若手医師を育てることにも情熱を燃やす
病院全体に目を向け、様々な改革に取り組む
中山治彦 神奈川県立がんセンター副院長・診療施設管理部長(呼吸器外科医)
肺がんをメインに呼吸器腫瘍の手術と日々立ち向かいながら、呼吸器チームのリーダーとして若手医師の教育にも注力するのが神奈川県立がんセンター副院長・診療施設管理部長の中山治彦さんだ。さらに重粒子線、免疫療法と多彩な治療法に挑む、がん専門病院の幹部として、病院の未来に向けて、日夜尽力する中山さんに手術、そしてがん医療に対するポリシーについて聞いた。
なかやま はるひこ 1956年神奈川県横須賀市生まれ。82年群馬大学医学部卒。87~90年国立がんセンター中央病院呼吸器外科レジデント。93~99年同医員。99年神奈川県立がんセンター呼吸器外科部長に就任。2013年同副院長兼診療施設管理部長、現在に至る
教育的な手術のアシスト役を務め、緊急時にも常に備える
「外科医は皆、ちょっとでも術野が赤くなるのが大嫌いなんですよ。出血があると解剖が見えにくくなって、手術がやりにくいですから」
そう話すのは、神奈川県立がんセンター副院長(診療施設管理部長)の中山治彦さんだ。取材当日の手術は、若いレジデントが執刀医で、中山さんは第1助手としてアシストに入っていた。患者は65歳の女性、肺がんの胸腔鏡補助下による左上葉の区域切除だった。
「昨今の肺がんの傾向は、この患者さんのように、タバコを吸わない人の腺がんが増えています」
腺がんは、タバコに起因する扁平上皮がんと違い、肺の末端、隅のほうへできる傾向にあるため、従来行われてきた肺葉切除よりも、切除範囲を縮小した区域切除や部分切除が実施されることも多くなってきた。モニターに映し出された術野は、終始出血はなく、スムーズに淀みなく進められ、1時間半弱で終了した。
中山さんは、自分が執刀するとき以外で、この日のように助手として、教育的に手術をアシストする機会は多く、緊急手術にも対応できるように常に備えている。
チームとして常に質のいい手術を心掛ける
この日の前日にも緊急手術に入り、深夜まで及んだという。
「今は、部長の伊藤(宏之)先生が実質的には手術の責任者としてやってくれていますが、僕はデスクワークしているときもいつも手術着で仕事していますよ。何があってもすぐに対応できますから、これがいいんですよ」
手術室から出てきて、そのままインタビューに応じてくれた中山さんはそう笑った。中山さんは、チームとして常に質のいい手術を心掛けている。
質のいい手術とは、安全、確実がまず第1で、次にがんの手術である限りは根治に導くことが大切だと中山さん。
「がんを過不足なく取ることです。余分には取らないようにしますし、だからといってがんが残るような足りない取り方も絶対許されません。それがきちんとできることが大前提で、それができて初めて、手術時間が短いとか、出血が少ないとか、傷が小さいといったメリットを追求するべきです。
患者さんには手術の質まではわからないからこそ、誠実にやらないといけないんです。まだ慣れていない若い医師が執刀すると時間がかかることもありますが、手術の質を落としたら患者さんに申し訳ないですから、手術の中身はしっかりやろうと常に言っています」
ポリシーは〝熟慮、断行、反省〟
中山さんの手術に対するポリシーは、〝熟慮、断行、反省〟だ。日々の手術はその繰り返しだと話す。
「手術前によく考えて、戦略を練り、準備を万端に整えます。そして、やると決めたらきちんとがんの根治を目指してやります。手術後は、今日の手術はどうだったんだと常に反省します。とくにトラブルを起こしたようなケースでは、次からは絶対同じ轍を踏まないように考えます。
僕は上手くいった手術はあまり記憶になくて、トラブルを起こした症例についてはよく覚えています。それを全部ノートにつけて、何度も見返しながら次の手術に活かしてきました」
この経験を後進の指導にも活かしている。今までにレジデント、スタッフなどの指導にあたり、現在、各地で活躍している医師は40~50人には上るという。
〝手術にゴールなし〟
手術は器用、不器用ではないとも中山さんは話す。
「手術は手先の器用さではなく、たゆまぬトレーニングなのです。そして手術はやるだけではなく、いい手術をたくさん見ることも大切です。上手い人の手術を見ると、今でも勉強になりますよ。
上手い人の手術は、何がやりたいのか戦略がはっきり見えるんです。自分とは違ったやり方をしていても、手術の組み立て方や手順が見ていて納得できます。ここで出血すると嫌だから予めそういう手を打つんだなどと、よくわかります。だから常に勉強になりますよ。僕自身も、手術に関しては、まだこれで満足とは思っていません。〝手術にゴールなし〟です」