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抗ウイルス薬、栄養療法、血行改変術などで対応

肝機能改善によりがん治療が可能に――肝炎などによる治療不能例

監修●持田 智 埼玉医科大学教授/消化器内科・肝臓内科診療部長
取材・文●町口 充
発行:2015年12月
更新:2016年2月

  

「肝機能低下でがん治療を諦める前に、肝臓病専門医に相談していただきたい」と話す持田智さん

慢性肝炎や肝硬変など、肝疾患を抱えたままがんになる人が少なくないが、肝機能が著しく低下していると、がんの手術や化学療法が十分にできないことがある。しかし、肝疾患に対する治療が進歩して、かつては「治らない病気」といわれた肝硬変も治せる時代となり、肝疾患を上手にコントロールしながらのがんの治療が可能になっている。

50歳以上の4人に1人は B型肝炎既往感染

ウイルス感染やアルコールの飲み過ぎ、肥満などが原因で発症するのが、肝炎や肝硬変などの肝疾患。現在、国内にはB型、C型肝炎ウイルスの感染者がそれぞれ100万人以上いると言われており、他にもアルコール性肝障害や、飲酒以外の食べ過ぎなどが原因の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者さんもいる。

これらの人々ががんを発症すれば肝疾患に配慮したがん治療が必要となるが、肝疾患により肝機能が著しく低下していると手術や抗がん薬などによるがんの治療が不可能になることがある。

ウイルス性肝炎では肝炎ウイルスの既往感染の問題もある。ウイルスに感染して血中にウイルスを保持したままの状態を持続感染(キャリア)という。しかし、B型肝炎ウイルスの場合は、大人になってから感染した人では、多くは抗体が作られて肝臓にウイルスの遺伝子は存在していても血中には現れず病気が治った状態になり、これを既往感染と呼ぶ。B型肝炎ウイルスの既往感染者にがんの治療で免疫抑制作用のある薬剤を投与すると、B型肝炎ウイルスが再活性化して、ときに重篤な肝炎を引き起こすことがあるので要注意だ。

埼玉医科大学教授で消化器内科・肝臓内科診療部長の持田智さんは次のように語る。

「わが国では50歳以上のB型感染ウイルスの既往感染者は25%程度いると言われており、1,000万人以上になります。がんが50歳以上の人に多いということを考えれば、かなり高い確率で肝炎の患者さんやキャリア・既往感染の方ががんになっている可能性があり、しっかりとした対策が必要です」

肝障害度を評価する チャイルド・ピュー分類

がん治療にあたっては、肝機能がどのような状態にあるかが大きな問題となる。抗がん薬の多くは肝臓で代謝されるため、代謝能力が低下しているところに薬剤が肝臓に入れば、弱った肝機能がさらに障害されてしまう。手術の場合も、全身麻酔によって肝臓に負担をかけると、肝不全や術後黄疸など重篤な合併症を引き起こすことがある。

「がんの治療を行う医師から、われわれ肝臓内科への相談で1番多いのは、この患者さんの肝機能で手術ができるでしょうか、抗がん薬が使えるでしょうか、という相談です」

このように持田さんは語る。では、どのような場合に、がんの治療が難しくなるのだろうか。基準となる目安はあるのか。

「数値としてはっきりとしたものはありませんが、肝障害度を評価するチャイルド・ピュー(Child-Pugh)分類があります(表1)。これは、肝性脳症、腹水、血清総ビリルビン値、血清アルブミン、プロトロンビン時間の5項目について評価し、各項目を合計して肝機能をA、B、Cの3段階に分類するものです。手術や化学療法を行う上での判断の目安にしています」

表1 チャイルド・ピュー(Child-Pugh)分類

例えば、肝性脳症が「なし」なら1点で、「軽度」なら2点、「ときに昏睡」であれば3点となり、5項目の合計点数が5~6点ならA、7~9点ならB、10~15点だとCと分類する。

「Aなら問題はありませんが、7点以上のBになると要注意です。肝臓病専門医と主治医との相談でケースバイケースとなりますが、10点以上のCだと手術はできない、抗がん薬も使えないという判断が多くなります」

Bの場合、肝臓の専門医が「治療可能」と判断しても、主治医は「心配だから止めておきましょう」と治療を断念するケースも少なくないという。

肝切除前に行う ICG負荷試験

肝硬変の診断や肝臓の予備能力の評価などに用いられる検査に「ICG負荷試験」がある。インドシアニングリーン(ICG)という緑色の色素を静脈から注射して、色素の血中消失率と停滞率を算出し肝臓の解毒能力(異物を排泄する能力)を調べる検査だ。肝切除術の術前に必須の検査で、ICGの残留量が高値の場合は、肝機能障害、とくに肝硬変を起こしている可能性が高い。

持田さんによると、例えこれらの検査で手術や化学療法が不適応と判断されても、肝機能をよくする治療をしっかり行えば、改善は期待できるという。

たとえばチャイルド・ピュー分類がCだったのを、肝機能をよくする治療を行い、Aにまで戻せた例もあり、「少しでも肝機能を上げて手術や化学療法ができるまでにするのが、われわれ専門医の仕事です」と持田さんは話す。

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