緩和ケアでも取れないがん終末期の痛みや恐怖には…… セデーションという選択肢を知って欲しい

監修●清水 研 がん研有明病院腫瘍精神科部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2022年11月
更新:2023年5月

  

「緩和ケア医療はこの10数年で格段の進歩を遂げ、今は苦痛を和らげる方法も薬もたくさんあります。それでも、どうしても耐えがたい苦しみから逃れられない状態になったときには、セデーションという選択肢があることを知っておくことは大切だと思います」と語る清水 研さん

医学の進歩によって、がんはもはや死に直結する病ではなくなってきたものの、それでもやはり、自身や家族ががんと告知された瞬間、それまで遠かった「死」が身近に迫り、日常の風景が一変することも。感じたことのない葛藤や思いが溢れることもあるでしょう。

がん患者さんとご家族の心のケアを専門とするのが「精神腫瘍医」。日々、多くのがん患者の声に耳を傾け、心の揺れに寄り添っているがん研有明病院腫瘍精神科部長の清水 研(しみず けん)さんに、終末期に相談されることの多い「痛みに対する恐怖」について話を聞きました。

死が怖いのではなく

がん患者さんの心の状態が病状そのものと密接に結びついていることが日本で注目されるようになったのは、1990年代。1992年に、国立がんセンター中央病院(当時)日本初の「精神腫瘍科」が設立され、その後、徐々に全国へ広がっていきました。

現在では、都道府県がん診療連携拠点病院や地域がん診療連携拠点病院を中心に精神腫瘍科が開設され、また、専門の科はなくとも、精神腫瘍医が在籍する病院も増えつつあります。

「本来、がんとわかった初期段階から、がん治療と同時に心のケアを始めるのが理想的なのです」と話すのは、がん研有明病院精神腫瘍科部長の清水研さん。

清水さんのもとを訪れる患者さんは、早期から終末期までさまざまで、それぞれに深い悩みや苦痛を抱えていることが少なくありません。

がんによる苦痛は、①身体的苦痛、②精神的苦痛、③社会的苦痛、④実存的(スピリチュアル)苦痛の4つがあり、それぞれが相互に関係して、患者1人ひとり固有の苦痛となっていますが、今回は、「身体的苦痛」に焦点をあてていきます。清水さんが日々相談を受ける中で、ある1つの傾向が浮かび上がってきたからです。

「進行がんの治療中、もしくは終末期に差しかかると、多くの方が口にする苦悩があります。それは、死そのものは、ある程度受け入れられるようになったけれど、そこに至るまでにとてつもない痛みや苦痛が待ち受けているのではないかと思うと怖くてたまらない、というものです」

がん病棟の風景、昔と今

報道や書籍などで、昔から「壮絶な闘病生活」といった取り上げ方がされ続けてきたこともあり、がん闘病に対して苦しみに満ちたイメージを抱きがちなことは否めません。しかし、実際の療養生活はどのようなものなのでしょうか。

「私ががん医療に携わり始めた2006年当時のがん病棟は、たしかに皆さん、暗い表情をされていたように思います。あのころは〝がんは痛いのが当たり前〟という考え方が医療者側にもあって、患者さんは痛みや苦痛を医師に訴えることすら思うようにできなかったのではないでしょうか。

そんな中、2007年にがん対策基本法が成立して〝痛みは緩和すべきものである〟という方向に医療全体が変わり始めました。医師は専門を問わず皆、緩和ケア研修を受けるようになり、痛みをとることは治療の一部との認識が急速に高まったのです」

医師の認識が変化したことで、10数年前と今では状況が全く違うと清水さんは指摘します。

「昔は麻薬といえばモルヒネしかなく、医療者も、患者さんも麻薬は怖いから嫌だとひたすら苦しみに耐えるといった風潮がありましたが、今は違います。鎮痛薬の種類も豊富になりましたし、薬以外の対処法も増え、10数年前とは段違いに痛みや苦痛は取り除かれるようになっています。実際、がん病棟の雰囲気が15年前からは想像もつかないほど明るくなりました。患者さんと看護師さんが冗談を言い合ったり、患者さん同士が積極的に交流したりするのが日常の風景。私自身、患者さんと日々関わっていますが、たわいないおしゃべりもよくしています」

緩和ケアが重視されるようになった現在のがん医療では、少なくとも痛みや苦痛への対処にも全力が傾けられることはようになっていることは患者さんにとって心強いことです。

緩和ケアの第1段階は主治医

では、治療中に身体的苦痛が出た場合、どうすればよいのでしょうか。

「緩和ケアの第1段階は主治医です。痛みや苦痛が出た場合、まずは主治医に伝えてください。今の医師は皆、緩和ケア研修を受けているので、基本的な方法は心得ているはずです。最初はロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬が処方されて、それでも和らがないようならオキシコドン(オピオイド鎮痛薬)などに移行していきます。その時点で治まる痛みが多いと思いますが、それでも難しいときは、身体的苦痛への対処に詳しい緩和ケアの専門家に紹介されるという流れになると思います」

がん専門病院の場合、治療中から積極的に緩和ケアチームが関わり、痛みを抑えながら治療を続けていく方法を模索していきます。進行期を経て終末期に入ると、治療より緩和ケアに比重が大きくなっていくので、その場合は主治医が緩和ケア医に変わることもあるそうです。

「治療中は、治療医が主治医。その後、がんの進行に伴って苦痛が出始めたら、主治医と緩和ケア医が並走し、最終的には緩和ケア医が主治医になるという形が、理想的だとは思います」

緩和ケアへのアクセス方法とは

大切なことは、治療中にしろ、終末期にしろ、痛みや呼吸困難など苦痛を感じたら、躊躇せずに緩和ケアにアクセスすることだと清水さんは強調します。

ただ、患者さんやご家族は「治療中なのに緩和ケアだなんて縁起でもない」と拒否するケースもいまだ散見するようです。そう感じる理由は、昔から無意識に植え付けられてきた緩和ケアに対するネガティブなイメージだからでしょう。

そうした悩みに対して清水さんは、「緩和ケアは終末期だけのものではありません。病期や状態にかかわらず、本来、緩和ケアはがん患者さん皆に受けてほしいと思っています」と伝えるそうです。

実際に、すべての患者さんが緩和ケアを受けられるかといえば、そこにはキャパシティの問題も少なからずあり、地域や施設によっては簡単でないことがあります。ですから少なくとも、痛みが出始めるなど、必要になったときにあわてないためにも、緩和ケアへどうアクセスしたらよいのか、早い時点で確認しておきましょう。

「がん専門病院なら院内で連携して繋いでくることが多いですが、地域のクリニックや一般病院にかかっていて、どうすれば緩和ケアを受けられるかわからない方も少なくないでしょう。そうした場合は、お住まいの地域のがん診療連携拠点病院に電話するなど連絡を入れてみてください。がん診療連携拠点病院には必ず相談支援センターがあって、がんに関することなら何でも相談できるようになっています。もちろん、その病院にかかっていない方でも相談できます」

まずは、万一のためにも、緩和ケアへのアクセス方法を知っておくといいでしょう。

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