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家族はどうサポートすればいいでしょうか? 高齢がん患者と認知症

監修●小川朝生 国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年4月
更新:2024年4月

  

「認知症でもほとんどの方が自分で意思決定することができます。まずは患者さんがどうしたいのかをご家族はしっかりご本人と話し合って欲しいです」と語る
小川さん

現在、日本の65歳以上のがん患者さんの割合は73%。がんで亡くなる65歳以上は86%を占めています(国立がん研究センターがん情報サービス)。このように日本のがん医療は、高齢者医療と多くが重なっています。

当然、高齢者になるほど併存する病気も多くなりますが、認知症もそのひとつです。そこで今回は、認知症を発症しているがん患者さんをどのように支えるか、国立がん研究センター東病院の精神腫瘍科長の小川朝生さんにお伺いしました。

認知症と高齢者医療の現状はどうなっていますか?

現在、日本では65歳以上を高齢者、そのうちの65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と定義しています。2023年9月現在推計で65歳以上の人口は3,623万人、全人口に占める高齢化率は29.1%ですが、今後も高齢化率はますます高くなる予測です(図1)。

「ほとんどの病院では、がんを含めて外来で治療を受けている患者さんの平均年齢は70歳以上です。しかし、がんと認知症についてはまだまだデータが乏しいのですが、65歳以上の20%くらいが認知症といわれています」と、国立がん研究センター東病院の精神腫瘍科長の小川朝生さんは述べます。

厚生労働省は、入院管理調査からがんを含めて急性期病院に入院している患者の約25%が認知症と推計しています。

「看護師が行った、入院している患者さんが『自分で身の回りのことができるか』を評価した調査でも、だいたい25%が認知症でした。ただ、医療機関を受診していない認知症の方は相当いるのではないかと思っています」

今後はさらに高齢化が進むため、認知症併存の治療をどうしていくか大きな問題です。

もうひとつの大きな問題は、独居老人と高齢者の2人暮らしです。65歳以上のこれらの方が人口に占める割合も右肩上がりです(図2)。

「当院でも、がん治療を新たに始める方の約15%が独居、20%強が高齢者の2人暮らしです。ですから、外来中心でのがん治療の場合、生活や治療の支援が大きな課題になっています。これらには訪問看護師やかかりつけ医のがん治療への知識が必要ですが、そこが全然進んでいないのです。今のがん対策推進基本計画の中でも、『高齢者のがんは連携が大事』と書かれるようにはなりましたが、具体的なところまで踏み込んで書かれていません」

認知症とがん高齢者医療の問題点は?

「認知症のがん患者さんの治療につては、高齢者のがん治療をどうするかを含めて議論は出てきているのですが、まだその実態がよく把握できていない状況です。また、高齢者のがん治療自体が難しいのは、がん標準治療というのは70歳くらいまでの患者さんの臨床試験データをもとに作られているため、実は高齢者の枠組みでがん治療が行われていないことがそもそも問題なのです」

たとえば、高齢者は高血圧や糖尿病などを併存している場合が多いですが、そのような高齢者を今まで臨床試験に組み入れてきませんでした。そのため、高齢者のデータがなく、高齢者ガイドラインや高齢者の標準治療を定めていく上での大きなネックになっています。

「認知症は物忘れというイメージが強く、『これくらいの物忘れは年相応でしょ』と見逃されて、実際には認知症の早期なのに、受診や相談行動につながっていないのです。日本では認知症の診断率が低く、実際に診断して治療するのが遅れています。また、がん治療現場が認知症に慣れていないという問題もあり、まず認知症を知ってもらわなければ、というのが今の状況だと思います。そのうえ、認知症はがん以上にスティグマ(差別・偏見)が強く、受診したがらない方が多いことも問題です」

国の認知症対策はどのようになっていますか?

