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手術での腎全摘が最も有効な治療法

定期的なスクリーニングが重要 透析患者の腎がん治療

監修●中澤速和 東京女子医科大学東医療センター泌尿器科臨床教授
取材・文●町口 充
発行:2015年12月
更新:2016年2月

  

「透析腎がんは早期に発見して、適切な治療を受けることが重要です」と語る中澤速和さん

透析治療を受けている患者は腎がんの発症頻度が高くなることが知られている。透析期間が長くなると発症リスクはさらに高まり、他臓器に転移している場合は予後が非常に悪い。早期発見のための定期的な検査が欠かせない。

罹患率は 一般人口の10~20倍との報告も

糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症などの病気で腎機能が著しく低下し、血液のろ過が十分にできずに体の老廃物を排泄できなくなった状態を慢性腎不全と呼ぶ。その治療法の1つとして、腎臓に代わって人工的に血液の浄化を行うのが透析療法だ。

現在、わが国には30万人を超える透析患者がいるが、「透析をしていると、通常の人に比べて、腎がんに罹る割合は10倍以上高いというデータがあります」

こう話すのは、東京女子医科大学東医療センター泌尿器科臨床教授の中澤速和さんだ。

「1982年から2004年まで、透析学会でアンケート調査を行ったところ、人口10万人あたりの腎がんの年間発症率は、通常8~9人であるのに対し、透析をしている人の場合、170人ほど発症することがわかりました。通常の人よりも、15~20倍ほど腎がんの罹患率が高くなることがわかっています」(図1)

海外の研究でも透析患者の腎がん罹患率は一般人口の数倍という報告もあり、罹患率は一般の人と比べて非常に高く、透析自体ががんの危険因子であることが明らかになっている(表2)。

図1 透析患者の腎がん発症数(登録件数)
表2 透析患者における腎尿路がんの発症頻度

長期にわたる発がん性物質の曝露が原因の1つ

図3 透析期間別のACDK合併頻度

透析を長期にわたって行っていると、ACDKを合併しやすくなり、腎がんのリスクが高まる

なぜ透析を受けているとがんになりやすいのだろうか。中澤さんはこう語る。

「腎臓の機能が悪くなって慢性腎不全になると腎臓は萎縮してきます。そこに透析を行っていると段々と嚢胞変性を起こして、後天性の腎嚢胞ができてきます。嚢胞が多発し、こうした状態を『後天性嚢胞性腎疾患(ACDK)』と呼んでいます」(図3)

嚢胞とは、本来なら流れていくはずのところに滞留が生じてできる袋状のもので、一般に中に液状の内容物が入っている。肝臓にできる嚢胞には胆汁の素となるものが溜まるし、膵臓なら膵液の素、肺にできる嚢胞なら液体ではなく空気が溜まる。

「腎臓の場合は尿の素となる原尿が溜まりますが、その中には尿毒症を起こす様々な物質があり、発がん性を持つものも多く含まれます。こうした物質が濃縮された状態で嚢胞に滞留するため、がんが発生するのではないかと考えられています」

また、透析患者は一般の人より血管がもろくなっていて、動脈硬化も進みやすくなっており、腎臓への血流が悪くなり、がんの発症につながるDNAの損傷を起こしやすいと言われる。さらに、透析患者は免疫力が低下していることが多く、局所における防御機構も脆弱になっている。

「これら様々な要素が絡んでがんの発生に関与している疑いがあります」と中澤さんは指摘する。

男性に多く、両方の腎臓ががんになりやすい

図4 透析患者の腎がん特徴

透析を受けている人が発症する透析腎がんの特徴として、嚢胞の中にがんが多発することがあげられる。

「腎がんで多いのは淡明細胞がんと呼ばれるものですが、透析導入時や透析を始めた初期に見つかるがんは、淡明細胞がんなど普通の人のがんと変わらないものが多い。しかし、透析が5年10年と経ってくると、嚢胞の中に多発する腎がんが増えてきます」

透析腎がんの場合、通常の腎がんで多く見られる淡明細胞がん以外の乳頭状細胞がん、嫌色素性細胞がんといった、非淡明細胞がんが多いといった特徴があるという。また、一般の腎がんは、ほとんどは2つある腎臓のうちどちらか片側にできるが、嚢胞が多発していると、約20~30%の割合で、両側の腎臓にがんができやすい。

「両側腎がんは、がんが見つかった時点ですでに両方にできている人もいれば、少し時期をおいてからできる人もいます」

また、年齢についても通常の腎がんが50歳代後半から増えていくのに対し、透析腎がんの場合、50歳前後と比較的若い人に多く発症するとされている。ただし、これについては少し傾向が変わってきているようだ。

「若い人の発症が多かった理由は、糸球体腎炎で若くして透析を始めたという人が多かったからで、10年、20年と透析を続けていれば、がんにもなりやすくなります。しかし、今は相対的に糸球体腎炎の患者さんの比率は減って、圧倒的に多いのは糖尿病性腎症であり、今後は高齢化が進んでいくでしょう」

男性の発症が多いのも透析腎がんの特徴の1つ。一般の腎がんでも男性の割合が多いものの、男女の比率は2対1程度。ところが、透析患者の腎がんでは4対1くらいの割合で男性に多い。なぜこれほどまで男性が多いか、はっきりとした理由はわかっていないという(図4)。

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