ホルモン療法の大家、アラン・モニエさん特別インタビュー
患者さんのQOLを第一に考えた乳がんホルモン療法

撮影:向井渉
発行:2007年7月
更新:2013年4月

  

副作用とケアについて患者さんにきちんと説明することが大切

アラン・モニエさん
アラン・モニエさん

セントラル・ホスピタル・ブロスシェ腫瘍内科&放射線科部長。フランスナショナル・フェデレーション・オブ・がんセンター常任理事。これまでに150以上の国内外の臨床試験にかかわり、そのうちの1/3は非常にエビデンスレベルが高いと評価されている

米国でホルモン療法の中断者が30%

――本日は乳がんホルモン療法の副作用とその対策について、お話をうかがっていきたいと思います。

モニエ それは大切な問題ですね。私は患者さんに治療法について説明するとき、現れる可能性がある副作用や、それに対するケアについても話すようにしています。化学療法だけでなく、ホルモン療法の場合でも、それは同じですね。

――一般に、ホルモン療法は化学療法より副作用が温和であると言われています。しかし、とくに術後補助療法では長期にわたってホルモン剤を使うので、副作用に苦しんでいる人もけっこういるようです。

モニエ 術後補助療法は長期になるので、副作用が出ることは確かです。高齢者にとっては、化学療法よりよいとされていますが、それでも副作用はあります。
最近、アメリカで興味深いデータが発表されています。アメリカでは副作用のために、乳がんのホルモン療法を中断する人が非常に多かったというのです。使われていたのは、術後補助療法のゴールドスタンダードとされていたタモキシフェン(商品名ノルバデックス等)ですが、30パーセントの患者さんが、1年以内にホルモン療法を中止していたというのです。

[図1 タモキシフェンによる術後補助療法]
図1 タモキシフェンによる術後補助療法

Adapted with permission. Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group Meeting,2000.

30%という数字から学ぶべきものは?

――30パーセントという数字は驚きです。アメリカでは副作用のマネージメントが十分でなかったということですか?

モニエ いくつか考えられる理由があります。まず、この薬が注射で投与する薬ではなく経口薬だったこと。そのため、こんな薬で本当に効くのだろうかと、患者さんがあまり信用しなかったことが関係しているようです。注射のほうが効くように感じられるという人は多いと思います。もう1つは、アメリカでは飲み薬には保険が適用されないことが多いからです。よく効くかはっきりしない薬を、高いお金を払って飲むのは大変です。
このような背景があったので、ちょっと副作用が出てきたときに、もうこの治療をやめたいという人がたくさんいたのでしょう。そのまま日本に当てはめられる話ではないかもしれません。
ただ、私たち医師は、アメリカのこういうデータからも学ぶ必要があります。私は治療を始める前に、きちんとすべてを説明することにしました。タモキシフェンだとこういう副作用が出ます、アロマターゼ阻害剤だとこういう副作用ですというように、両方とも説明しています。

――治療によって得られるプラス面とマイナス面をはっきりさせるのですね。

モニエ 私が勤務する病院では、再発率を示すグラフを患者さんに見せて、副作用についても話しています(図2参照)。それから治療に入っています。
再発がとくに起きやすいのは、手術後の3年間。タモキシフェンを使うと、使わなかった場合より再発率が下がります。さらに、アロマターゼ阻害剤を使うと、再発率をさらに下げることができます。また、手術から6年目にも再発のピークがありますが、これも予防できます。

[図2 乳がん治療後の再発率]
図2 乳がん治療後の再発率

再発が起きやすいのは手術後。3年目と6年目にピークがある。
Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group. Lancet. 1998;351:1451.
Update of Houghton. J Clin Oncol. 2005;23(16S):24s. Abstract 582.
Saphner et al., J Clin Oncol. 14: 2738-2746, 1996

QOLを重視する欧米の患者

――術後補助療法の場合、どんなことを考慮して治療法を選択すべきですか。

モニエ 腫瘍のサイズ、リンパ節転移の有無、閉経前か閉経後か、といったことです。
アメリカやヨーロッパの患者さんは、QOL(生活の質)をとても重視します。この治療を受けると、どの程度の副作用に苦しめられるのか、というところが注目されるのです。これが欧米の患者さんの傾向です。

――ホルモン療法による副作用は、患者さんのQOLにどの程度影響を及ぼすのでしょうか。

モニエ その点については、グローバルな治験が行われていますが、アロマターゼ阻害剤は、タモキシフェンとも、プラシーボ(偽薬)とも、QOLに関しては有意差は認められなかったという結果が出ています。

――QOLの評価方法は?

モニエ QOLの評価の仕方は国によって違うと思います。この治験ではアンケートが行われていますが、患者さんの幸福感や安心感を測れる質問になっています。

――タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤による治療では、どのような副作用が現れているのでしょう。

モニエ タモキシフェンで出やすいのは、ほてり、血栓塞栓症、婦人科疾患などです。これらは、アロマターゼ阻害剤でも、まったく出ないというわけではありません。アロマターゼ阻害剤に特徴的な副作用としては、関節痛、骨粗鬆症、高コレステロール血症、性的な問題などがあります。

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