「日本では『オレンジプラン』が認知症の最初の計画でしたが、オレンジプランの中に一般急性期の医療が入ってなかったのです。残念ながら、認知症の人が病院を受診する想定をしていなかったのか、それで日本の認知症対策は、海外の施策を含めて15年くらい遅れてしまいました」

オレンジプランとは、「認知症施策推進5か年計画」を策定し、2012年9月公表されました。2015年には新オレンジプランが策定されています。本人主体の医療・介護等を基本に据えて医療・介護等が有機的に連携し、認知症の容態の変化に応じて適時・適切に切れ目なく提供されることで、認知症の人が住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができるようにする、というものです(図3)。

「海外では、最初から一般急性期の医療現場での認知症対応が重要ということで、認知症の施作の1つとして盛り込まれて進んでいます。しかし、高齢化率の高い日本との違いでまだ大きなニーズになっていないのですが、それでも認知症の入院や外来時の対策は盛り込まれていました」

認知症・高齢がん患者さんへのサポート体制は?

高齢者の場合、「介護保険」を使うことがメインですが、いわゆる身の回りなどの「一般的生活支援」と、がん治療に伴う「医療的支援」を同時に考えていく必要があります。

「ところが、がん治療に関するノウハウや副作用対策などについて、訪問看護ステーションやケアマネージャーなどいわゆる支援者側がよく知らないため、対策が後手後手に回っていることが多いです。だから制度は立ち上がっているものの、うまく連携が取れていないのが実態に近いと思います」

また、一般的な生活支援についても問題が多いようです。

「外来で治療中の患者さんが、抗がん薬の副作用で動けなくなったり、自分で電話をかけるのが難しくなったときにどうするかなど、あらかじめ事態を想定しながら支援をしていく必要がありますが、それらに気づいてないことが多いです。実際に家で動けなくなり、近所の人が見つけて慌てて搬送した例や、体調を崩して買い物に行けない、ゴミ出しができないなど日常生活が成り立たなくなり、がん治療をどうするかという議論になることもあります」

がん、認知症、高齢者は切り離せない問題です。

「実際に80歳を超えますと、3人に1人が認知症です。ですから、高齢者の支援と認知症はセットになっているところはあります」

東病院では、精神腫瘍科と看護部が「サポーティブケアセンター」という窓口を作って、入院前に可能な限り高齢者の問題を拾い上げて、支援体制を組んでいこうという試みが始まっています。

サポーティブケアセンターには月700人くらい、そのうち事前に退院支援を行うのは月200人以上。その中で精神腫瘍科への紹介が月約40人、そのほとんどが認知症です。

「認知症患者さんを先に見つけるのは、ひとつは入院時に治療の説明などのサポートを丁寧に行なう必要があるからです。入院してくると『主治医から何も聞いてないですよ』という方が普通にいます。家族を含めてそのような状況を共有します。また、入院中にせん妄を起こすリスクが高まるので、その予防対策を同時に行います」

また、認知症の治療薬については、最近承認された認知症薬レケンビ(一般名レカネバブ)に関しては、これからなのでまだなんとも言えないものの、従来のドネペジル、アリセプトなどは使っているとのことです。

認知症のがん治療への意志はどう確認するのですか?

「医療は、患者さんの自己決定が原則です。とくにがん治療は有害事象があるため、患者さんが理解して取り組まなければならない要素が他の病気より強いのです。そのため、本人の意思を確認し、しっかり理解しもらい治療を始める必要があります」

ところが、患者さんが治療の自己決定を持っていることが共有されていない施設がまだ多く、これまでの慣習で家族の意向が強くなりがち。そのため、「治療して欲しい」という家族の意向で治療を始めてしまい、その後、本人が耐えられなくなって治療を中断する、という事態が病院ではよく起きているそうです。

総合病院や一般の急性期病院で治療を受けているがん患者さんの認知症のレベルは早期から中程度で、自分で決めることができる人が大半です。ところが、医療者が認知症の人とのコミュニケーションの取り方に慣れてないことも大きな問題です。

「本人が理解できるようにわかりやすく普段の言葉で説明する、とくに紙に書いて説明することが大事です。治療のメリットやデメリットなどの注意点を紙に書いて、本人が繰り返し確認できるとずいぶん違うのですが、残念ながらあまり行われていません。また、認知症などをもった人へのコミュニケーションスキルがありますが、医療者に知られていないため、話しても時間がかかるし伝わらないなどと苦手意識を持ってしまっています。日本では一般や急性期の認知症対策が遅れてしまったこともあり、その影響がまだまだ尾を引いています」

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