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従来の検診と組み合わせ効率的な治療方針を立てる
将来の危険性を予測する試みの子宮頸がんの新しい診断

監修:荷見 勝彦 がん研有明病院顧問
取材・文:松本 浩美
発行:2007年4月
更新:2013年10月

  
荷見勝彦さん
がん研有明病院顧問の
荷見勝彦さん

子宮頸がん検診で、前がん病変である「子宮頸部異形成」と診断されると、一部を除き、経過観察を行うのが一般的です。
こうしたなか、将来への危険性を予測しようと試みた「子宮頸部前がん病変のHPV-DNA診断」が注目を浴びています。
厳重なフォローアップが必要な患者さんとそうでない患者さんの分類に役立つなどに期待されています。

HPVの型を用いて将来への危険性を予測する

「子宮頸部前がん病変のHPV–DNA診断」(以下HPV–DNA診断)とは、子宮頸がんのうち、扁平上皮がん(注1)と密接な関係があるヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)の型を調べる検査です。通常の子宮がんの検診で行われている細胞診と同じ検体を使って、細胞中のHPVのDNA(遺伝子)を検出し、型を判定します。この型によって将来の危険性を予測しようとする検査法で、子宮がんの検診で、「子宮頸部異形成」の「軽度」「中等度」と診断された人を対象としています。

写真:検査の様子

ヒトパピローマウイルスを「シークェンサー(塩基配列を読み取り遺伝子の型を同定する機械)」を使い検査しているところ

シークェンサーの画像

シークェンサーの画像に写し出されたDNAの塩基配列

現在、先進医療としてHPV–DNA診断を実施している医療施設は、がん研有明病院、神奈川県立がんセンター、徳島大学病院の3カ所。がん研有明病院では癌研病院時代の2001年3月1日、当時の高度先進医療としてHPV–DNA診断を実施することが承認され、同年から2004年まで計287件、年平均71.8件が行われています(表1)。

[表1 子宮頸部前がん病変のHPV-DNA診断の実施件数(癌研病院)]

2001 2002 2003 2004
実施件数 68 77 58 84 287

さて、HPV–DNA診断の内容に入る前に、HPVと子宮頸部異形成とは何かについて少し説明しましょう。

1970年代後半、子宮頸がんの組織からHPVのDNAが検出されたことから研究が進み、子宮がんの原因は、HPVの感染であることがわかってきました。HPVは人間の皮膚や粘膜に乳頭腫(イボ)をつくるウイルスです。人間で言えば人種に相当する型があり、現在では100種類以上のHPVの型が確認されています。

このHPVの型によって、引き起こされる病気に違いがあります。子宮頸がんの場合、16型、18型などが見つかる割合が高くなっています。また、6型や11型はコンジローマと呼ばれ、外陰部や腟、子宮頸部の良性のイボから見つかることが多く、子宮頸がんから見つかることはきわめて稀とされています。

そこで、子宮頸がん組織から検出されるHPVの割合から、危険性が分類されています(表2)。最も危険性が高いのは16型と18型、次いで31型、32型、33型、52型、58型となります。このうち52型と58型は日本の子宮頸がんでは多く見られますが、欧米では少なくなっています。また、18型は子宮頸がんでも腺がんに多く、扁平上皮がんではほとんど検出されません。

[表2 HPVの子宮頸がんに対する危険度]

高危険型 16型 18型(腺がん)    
中危険型 31型 32型 33型 52型 58型
低危険型 その他の型      


子宮頸部上皮内部病変の組織分類

軽度 : 異型細胞が上皮の下層1/3にとどまる

中等度 : 異型細胞が上皮の下層2/3にとどまる

高度 : 異型細胞が上皮の表層1/3に及ぶ

ところで、子宮頸がんの発症については、(1)正常上皮から直接発生、(2)正常上皮から子宮頸部異形成という段階を経て発生、という2つの様式があると考えられています(注2)。この2番目の説にある子宮頸部異形成とは前がん病変で、細胞や組織の異常の程度から軽度、中等度、高度に分けられます(右表参照)。

高度異形成の細胞はがん化する可能性があることや、すでに早期のがんが隠れている可能性があるので、外科的な治療を行うことが多いのですが、軽度および中等度異形成の場合、治療はせずに経過観察を行うのが一般的です。

なぜなら、異形成のすべてががんになるわけではないからです。軽度・中等度異形成の場合、がんになるのはせいぜい5パーセントであり、残りのほとんどは治療しなくても自然に消失し、治ってしまいます。そのため、すぐに治療する必要はなく、経過観察すべきと考えられているのです。異形成が進行したり、がん化したときに、治療すればよいことになります。

「子宮頸部異形成とHPVの関係を調べると、異形成の組織からも高い割合でHPVが検出されています。さらに、私たちの研究で、異形成組織から見つかるHPVの型によって、がんへの進行や増悪する危険性が異なることもわかってきました。

そこで、病変中のHPVの型を調べることで、将来への危険性を予測できないか、試みているのがこの検査です」と、同病院の顧問・荷見勝彦さんは語ります。

注1 子宮頸がんは、大きく扁平上皮がんと腺がんに分けられます。かつて扁平上皮がんが大部分を占めていましたが、近年、腺がんが増加傾向にあります。本稿では主に扁平上皮がんを取り扱っているため、とくに断りがなく「子宮頸がん」とした場合は扁平上皮がんを指すことにします
注2 腺がんの場合も、腺異形成という状態が前がん病変ではないかと疑われていますが、詳しいことはわかっていません

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