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ホットフラッシュ、関節痛、倦怠感を抑えられるか?古くて新しい薬
ホルモン療法のつらい副作用を漢方で乗り切る

監修:岡本英輝 千葉大学大学院医学研究院和漢診療学講座特任助教
取材・文:町口 充
発行:2012年8月
更新:2014年1月

  

岡本英輝さん
ホルモン療法の副作用ケアにも
漢方が有効と語る
岡本英輝さん

ホルモン療法は抗がん剤治療に比べ副作用は小さいが、継続するべき期間は長くなるので、些細な副作用でも問題となります。
千葉大学医学部付属病院和漢診療科では、そんな副作用を軽減するために漢方の処方が行われています。

更年期障害に似た副作用

さまざまな生薬が配合され、漢方は作られる

さまざまな生薬が配合され、漢方は作られる

乳がんのうち、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受けて増殖するタイプのがんではホルモン療法が有効です。ホルモン療法で用いられるのはアロマターゼ阻害薬、抗エストロゲン剤、LH-RHアナログ製剤など。これらの薬はエストロゲンの働きをブロックし、がん細胞の増殖を抑える作用があります。

ホルモン療法は抗がん剤での化学療法と比べると副作用が少ないとされてきました。たしかに抗がん剤には吐き気・嘔吐や骨髄抑制、脱毛など強い副作用があります。しかし、ホルモン療法にも更年期障害と似たような症状や骨の症状があらわれます。ホットフラッシュとよばれるほてり・のぼせの症状、倦怠感、うつ症状、関節痛などです(図1)。

しかし、1つひとつは大したことがなくても、長期間にわたってホルモン剤を処方していけばジワジワと副作用のダメージは体に響き、QOL(生活の質)の低下につながりますし、中には副作用がひどくて、治療を中止せざるを得ないケースもあります。

ところで、更年期障害に対して漢方薬が有効であることは以前から知られています。更年期障害は主として、閉経前後の時期に卵巣機能が衰え、エストロゲンの分泌が低下することで起こります。その症状はエストロゲンを働けなくするホルモン療法の副作用と似ており、ほてりや発汗、めまいなどの自律神経失調症状、頭が重い、不眠、不安、抑うつなどの精神神経症状、それに骨粗鬆症や関節痛など骨の症状を引き起こすこともあります。

漢方薬が更年期障害に有効であるなら、似たような症状を引き起こすホルモン療法の副作用にも効果があるのではないか。これまでの臨床経験を参考に、漢方での治療に取り組んでいるのが千葉大学大学院医学研究院和漢診療学特任助教の岡本英輝さんです。

漢方でつらい副作用が消えた

岡本さんらの研究グループでは、漢方薬がホルモン療法の副作用に有効であったとする報告をしています。

例えば、乳がんで右乳房を摘出した51歳の女性。術後の放射線治療から2カ月たって抗エストロゲン剤( ノルバデックス())によるホルモン療法を開始しました。ところが、多汗、寝汗・不眠、不安症状が出現し、ホルモン療法を中止せざるをえなくなりました。

中止後も不眠、不安が軽減しなかったため、心療内科を受診。抗不安薬を処方され、不眠、不安はなくなりました。ところが、アロマターゼ阻害剤(アリミデックス())による治療を再開したところ、抗不安薬を服用していても、不眠が再燃し、ホットフラッシュや多汗、寝汗、食欲不振が生じて、イライラもあらわれました。

そこで漢方治療を開始し、補中益気湯、抑肝散などを処方したところ、症状は改善または消失。仕事に復帰することができました。

また、09年4月から12年1月までに千葉県がんセンターの漢方外来を受診した乳がんの患者さんで、ホルモン療法を受けてホットフラッシュ、難治性関節痛、倦怠感などの症状を訴えた13例について、漢方治療を行った結果が明らかになっています(図2)。それによると、ホットフラッシュ10例中9例で中等度以上の改善、関節痛5例のうち4例でやはり中等度以上の改善、倦怠感4例ではすべて中等度以上の改善と、いずれも高い効果を示しています(図3、4、5)。

