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ホットフラッシュ、関節痛、うつに対処し、治療を完遂する方法
ホルモン療法中のつらい副作用は、こうして乗り切る!

監修:蒔田益次郎 がん研有明病院 乳腺センター外科副部長
取材・文:池内加寿子
発行:2012年7月
更新:2014年1月

  

蒔田益次郎さん
「ホルモン療法の副作用は、
関節痛が多いです」と話す
蒔田益次郎さん

乳がん手術後のホルモン療法に伴い、ほてりやのぼせ、うつなどの更年期症状が現れることがある。
また、関節痛や骨粗鬆症などの副作用で、ホルモン療法を中止せざるを得ないケースも少なくない。副作用を和らげる対処法を紹介する。

治療期間が長いと再発予防効果が高い

乳がんの約7割の患者さんで行われるホルモン療法。ホルモン療法の薬剤には、抗エストロゲン剤( ノルバデックス()、フェソロデックス()など)、LH-RHアゴニスト製剤( ゾラデックス()、リュープリン()など)、アロマターゼ阻害剤( アロマシン()、アリミデックス()、フェマーラ()など)があり、閉経前か閉経後かによって使い分けられる。がん研有明病院乳腺センター外科副部長の蒔田益次郎さんは説明する。

「閉経前やホルモンが不安定な閉経前後には、タモキシフェンを使います。さらに、30~40代の若年者やリンパ節転移の数が多い場合は、がんが増殖するのに必要なエストロゲンを確実に抑えるために、LH-RHアゴニスト製剤も併用します。そして、閉経後はアロマターゼ阻害剤を使います」

ホルモン療法の副作用は、抗がん剤と比べて軽いと思われがちだが、副作用によって治療を中止するケースも少なくないという。

「ホルモン療法の期間について、『ホルモン療法は長く継続するほうがよい』と考えられるようになってきています。現在ホルモン療法中の患者さんについても、今後治療を延長する可能性もあります。5年10年というホルモン療法の期間を、副作用により治療を中断することがないよう、副作用に適切に対処して治療を完遂し再発を予防することが、今後ますます重要になります」と蒔田さんは強調する。

ノルバデックス=一般名タモキシフェン
フェソロデックス=一般名フルべストラント
ゾラデックス=一般名ゴセレリン
リュープリン=一般名リュープロレリン
アロマシン=一般名エキセメスタン
アリミデックス=一般名アナストロゾール
フェマーラ=一般名レトロゾール

頻度の高い副作用はほてりや発汗、関節痛

[図1 自覚症状のセルフチェックリスト]
(ホルモン療法の副作用)

  •  体や顔がほてる
  •  汗をかきやすい
  •  指の関節にこわばりや痛みがある
  •  手や足の先がしびれる
  •  気力がなく、疲れやすくなった
  •  物忘れが多い
  •  くよくよし、憂うつである
  •  体がだるく、重い
  •  イライラする
  •  体重が増えている
  •  最近、骨折した
  •  膣からおりもの、出血がある
  •  膣の乾燥がある
それぞれ、「症状はない」、「症状は軽度で気にならない」、「症状はあるが、日常生活に支障はない」、「症状が強く日常生活に支障がある」などの4段階でセルフチェックする

 
[図2 タモキシフェンの副作用の症状]
図2 タモキシフェンの副作用の症状
 
[図3 アロマターゼ阻害剤の副作用の症状]
図3 アロマターゼ阻害剤の副作用の症状
 
[図4 よくある副作用(374人中)]
図4 よくある副作用(374人中)

生殖器の発育など、本来は女性の体全身で重要な働きをしているエストロゲンが、ホルモン療法によって抑制されると、閉経前でも更年期同様の状態になり、更年期症状が出ていた人はより重症化する傾向があるという。

同乳腺センターで、患者さんに副作用の自覚症状(図1)を記入してもらった問診票(1200人分)を集計した結果(*注1)、タモキシフェンを服用中の約半数がほてりや発汗などのホットフラッシュ、アロマターゼ阻害剤服用中の約半数が手指のこわばり、4割強が膝や肩の痛みなどの関節痛を訴えていた(図2、3)。別の調査では、アロマターゼ阻害剤(アリミデックス)を服用した374人のうち、治療を中止した人が3割にものぼり、治療の完遂を妨げるもっとも大きな要因は関節痛だった(図4)。

「タモキシフェンの副作用では、ホットフラッシュのほか、体重増加、うつ、不眠などもみられます。LH-RHアゴニスト製剤を併用しているときも同様です。アロマターゼ阻害剤の副作用としては、発売当初予想されていた骨量減少や骨折よりも関節痛の頻度が高く、ホルモン療法中止の原因にもなっていることは見逃せません」

*注1=期間は2008年10月~2010年3月までの1年半

ホットフラッシュには漢方薬が有効

[図5 症状の変化]
図5 症状の変化

※改善率は改善した人の割合

ホルモン療法に体が慣れてくると、自然に症状が回復する場合もあるが、同センターでは中等度(グレード2:機能障害があるが日常生活に支障がない程度)以上の副作用には治療を行っている。代表的な副作用について、有効な対策を紹介していこう。

まず、ホットフラッシュは、エストロゲンの減少によって自律神経が乱れ、温度調節中枢が適切に働かなくなって起こると考えられている。それに対する治療法としては、「抗うつ薬が有効だ」という。

日本で承認されている抗うつ薬のトレドミン()は、前立腺がんのホットフラッシュに有効との報告もあり、タモキシフェンとも併用可能で、乳がん治療でも使用できる。そのほかの抗うつ薬では、ジェイゾロフト()は併用できるが、パキシル()はタモキシフェンの効果を弱めるので使用できず、注意が必要だ。

「ただ日本では、抗うつ薬の保険適用が限られるうえ、使い始めに吐き気などの副作用が起こりやすいことなどから敬遠されがちです。その点、漢方薬は更年期障害に古くから使われ作用も穏やかなので使いやすく、治療薬として期待できます。ホットフラッシュに対して有用性が報告されている漢方製剤の桂枝茯苓丸を、ほてりや発汗で困っている患者さんに処方したところ、2~3割は改善がみられました(図5)」

体質によっては、漢方製剤の加味逍遥散も同様の効果があるという。一方、自分でできる対策はあるのだろうか。

「家庭では、ぬるめの湯で入浴したり、シャワーを浴びると症状が抑えられる効果があります。空調を調節し、汗で体を冷やさないように吸湿性のよい肌着やパジャマを選び、こまめに着替えましょう。熱い飲み物や香辛料は避けてください」

トレドミン=一般名塩酸ミルナシブラン。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の1つ
ジェイゾロフト=一般名セルトラリン。セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の1つ
パキシル=一般名パロキセチン。セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の1つ


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