• rate
  • rate
  • rate

身体的にも、経済的にもミニマムな手術が登場!

術者がロボットに! 最先端型ミニマム創前立腺全摘手術

監修●木原和徳 東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学教授・医学部附属病院副院長
取材・文●柄川昭彦
発行:2014年2月
更新:2014年5月

  

「身体的だけでなく、経済的に優しい手術は、時代に即していると思います」と話す木原和徳さん

前立腺がんの手術には、実に様々な方法がある。2012年、手術支援ロボット「ダヴィンチ」手術が保険適用になってからは、爆発的にそれも広まっている。だが、もう1つ、より身体に優しく、経済的にも優しい最先端型ミニマム創手術が登場した。それも、術者がロボットになって行われるという――。

新しいタイプのロボット手術が登場

前立腺がんの治療には多くの選択肢があるが、その中の1つに前立腺全摘術がある。

前立腺は膀胱の出口付近にあって、尿道を取り囲むように位置している。この前立腺をすべて切除するのが前立腺全摘術である。

東京医科歯科大学大学院教授の木原和徳さんによれば、技術的にはそれほど難しい手術ではないという。「前立腺を取り除いて、膀胱と尿道をつなぎます。基本的にはそれだけですから、非常に難しいというわけではありません」

現在、東京医科歯科大学附属病院泌尿器科では、「ロボサージャン手術」と呼ばれる新しい手術が行われている。

手術を行う医師は頭にヘッドマウントディスプレーを装着し、目の前に現れる内視鏡の拡大3D画像を見ながら、手術を行う。その様子は、近未来を描いた映画の1シーンのようだ(写真1)。

写真1

術者は頭にヘッドマウントディスプレーを装着し、そこに映し出される内視鏡の拡大3D画像を見ながら、手術を行う。その姿は、近未来を描いた映画のワンシーンのようだ

「このヘッドマウントディスプレーは、もともとは3D映画を鑑賞するためにソニーが開発したものです。それを手術に応用できるのではと考え、医療用のヘッドマウントディスプレーをソニーと共同開発しました。2013年8月に医療機器として市販されたばかりです」

同病院の泌尿器科では、このヘッドマウントディスプレーなどの最新の機器を使って、先端型ミニマム創内視鏡下手術を行っている。詳しくは後述するが、1カ所、小さく切開したポート(創)から手術器具を挿入し、前立腺全摘術を行うのである。

この手術がどのように優れているかを説明するためには、これまでどのような手術が行われてきたのかを説明しておく必要がある。

腹腔鏡手術の欠点を補ったロボット手術「ダヴィンチ」

前立腺全摘術はもともと開腹で行われていたが、その後、腹腔鏡手術も行われるようになった。腹腔に二酸化炭素のガスを入れて膨らませ、数カ所の小さな孔から腹腔鏡と手術器具を入れて行う手術だ。

「切開部位が小さく、患者さんの身体的負担が軽いのがメリットですが、腹腔鏡手術は、2つの重要な要素を術者から奪いました。立体的な視野と、自由に動く指です」

開腹手術ではもちろん視野は3Dだが、腹腔鏡の視野は2Dなので奥行きがわからない。医師は開腹手術の経験から、脳で画像を調整して手術を行うのである。

また、開腹手術では自由に動く指を使うことができるが、腹腔鏡手術では長い棒の先についた器具で、細かな作業をしなければならない。

「腹腔鏡手術で失ったこの2つの要素を回復させたのが、ダヴィンチ手術です」

手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った前立腺全摘術は、12年4月から健康保険で受けられるようになった。それにより、現在、急速に普及している。

「ダヴィンチ手術では、術者は患者さんから離れた位置で、手術用の機械を操作します。このときのぞき込む画像は、手術する局所の拡大3D画像です。さらに、遠隔操作で動く手術器具には、人間の指以上に器用に動く多関節鉗子が使われています。つまり、この手術支援ロボットは、立体的な視野と自由に動く指を取り戻してくれました。つまり、ダヴィンチは患者さんに対するメリットは間接的で、むしろ手術する医師にとって直接的な利便性を持つロボットなのです」

低コストで質の高い 新しい手術法を開発

腹腔鏡手術からダヴィンチ手術へという流れには乗らず、木原さんは独自の手術法の開発に取り組んできた。それが、二酸化炭素のガスで腹腔を膨らませず、小さな1つの切開部位から行うミニマム創内視鏡下手術である。

この手術法は、06年に「内視鏡下小切開手術」の名称で先進医療に認定され、08年には「腹腔鏡下小切開手術」の名称で、保険適用されるようになった。対象となる疾患は、前立腺がん、腎(細胞)がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、副腎腫瘍などである。

図2 ダヴィンチ・腹腔鏡手術の課題

図3 ミニマム創内視鏡下手術の利点

小さな傷で患者さんの身体に優しいと同時に、経済コストを大きく削減でき、経済的にも優しいという点だ

「この手術の開発に取り組んできたのは、超高齢社会を迎えた日本には、質が高くコストが低い手術が必要だと考えたからです。高齢者が増えれば、それだけ医療の需要と費用が増えます。腹腔鏡手術やダヴィンチ手術は、高価な使い捨ての器具が多く、コストが高くなってしまいます。また、ダヴィンチ手術は機器自体も維持費も極めて高額です。できる限り費用を抑えた、使い捨て器具を少なくした手術にしました」(図2)

コストは低いが、治療としての質は極めて高い(図3)。

切開する部位は1カ所で、前立腺全摘術の場合、大きさは通常、1円玉2個分程度(前立腺のサイズ)。一方、腹腔鏡手術やダヴィンチ手術では、4~6個の孔をあける。また、二酸化炭素ガスで腹腔を膨らませないのもミニマム創内視鏡下手術の利点だという。ガスで血管や腹腔内の臓器が加圧されると、とくに高齢者では、呼吸器系(肺など)や循環器系(心臓など)にリスクを作ることになるからだ。

また、この手術には、腹腔を開けないというメリットもある。前立腺は、胃や腸が収まる腹腔ではなく、後腹膜の後ろ側の後腹膜腔に位置している。腹腔鏡手術やダヴィンチ手術では、切開部位から腹腔内に内視鏡や手術器具を入れ、さらに後腹膜腔へとアプローチする。

「腹膜を大きく切開したり、腸を不用意にあつかうと、手術後長期間たっても癒着による腸閉塞を起こす可能性が生じます。前立腺は腹腔の外側にあるのだから、最初からそこに入っていけばいいのです」

ミニマム創内視鏡下手術では、腹腔は開けずに後腹膜腔から直接入っていく。したがって、手術によって腸の癒着が生じ、腸閉塞を起こしたりする危険性はゼロである。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!