第10位、男性の第8位を占めている。今後もこの順位は上がっていくだろうと推測されている。

図1 日本における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の死亡者数(1996-2014年)

厚生労働省 人口動態統計

がんの患者の中にも、COPDを併存している人は少なくない。合併併存率が最も高いのは肺がんであり、その頻度が38%ということを、滝口さん自身のチームがプロスペクティブ(前方視的)研究で検証している。また、喫煙者に多い食道がん、口腔がんなどの頭頸部がんでもCOPDの合併併存率は高いと推測されているが、それ以外のがん種でも喫煙経験のある人は合併併存している可能性が高いと考えられている。

では、その場合はどのように治療を進めればいいのだろうか。また、患者さんや家族はどんなことに気をつけたらいいのか。そのことに触れる前に、COPDとはどんな病気か、もう少し詳しく見ておこう。

プロスペクティブ(前方視的)研究=最初に健康な人の集団の生活習慣などを調査し、この集団を未来に向かって追跡調査し、あとから発生する疾病を確認する研究

進行すると がんと同じく悪液質を引き起こす

表2 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の重症度ごとの症状

「健康な肺をスポンジとすると、COPDの進んだ肺はヘチマです。肺胞が壊れ、肺胞同士がくっついて網目が粗くなります」

と滝口さんはいう。主にタバコ、そのほか職業で吸い込む塵埃や大気中の有害物質(例えばPM2.5など)が気管支や肺胞に炎症を引き起こし、気管支が狭くなったり、肺胞の組織や血管が壊れて酸素が受け取れなくなったりすると考えられている。さらに、肺の弾力性がなくなり、伸びきった風船のようになるので、空気を吸い込めても十分吐き出すことができなくなる。

「吸い込んだ空気の80%しか吐けない、次も80%、次も80%と続くと、どんどん肺が伸びきってしまい、途中で休んで大きな息をつかないと苦しくなります。重症になると慢性呼吸不全状態になり、体に酸素が十分に送られず、心臓にも負担がかかるようになります」

心臓への負担は、肺に血液を送り出している右心室の働きが悪くなるからだ。中には心不全を起こすこともある。症状は咳や痰などのほか、気道や肺が感染症を起こす確率が高くなるが、それだけではない(表2)。

「気道や肺などで炎症が起きた場合、サイトカイン(炎症などの際に免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質)などの物質が放出されます。つまり、炎症は1カ所にとどまらず、全身に及んでしまうのです。炎症は脂肪や筋肉などの代謝に影響を与えるので、体重が減少し、筋肉量が減ります」

これはがんなどに伴って起こる悪液質と同じ状態という。COPDも進行すると悪液質を起こすのだ。

がん罹患後の禁煙にも効果がある

COPDの一番の治療は、1にも2にも禁煙だ。喫煙者と非喫煙者では、呼吸機能の経年変化が大きく異なる(図3)。

図3 喫煙と呼吸機能の経年変化

Fletcher,C. et al:Br Med J 1(6077):1645, 1977 より改変

実はタバコというもの、一度吸ったら影響がゼロになることがないとされる。

「患者さんに『あなたはタバコを吸ったので、肺がん(あるいはCOPD)になったと思われます』と説明すると、止めて何年にもなるのにと嘆く方が少なからずいます。しかし、一度吸った過去を消せないのがタバコの恐ろしいところなのです」

その一方、止めたら止めただけの効果があるのもタバコだという。

「がんになったあとに禁煙した場合でも、禁煙しないより予後がよいことが最近わかってきました。1カ月でも禁煙すれば手術後の合併症が少ない、化学療法の副作用が少なく治療成績がいいなどの効果がある、とした報告も複数あります。ご家族のことも考え、『どうせ』と言わずに今すぐ止めていただきたい」

気になるのはがん治療との関係だが、基本的にCOPDの治療を並行できないがん治療はないとのこと。ただし、COPDは間質性肺炎を併存していることもあり、その場合は注意が必要だ。

「肺がん治療薬のイレッサなど、分子標的薬によっては急性肺障害という命に関わる副作用が出ることがあります。また、今後登場してくる可能性の高い免疫チェックポイント阻害薬の中にも、間質性肺炎がある場合に使用するのが危険な薬剤があります。これらは直接COPDとは関係がありませんが、COPDが間質性肺炎と併存しやすいことに注意し、間質性肺炎がないか十分調べることが必要でしょう」

イレッサ=一般名ゲフィチニブ

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