全国一の症例数を誇る ロボット支援下大腸がん手術

大腸がんの手術に万全の態勢で臨み、機能温存を目指す

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年1月
更新:2019年7月

  

絹笠祐介 静岡県立静岡がんセンター大腸外科部長

静岡県立静岡がんセンター
大腸外科部長の絹笠祐介さん

食習慣の欧米化とともに、近年にわかに増えてきたのが大腸(結腸・直腸)がんだ。その大腸がんの手術において、全国一の症例数を誇るロボット支援下手術をはじめ、早期から進行例、高齢者や併存症を持つ患者の難症例まで、あらゆる手術に対して、万全の態勢で臨み、根治と機能温存を実現する静岡県立静岡がんセンター大腸外科。そのチームを率いるリーダー、絹笠祐介さんの手術に密着し、治療に対する信念と情熱、そして素顔に迫った。

きぬがさ ゆうすけ 1973年東京都生まれ。98年東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学腫瘍外科教室に入局。2001年国立がんセンター中央病院外科。05年札幌医科大学で骨盤解剖学研究に従事。06年より静岡県立静岡がんセンター。07年東京医科歯科大学・大学院腫瘍外科学分野修了。10年より現職、現在に至る

全国で施行されるロボット支援下手術の約半数を誇る

「ロボット支援下の腹腔鏡下手術は、手術をやさしくしてくれたのはもちろんですが、解剖を詳細に理解していて、手術経験が豊富な医師がやればやるほど、最大限にメリットを活かせる手術です」

そう話すのは、静岡県立静岡がんセンター大腸外科部長の絹笠祐介さんだ。

同科で行われるロボット支援下による大腸がんの通算手術数は415例(2015年11月16日現在)。現在、全国38施設で実施されているロボット支援下手術の約半数を誇る。

取材当日の手術は、63歳の男性。ステージⅢ(III)の進行直腸がんに対する、ロボット支援下による腹腔鏡下低位前方切除術だった。

「直腸がんとしては、上部のほうを切除する比較的普通の手術なんですが、この患者さんの場合は、低分化腺がんといって顔付きの良くないタイプのがんです。術前からCTで腹水があるのも確認しているので、結構な進行がんを予想して手術に臨みます」

この日の手術について、絹笠さんはそう説明してくれた。

手元の動きの縮尺を変えながら、慎重に手術器具を操作

午前10時、手術の準備が整い、絹笠さんは手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」を操作するサージョンコンソールに座った。メスや鉗子などの器具を装着したペイシェントカートが配備され、それぞれの器具が患者のお腹の中へ入った。手術開始だ。

第1、第2助手、麻酔科医が全員、若手の女性医師。新鮮な光景だった。助手のアシストのもと、絹笠さんはモノポーラ(電気メス)ほか手術器具をペダルによって切り替えながら駆使して、脂肪などを切りながら、骨盤内を分け入っていく。大動脈など重要な血管や神経の周囲では、道具の動きの縮尺を変えながら、慎重に手術器具を操作する。

「そこは引っ張りすぎちゃダメだよ」

時折、助手に対して鉗子の使い方を指示したりしながら、まずは、すでにリンパ節転移が確認されている直腸周辺のリンパ節郭清だ。直腸への栄養血管の根元にあるリンパ節まで広く郭清するD3郭清が行われた。

解剖を熟知した絹笠さんの電気メスは、きれいにリンパ節を郭清していく。手術開始から約1時間で郭清は終了した。

絹笠さんは、サージョンコンソールから離れ、患者の横たわるベッドの前へ行き、直腸がん切除への準備を整える。

同11時10分、再び、サージョンコンソールへ戻った絹笠さんは、直腸がん摘出へ向い、切除する直腸部分の剥離を始めた。

根治性を重視し、機能障害を避けるために神経を温存

絹笠さんたちのチームの手術の特色は、根治性を重視しつつ、少しでも排尿機能や性機能障害が生じないように神経温存に務めるために、直腸を動かして、神経を露出せずに、神経と直腸を隔てる薄い膜1枚を残して、MRIだと1㎜にも満たない隙間を剥離して広げていく。

「神経を露出せずに間に膜を残すと、それだけがんの側に近寄ったところで剥離することになります。通常はがんからできるだけ遠ざかりたいので、神経を露出して行くのですが、それだと神経を犠牲にしてしまう可能性があるので、我々は直腸の動かし方を工夫し、安全に膜を残す方法を採っています。うちのチームは皆これができます」

ダヴィンチでの手術では、この一連の手技にさらに安定感が出ると絹笠さん。

11時52分、がんのある直腸は、通常3㎝程度のところ、少し長めに約8㎝切離され、肛門側の直腸とS状結腸側の直腸がそれぞれ自動吻合器で閉じられた。絹笠さんは、サージョンコンソールを離れた。

「これでダヴィンチでの操作は終わりです」

(写真上)手術支援ロボット「ダヴィンチ」のシステム。左手前:メスや鉗子などの器具を装着したペイシェントカート。右奥:ダヴィンチを操作するサージョンコンソール。(写真左下)モノポーラ(電気メス)による操作(同右下)助手が腹腔鏡のカメラ写真を操作

ダヴィンチのメリット──精度の高い手術が可能──

ペイシェントカートが患者の体の上から外され、絹笠さんは、助手の医師たちとともに、直腸を取り出すポートをお腹に装着し、がんを持った直腸を回収し、さらに残ったS状結腸をお腹の外へ取り出した。腸を開き、そこに吻合器を取り付けた。

肛門側では別の医師が、腹腔内を洗浄し、下部の直腸に同じように吻合器を装着した。

午後12時15分、S状結腸はお腹の中へ戻され、下部の直腸と無事に吻合された。

閉腹され、12時50分に手術は終了。手術時間は2時間50分だった。

「神経をきちんと温存した根治手術ができました。ダヴィンチのメリットは、精度の高い手術ができることです。開腹手術だと直接お腹の中に手を入れることができますが、骨盤という狭い空間の中では、人の手はあまりにも大きすぎるんです。

ダヴィンチだと自分たちの手を小さくして入れているようなものですし、関節の操作も自由自在なので、いろんな角度でメスや鉗子を入れることができ、自分たちの理想の切離ラインを簡単に切ることができます。拡大視という点では腹腔鏡のメリットもあります。両方のメリットを併せ持っていると言えます」

そう絹笠さんはダヴィンチのメリットを説明し、後進の手術指導をするという教育的な観点からも優れていると話してくれた。

(上)腹部に設置したポートを通して、腫瘍摘出後の措置を行う(右)切除摘出された直腸腫瘍

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