30年近く手術にあたり、数々の難治症例を攻略してきた

難しい肝胆膵がんの攻略に挑み続ける 難易度の高い手術の名手

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年7月
更新:2016年6月

  

山本順司 防衛医科大学校外科講座第3教授(病院肝・胆・膵外科教授)

防衛医科大学校外科講座第3教授の山本順司さん

〝がんの中のがん〟と言われる肝がん、胆道がん、膵がん。長時間に及び気力と体力、繊細な手技、集中力などあらゆる力を結集させて手術に挑まなければならないのが肝胆膵外科医だ。その道で30年近く手術にあたり、数々の難治症例を攻略してきたのが、防衛医科大学校教授で肝胆膵外科を率いている山本順司さんだ。

やまもと じゅんじ 1956年宮崎県生まれ。81年東京大学医学部卒業、85年同第1外科入局。89年国立がんセンター中央病院外科。2001年癌研究会附属病院(現がん研有明病院)消化器外科医長、02年同副部長。08年防衛医科大学校外科講座第3教授、現在に至る

難しい手技を修得した外科医にのみ許される手術

肝胆膵外科。肝臓、胆道、膵臓という、消化器の中でも難治中の難治がんを専門に手術する科だ。しかも、これらのがんは、現時点では手術でしか根治を見込めないため、肝胆膵外科医は大きな役割を担っている。さらに、再発転移も来しやすく、手術自体も近接する血管や臓器をつないで再建するようなケースも多く、難しい手技を修得した外科医にのみ許される手術と言える。

その最前線で長年、日夜、手術に明け暮れてきたのが、防衛医科大学校外科講座第3教授(病院肝・胆・膵外科教授)の山本順司さんだ。

取材当日は、膵がんの80歳の男性に対する膵頭十二指腸切除術が行われた。

膵頭十二指腸切除術とは、膵臓の右端の、十二指腸とつながる部位である膵頭部のがんの場合などに、膵頭部と合わせて、十二指腸、胆管・胆嚢、場合によっては胃の一部を含めて切除する手術だ。そして、胃と空腸(小腸)、残った膵臓と空腸、胆管と空腸などをつなぐ再建を行う。

がんが周囲に広がっている場合には、周囲の血管や腸なども切除してつなぎ直さなければならない場合もある大掛かりな手術である。

指導のために第一助手を務める

第一助手を務める山本先生

この日の執刀医は、同科助教の星川真有美さん。卒後8年という期待の若手女性医師だ。山本さんは指導のために第一助手として執刀医の前立ちを務めていた。

手術室の中では、若手医師が山本さんと星川さんの周りを取り囲み、熱心に手術を見守り続けていた。

9時50分、手術が開始された。iPodから微かに流れる、洋楽邦楽の混じったポップスミュージックをBGMに、電気メスによる正中切開(お腹の真ん中をまっすぐに開く)が始まった。

山本さんは、メスや鉗子をはじめとする手術器具の取り回し方を細かく指示していた。

腹腔内を映すモニターの下には、膵臓周囲の解剖のイラストと血管走行の立体画像が貼られていた。膵臓周囲は、重要な血管や神経、臓器が密集しているため、血行動態モニタリングセンサーなどを当てながら、細心の注意を払い、腹腔の奥深くへ分け入っていく。

途中から、山本さんは、自転車のサドルのような椅子にまたがって術野に向かった。国立がんセンター時代の師匠の1人である長谷川博医師が使っていたものだという。

「下がバネになっていて股がると楽だし、術野に向かいやすいんです。癌研に移る時、餞別にいただいたもので、修理してもらって、今も使い続けています」

これもいい手術をするためには欠かせないアイテムなのだ。

若手医師に難しい症例の手術経験を積ませる

手術開始から約2時間経過した頃、山本さんは執刀医と位置を交代した。

腸を避けてリンパ節を摘出し、病理の迅速診断へ回した。30分後くらいに病理から手術室へ連絡があり、陰性とのことだった。

「術前のCT画像ではリンパ節が大きく腫れており、しかもたくさんありました。PET検査をしたところ陰性でしたが、一番大きく腫れているリンパ節以外も、腸間膜のリンパ節などが腫れていて、理由はよくわからないのですが心配していました。それで術中に数カ所調べたわけです。転移していたら手術ができないと懸念していましたが、幸い陰性でよかったです」

山本さんはまた助手側へ移動し、手術は続いた。電気メスのさばき方について指導しながら、膵頭十二指腸切除術に入った。十二指腸を後腹膜から遊離させ、胃を上部のほうで切り離した。

「この患者さんは35年前に胃の手術をしている人で、胃の下部の幽門側がありませんでした。通常の亜全胃温存膵頭十二指腸切除という、出口の幽門輪から4cmくらいのところで切除して95%くらい胃を残すという手術をするのですが、この方にはそれができず、上部の吻合部に近いほうで一回切り離しました。当時どのような手術を受けたのかわからなかったのですが、かなり癒着が強くやりにくかったです」

その後も、患部の膵臓を膵体部と膵頭部の間で切離、胆管の切離と胆嚢の摘出、空腸の切離という手技が長時間続いた。

「胆嚢を摘出したのは、2年目の研修医です。外科医は手を動かさないと覚えられませんから、根治性と安全性を損なわない範囲でできるところまでやってもらうようにしています」

その後も手術は長く続き、残った胆管と空腸との吻合、残った膵臓と空腸の吻合、そして残った胃と空腸の吻合が次々に行われ、17時7分、膵頭部と十二指腸と胃が摘出された。7時間と17分だった。

山本先生の手技を覗き込むスタッフ

摘出された膵頭十二指腸

「今日の手術は、腫瘍自体の摘出はそれほど難しいものではなかったのですが、細い静脈からは出血しやすく、かなり手こずりました。しかし、若い先生方は、このような症例の経験を蓄積していくことで、手技は確実に上がっていくと思います」

〝患者に対して正直であること〟

山本さんの診療におけるポリシーは、患者に対して正直であるということだ。

「私たちのところは、国立がん研究センターやがん研有明病院などを訪れる患者さんと違い、ご高齢であり、他の病気をお持ちの方も多く、たまたまがんが見つかって訪れる方が多いです。病気に対する知識も十分ではありません。ですから、病状について、手術のリスクについて、生命予後について-などを包み隠さずにお話しして、ご本人やご家族の希望を尊重して治療に入ることにしています」

人生を長く経験してきた高齢の患者にはそれぞれの価値観があり、それに対して医師の論理を押し付けるのは失礼だと考えているという。

「患者さんの人生の選択はとても重いと感じることが多く、勉強になります」

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