- ホーム >
- 検査・治療法 >
- 他疾患合併患者さんのがん治療
日常生活が維持できるようサポートを
まず、本人の意向を大切に!認知症患者のがん治療
小川朝生さん
高齢のがん患者が増えているのに伴い、認知症を併存している患者も増加している。認知症を併存している場合、家族や医療者は患者の意思決定をどのようにサポートしていけばよいのだろう。また治療にはどのような問題があり、家族はどう対応したらよいのだろうか。がん患者の認知症の現状と課題についてレポートする。
高齢者に多いがんでは 3~4人に1人は支援が必要
一般的に、がんも認知症も高齢者に多い病気とされることから、認知症の患者ががんになったり、逆にがん患者が認知症を発症することもあると推測できる。国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生さんは、がん患者に高齢者総合機能評価(CGA)を実施してきた結果、次のようなことがわかったという。
「いくつかのがん種で、認知症を代表とする認知機能障害があり、治療と合わせて配慮やサポートが必要な方がいることがわかってきています。肺がん、前立腺がん、結腸がんなど高齢者に代表的ながんで見ると、3割くらいの方が軽度から中等度の認知症か、軽度認知機能障害(MCI:認知症ではないが日常生活やがん治療など特殊な場面でやや支障を来す状態)と思われます。
例えば肺がん治療を受ける患者さんの約10%は明らかな認知症で、約20%が軽度認知機能障害。つまり、3~4人に1人は一般の方よりも手厚い支援が必要です」
しかし、実際には医療現場でも認知症について十分知られていないため、認知症と気づかないまま、がん治療が行われていることも多いという。
「昔は『認知症の人のがん治療はできない』などと言われましたが、最近は認知症治療薬を服用しながらがん治療を受けている人も増えてきています。今は、認知症とがんの治療を並行してどこまで進めればいいのか、試行錯誤されている段階だと思います」
小川さんが実施した、がん診療連携拠点病院に所属する腫瘍内科医、緩和ケアチームを対象に行った「認知症を合併したがん患者の治療に関する意向調査」では、患者が70歳で予後が2~3年期待できる場合、❶入院して積極的な治療を行う、❷外来での経静脈的治療を行う、❸外来での内服抗がん薬治療(投与)を行う、❹症状緩和のみを行う、の4項目のいずれかの回答が、それぞれ約1/4ずつだった(図1)。医師(チーム)によって、認知症への対応が様々であることがわかる。
意思決定、薬の服用、緊急時の対応などが問題
認知症の罹患者数は、1,000万人以上と推定されている。そのうち半数が軽度認知機能障害と言われ、やや障害があるものの、日常生活はなんとか送れる段階だ。認知症の早期症状はまだ広く知られていないため、家族は「歳のせい」だと思い、気づかないことが多い。
「同じことを何度も言う、日課や趣味をしなくなる、だらしなくなるなど明らかに日常生活に支障を来してから、初めて家族が気づくケースが少なくありません。これらは認知症として、すでに軽度から中等度に進行した状態です」(図2)
がんの治療で問題となるのは「認知症かどうか疑わしい」くらいからという。具体的にどんなときだろう。
「がん治療に認知症が関わるポイントは3つあると言われます。第1に意思決定能力。治療を受けるか受けないか、どんな治療を受け、どこで療養するかなどの決定が難しくなります。
第2に服薬のアドヒアランス(患者が処方された薬を指示された通りに服薬するかの程度)。今日、経口の抗がん薬が増えましたが、指示通りに服薬できないために『効果なし』と判断され、治療中止になっている症例や、倍量服薬して薬剤師が青ざめるといった症例があります。
第3に緊急時。認知症では突然の判断や臨機応変の対応が難しくなります。例えば、『熱が出たら連絡してください』などの指示を出しますが、指示通りできないため症状が悪化し、家族が救急車を呼ぶようなこともあります。
その他、最近は外来での抗がん薬治療(通院の点滴や経口薬)が増えていますが、これに伴うセルフケアができないのも問題です。分子標的薬では副作用の手足症候群の対策として軟膏を塗る必要がありますが、これができずに足の皮膚が割れ、痛くて歩けなくなった例も。その結果、ADL(日常生活動作)の低下を招き、認知症自体が悪化することもあります」(図3)