国立がん研究センター東病院が取得したCAP認定とは? 国際的な臨床試験が日本でもっと行われるために

お話●マーク・コルビー 株式会社CGI会長
取材・文●柄川昭彦
発行:2022年12月
更新:2022年12月

  

「日本でCAP認定を取る病院が増えるのは、とてもいいことだと思います。CAPの認定を取る病院が増えれば、もっと国際的な臨床試験が行えることにつながる1つの方法だと思います」と語る
マーク・コルビーさん

2022年8月、国立がん研究センター東病院は、現在の日本では唯一、病院としてCAP(米国病理学会)の認定を取得しました。国際的な臨床試験に参加するには、精度管理の行き届いた臨床検査が求められるため、CAP認定は国際的な臨床試験を誘致するのに有利だと考えられています。

最近は海外の製薬企業が日本での臨床試験を避ける傾向があるということですが、そうした問題を解決するためにも、日本でCAP認定を取得する病院が増えることが期待されています。

開発途中の治療が行われることがある

がんの治療で、まず行われるのは標準治療です。標準治療とは、現在行える治療の中で、より有効で安全であることが、科学的に確認されている治療のことです。過去に行われた臨床試験によって、最良の治療であると確認されているのが標準治療です。

新しい薬剤や医療機器が開発される場合には、その薬剤や医療機器に対する臨床試験が行われます。それによって有効性と安全性が確認されれば、新しい治療として承認されることになるわけです。

日本では、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が審査を行っています。PMDAの審査結果に基づいて、厚生労働省が薬事承認することになります。臨床試験の中でも、薬や医療機器としての承認を得るために行われる臨床試験は、「治験」と呼ばれることがあります。

臨床試験によって、これまでの標準治療より優れているか、同等であることが示された場合、その治療は新たな標準治療となるわけです。がんの治療を進歩させるためにも、臨床試験は非常に重要な役割を果たしています。

また、がん患者さんにとっても、臨床試験は大きな意味を持っています。標準治療を受けたものの、がんが治癒しなかった場合、行うべき標準治療がなくなってしまうことがあるからです。そのような場合でも、その患者さんが参加できる臨床試験が行われていれば、臨床試験に参加することで治療を受けることができるからです。

もちろん、臨床試験で受けられる開発中の治療法が、優れた治療法であるかどうかは、その時点では明確になっていません。そのことを十分に理解しておく必要はありますが、臨床試験に参加することで、開発中の優れた治療を受けられる可能性もあるわけです。

がん治療法の進歩のためにも、患者さんの治療の可能性を広げるためにも、多くの臨床試験が行われている状況が好ましいと言えるでしょう。ところが、最近の日本では、「重要な臨床試験があまり行われなくなっている」という状況があるようです。

海外の製薬企業が日本での臨床試験を避ける傾向に

今から20年ほど前、日本のがん医療の分野では「ドラッグ・ラグ」という言葉が盛んに使われました。米国や欧州の国々で承認されているがんの治療薬が、日本では承認されていないため、治療に使えないという状況が生まれていたからです。

その後、承認審査体制が一新してPMDAが誕生し、薬剤などの審査がスピーディに行われるようになりました。そうしたいくつかの問題が解決することで、2000年代初頭のドラッグ・ラグは解消していくこととなりました。しばらくその状態が続いていたのですが、最近になって、海外の製薬企業が日本での臨床試験を避けるようになり、再びドラッグ・ラグが問題になり始めているというのです。

どうしてこのような状況になってしまったのでしょうか――。そこには、日本の医療の特殊性が関係しているという意見があります。

2022年8月に、国立がん研究センター東病院はCAP(College of American Pathologists:米国病理学会)の認定を取得しました。CAP認定とは、臨床検査の品質と性能を保証する制度です。日本では、検査センターでCAP認定を取っている施設はありますが、現在国内では、国立がん研究センター東病院が唯一認定された病院となります。このあたりに、日本独特の問題が潜んでいるようなのです。

CAP認定証を取得して喜ぶ国立がん研究センター東病院のスタッフの皆さん

日本でCAP認定を支援するサービスを提供している株式会社CGIの創業者で会長のマーク・コルビーさんに話を聞きました。

まず、CAPの認定とはどのようなものなのかを教えてもらいました。

「CAPは病理医と検査技師で構成されている学会としては、世界で最も大きな学会です。CAP認定は世界で最も信頼されている臨床検査室の認定プログラムで、1950年代から認定が行われてきました。株式会社CGIは、今から32年前に、CAP認定を米国から日本に導入しました。CAPの精度管理のルールは2,000項目もあるので、これをクリアするのはとても大変な仕事です。これを米国から導入するため、英語を日本語にして、日本のラボ(研究所)がCAP認定を取得しやすいようにサポートしています」(コルビーさん)

日本におけるCAP認定の取得は、検査センターなどが中心で、病院で認定されているのは、前述したとおり現在、国立がん研究センター東病院だけ。こうした日本の状況は、世界的に見ると特殊らしい。

「現在、世界では約9,000の病院がCAP認定を取得していますが、日本で認定を取っている病院は1つだけです。日本では検査センターが取得するケースが多く、現在32施設がCAP認定を取得しています。どういう施設かというと、大きな検査センターや、CRO(Contract Research Organization:開発業務受託機関)の臨床試験を行っている検査室などです。結局、CAP認定がないと世界的なレベルの高い臨床試験ができないので、必要なところでは認定を取得しているわけです。

国際共同臨床試験を行うには、参加するすべての病院や検査センターで、同じレベルの品質で検査が行える必要があります。また、CAP認定を受けた施設で行った検査でないと、薬事承認を受けるときに、データの信頼性が低く評価されてしまいます。とくに米国のFDA(食品医薬品局)は、CAP認定のない施設のデータを使って申請しても、安定した結果が得られないことがあります。そうしたことがあるので、CAP認定を取っているのです。海外では多くの病院がCAP認定を取っていて、たとえば中国には巨大な病院がありますが、こういうトップの病院では必ずCAP認定を取っています。インドでも、オーストラリアでもそうです。それが世界のトレンドだと言っていいでしょう」(コルビーさん)

国立がん研究センター東病院が取得したCAP認定証

日本で、CAPの認定を取得する病院が少ないのは何故なのでしょうか。

「日本の病院は検査センターをすごく使っています。ざっとした数字ですが、日本で行われている臨床検査の6~7割は検査センターで行われていると思います。だから、検査センターはCAPの認定を取得しているのです。アメリカの場合、検査センターが行っているのは3割くらいの検査で、残りの約7割は病院で検査しています。日本は国土が狭いので、病院から検査センターに検体を送っても、1日で検査ができたりします。そういう仕組みが整っているのです。それで、検査センターに出すことが多いのでしょう。日本のこうしたやり方は、世界の中で見るとけっこうユニークです」(コルビーさん)

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