がん専門病院としては初の重粒子線治療施設を開設

がん治療の最前線 温かい眼差しで患者を見守る

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年5月
更新:2016年8月

  

中山優子 神奈川県立がんセンター放射線治療部部長

神奈川県立がんセンター放射線
治療部部長の中山優子さん

2015年12月、日本で5番目、がん専門病院としては初の重粒子線治療施設『i-ROCK(ion-beam Radiation Oncology Center in Kanagawa)』を開設し、他の放射線治療装置とともに総合的にきめ細かい放射線治療を目指す神奈川県立がんセンター。その放射線治療の責任者として日々患者のための診療に励む、放射線治療部部長の中山優子さんに話を聞いた。

なかやま ゆうこ 1959年神奈川県生まれ。84年群馬大学医学部卒業。99年同大学医学部放射線科講師、2005年東海大学医学部放射線治療科学准教授、08年神奈川県立がんセンター放射線腫瘍科部(現放射線治療部)部長就任、現在に至る

がんの根治を目指すための治療法に

「私が医師として駆け出しの頃、放射線治療は、末期がんの患者さんの痛みを取るなどの緩和ケア治療が中心で、治すための治療にはあまり使われていませんでした。しかしその後、ハードやソフトがかなり高精度に進化し、画像診断技術、治療技術も目覚ましい進歩を遂げましたので、今では、がんの根治を目指すための治療法として標準的に行われるようになってきました」

そう話すのは神奈川県立がんセンター放射線治療部部長の中山優子さんだ。がん3大治療の1つである放射線治療は、がん種によっては、局所制御率85%以上と、十分に根治を見込める治療法になってきた。

取材当日は、60代男性の右中葉外側の早期肺がんに対する、SRTという高精度の定位放射線治療を実施していた。

CT画像をもとに作った治療計画画像と、治療直前に撮影した画像とを重ねて治療部位を決める画像誘導放射線治療(IGRT)と、呼吸により動く病巣を把握する呼吸同期システムを駆使して、8方向から照射することで小さな照射範囲で病巣を狙い撃ちにした。1回につき12グレイ(Gy)という高い線量を照射できるため、治療は4日間で終了するという。

治療準備

治療計画に沿ってPC制御で治療が始まる

各科の治療と連携するハブ的存在

男性患者は、Ⅰ(I)期という早期肺がんだったが、以前に左肺の手術を受けており、元来ヘビースモーカーだったため、低肺機能により在宅酸素療法を行っている人だった。そこで今回は手術を諦め、放射線治療が適応となった。

「通常は、手術が第1選択になる症例ですが、この方は肺の機能が弱いので、放射線治療が適応となったのです。ご高齢の方が増え、放射線治療はますます大きな役割を果たすようになってきました」

高齢者のがんが急増している昨今、放射線治療は重要な位置を占めている。

そして、放射線治療は全身の様々ながんに対して治療を適応できるため、放射線治療医は、がん治療の扇の要として各科の治療と連携するハブ的存在となっている。

「放射線治療は、他科の先生との連携が大切です。当院の場合、放射線治療が一番多いのは乳がんです。乳がんは乳房を温存する手術を受けた場合には、術後の補助療法として放射線照射はセットになっているためです。次に多いのが肺がんです。それ以外には頭頸部がん、子宮頸がんの治療が多いですが、ほぼ全身の臓器をスタッフが専門ごとに分担して治療に当たっています」

外科医と侃々諤々の議論になることも

キャンサーボード

中山さんの専門は肺がんだ。患者の病状や体力、機能面の問題など、様々な理由で手術よりも放射線治療を適応したほうがいいと判断した症例や、手術を受けたくないという患者に対して日々診断と治療を行っている。

「まず患者さんをじっくり診察して、放射線治療の適応であるかどうかを精査します。キャンサーボードで他科の医師たちと合同で治療方針を話し合っています」

他科と協力しながら仕事をしていることに、とてもやりがいを感じると中山さんは話す。

「がんは手術や化学療法との集学的治療が重要です。化学療法であれば、呼吸器内科の先生と話し合って、薬の副作用によっては放射線治療を控えめにしたり、照射のタイミングを考えたりなど、きめ細かな匙加減が必要になってきます。

術前後の補助療法としての役割を果たすことも多いですが、放射線治療が第1選択となる場合もあります。手術適応か放射線治療適応かについても外科の先生と侃々諤々の議論になることもあります。私は、歯に衣着せずに物を言うのでけんかになることもありますよ(笑)」

臓器を横断的に診ることができる点がやりがいに

その〝けんか相手〟の外科チームの責任者には、実兄の中山治彦医師(呼吸器外科部長・副院長)がいる。論争は日常茶飯事だが、公私ともに最も頼れる存在だ。

「私は放射線治療の専門医である前に、がん治療の専門医であることをいつも肝に銘じています。私が専門としている肺がんについては、早期であれば第1選択は手術をするのが妥当だと考えています。放射線治療を求めてくる患者さんでも、診断や年齢、生活環境いかんでは、〝あなたの場合は手術でしっかり取った方がいいですから手術をお勧めしますよ〟と言って外科に戻っていただくこともあります」

患者にとって最良な治療は何かを考えて判断するのは、がん治療に携わる医師としては当然のことだという。

放射線治療医としてのもう1つのやりがいは、臓器を横断的に診ることができる点だと話す。

「いろんな臓器のがんを診ていると様々なアイディアが生まれます。例えば、扁平上皮がんというタイプのがん細胞の形のがんは、頭頸部、子宮頸部、肺で発症しますので、放射線の感受性が高い扁平上皮がんについてはこれら複数のがんで治療効果があるといったことが理解でき、発想できるわけです」

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