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ドナーの血液の生着状態等を1時間で診断する先端技術
病態に合わせた治療を可能にする新しい白血病の検査法

取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2011年9月
更新:2013年4月

  

メディアレクチャー

新しい白血病の検査法について講演された
AMDD主催のメディアレクチャー

白血病の診断技術で画期的な研究成果が発表された。
この方法を用いると、従来2週間ほど要していた検査がわずか1時間で済むという。
その方法とは、「キメリズム解析」と呼ばれるが、一体、どういう方法なのだろうか。

最先端の白血病診断技術「キメリズム解析」

[図1 造血幹細胞移植による血液の変化]
図1 造血幹細胞移植による血液の変化

発表があったのは、AMDD(米国医療機器・IVD工業会)主催による第20回メディアレクチャーの会。「白血病における最先端の診断と治療」と題するテーマのもと、東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター特任准教授の渡辺信和さんと、慶應義塾大学医学部内科学教授の岡本真一郎さんが講演を行ったが、その画期的な検査法について話をしたのは主に渡辺さんのほうだ。

白血病の治療法として、1990年代の終わりごろから急速に増加しているものに造ぞうけつかんさい血幹細 胞ぼういしょく移植がある。造血幹細胞移植の方法は、ドナー(提供者)で分類すると主に3つ。

まず自分の幹細胞を移植する場合を「自家移植」、1卵性双生児同士でドナーとなる場合を「同系移植」、そして自分、双子以外のヒトの幹細胞を譲り受ける場合を「同種移植」と呼ぶ。

「同種移植」は、他人の血が体に入り一時的に自分の血と混ざり合う状態。つまり2人分の血が1つの体の中に混在する状態だが、これを生物学上、ライオンの頭と山羊の胴体、蛇のしっぽを持つギリシャ神話に登場する伝説の生物「キマイラ」になぞらえて「キメリズム」と呼んでいる。

そしてこの状態から正常なドナーの血が徐々に増えていき、3週間ほどで完全に血が入れ替わることで白血病細胞も消滅し、治癒に導くというのが「同種移植」なのだ(図1)。

この「同種移植」の場合、以前ならHLAという白血球の型が一致していないと移植が行えないといわれていたのだが、最近では臍帯血移植と骨髄移植の一部で、かなりのズレが生じていても移植が可能になってきている。渡辺さんの着想から開発された「キメリズム解析」とは、このドナーと患者さんのHLAの型のズレを観察する検査方法なのだ。

移植片対宿主病=造血幹細胞の同種移植や臓器移植などの治療に伴う合併症。ドナーの移植した骨髄に含まれる白血球が、患者さん自身の体を攻撃する免疫反応が起こり、皮膚や肝臓、消化器などにさまざまな症状が出る

わずか1時間で結果が分かる検査法

「HLAの型のズレをどのように見分けるかというと、まず患者さんから採取した造血幹細胞のサンプルを蛍光標識抗体という物質で染色します。たとえばドナー特有のタンパク質を緑で染め、患者さん特有のタンパク質を赤く染めたとすると、そこにフローサイトメーターという機械を使ってレーザー光を当てれば、どちらがどのくらいの比率で存在しているかが、採血後1時間程度で分かります」

これがどのくらい画期的なことかというと、従来利用されている検査方法では、結果が出るまでにまず5日から2週間程度必要であり、これだけ時間がかかると結果が出たときにはすでに患者さんの病態が大きく変わってしまっている可能性が高い。それをわずか1時間程度で調べるのだから、その凄さがわかるのではないか。

さらに「キメリズム解析」の優れた点は、これまでの検査方法では不可能だったT細胞、B細胞、NK細胞といった白血球の細胞の種類ごとの増減まで読み取れることだ(図2)。

[図2 白血球の種類まで分析可能な「キメリズム解析」]
図2 白血球の種類まで分析可能な「キメリズム解析」

各図、左上の囲みが患者さんの白血球で、右下の囲みが提供者のもの。移植後21日目の状態を細胞の種類ごとに解析したのが下段。
患者さんの単球が急増し、提供者のT細胞の増殖が少ないことがわかる

ドナーと患者さんの血液の比率が一目瞭然

「この図(図2)を見て分かるとおり、14日目まで順調に右下のドナーの血液が増えていたのが、21日目に急に左上の患者さんの血液が増殖し始めています。これを細胞の種類ごとに分析したのが下の図ですが、患者さんの単球が増え、ドナーのほうでは患者さんの細胞をやっつけるT細胞の繁殖が弱いということが目で見て分かります。

この結果をどう治療に生かすかと言いますと、この時点で投与していた免疫抑制剤をいったん止めます。すると力の弱かったドナーのT細胞が薬の影響を受けずに元気になり、上の最後の図のようにドナーの血液が優性になるわけです。つまり、この検査によって病態に合わせた治療が可能になるのです」

手探り状態だった白血病治療が大きく変わる

この検査法の開発によって、いったいどのくらい治療成績が上がったのだろうか。

「キメリズム解析によってドナーの血液がどのくらい定着したかという生せいちゃくじょうきょう着状況の変化、あるいは再発の芽を早期に摘むためのデータを細胞の種類まで詳細に得ることが可能になったと言えますが、この方法自体はやっとこの2~3年で全国規模の試験が開始されたところなので治療成績を比較するほどのデータはまだありません」

ここに臨床の立場から、次のように岡本さんが補足する。

「私のように実際に移植をやっている側からすると、今まで見えなかったものがはっきり見えるというのは、出てきた結果によってもう少し様子を見ても良いのか、あるいはすぐに次の手を打たなければいけない状態なのかが、極めて早く判断できるようになったということが意義として非常に大きいポイントだと思います」

患者さんのその時の病態がつぶさに把握できる。手探り状態だった白血病治療が、これによって大きく進歩する可能性が広がったのだ。この検査は試験が始まったばかりなのでまだ保険適応にはなっていないが、こうした優れた技術は1日も早く臨床現場に普及させたいものだ。



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