[図2 ホルモン療法の副作用ケアに漢方を使った症例]

No 年齢 ホルモン療法 症状 使用方剤
1 46 TAM+Leu 関節痛・(めまい・食欲低下) 桂枝加朮附湯+十全大補湯
2 48 TAM 関節痛・手指こわばり・倦怠感 大防風湯+牛車腎気丸
3 44 TAM+Leu ホットフラッシュ⇒抑うつ 女神散⇒柴胡加竜骨牡蠣湯
4 44 TAM ホットフラッシュ・イライラ⇒イライラ・(浮腫) 加味逍遙散⇒抑肝散+柴苓湯
5 47 TAM ホットフラッシュ・イライラ 女神散+酸棗仁湯
6 49 TAM ホットフラッシュ・倦怠感 女神散+十全大補湯
7 41 TAM+Leu ホットフラッシュ・倦怠感 加味逍遙散
8 47 TAM ホットフラッシュ・倦怠感・(浮腫) 柴胡桂枝湯+五苓散
9 46 TAM ホットフラッシュ・(浮腫・皮膚乾燥) 加味逍遙散+四物湯
10 64 ANA ホットフラッシュ・関節痛・(浮腫) 薏苡仁湯+桂枝茯苓丸
11 50 EXE ホットフラッシュ・関節痛・手指こわばり 越婢加朮湯+桂枝加朮附湯
12 65 EXE ホットフラッシュ・手指こわばり 桂枝茯苓丸+桃核承気湯
13 51 LET 関節痛・(浮腫) 桂枝茯苓丸+附子末
TAM;タモキシフェン、Leu;リュープロレリン、ANA;アナストロゾール、EXE;エキセメスタン、LET;レトロゾール、
():ホルモン療法との関連が低い症状
これらの患者は西洋医学的なアプローチで副作用の緩和を行ったが難しい症状であったため、漢方外来を受診した

[図3 漢方によるホットフラッシュの症状改善度]
図3 漢方によるホットフラッシュの症状改善度
[図4 漢方による関節痛の症状改善度] 図4 漢方による関節痛の症状改善度 [図5 漢方による倦怠感の症状改善度] 図5 漢方による倦怠感の症状改善度
 それぞれの症状で漢方を処方することで症状の改善が期待できた

ノルバデックス=一般名タモキシフェン
アリミデックス=一般名アナストロゾール

診断名はすなわち処方薬

岡本さんによると、漢方の診断・治療は西洋医学のそれとはかなり違うといいます。

「ホットフラッシュを例にとると、西洋医学では、ホルモン療法によるホットフラッシュ、更年期障害によるホットフラッシュなどと原因を分けて考え、対処が異なるのが普通です。しかし、漢方では西洋医学的な原因の区別を必要としません。どちらが原因の症状であっても、血の巡りが悪いことが原因であると漢方的に判断されれば、同じ漢方薬が処方されます。このように、西洋医学的な原因にとらわれないこと、あるいは西洋医学的な原因が不明であっても漢方的な考え方でとらえれば対処可能であることが、漢方医学の強みです。また、漢方は6世紀半ばに中国から伝来して以降、日本で独自に発展してきたもので、中国の中医学とは異なります。日本の漢方の特徴は『方証相対』といって、症状や体質の判定(これを証という)と薬の処方がセットになっています。患者さんの体質や症状を総合的にみて葛根湯を服用すれば改善されるものであると判定した場合は「葛根湯証」と診断し、葛根湯を処方します。つまり診断名=処方名となり、証は処方薬の数だけあります」

現在、国が認めている保険適応で処方される漢方薬は、顆粒状のエキス剤だと148種類、煎じ薬も含めれば212種類の処方薬がありますから、診断名もそれだけあることになります。

具体的にどんな症状のときにどんな処方が行われるか、前述した13例でみてみましょう。


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