反回神経近くのがん。手術で声は?
65歳の夫が手術予定で、発声に関係する神経(反回神経)へのがんの*浸潤の具合によっては切断するかもしれないと言われたそうです。神経を切断すると声はなくなるのですか?
夫に訊いてもよくわかりません。その質問とは直接関係ないかもしれませんが、以前、杉谷先生はこの雑誌で「反回神経を残せるポイントは声帯に麻痺があったかどうか」と答えておられます。麻痺があったかは自覚症状で調べるのですか?
夫は訊かれても自信はないと言っています。
(60歳 女性 福井県)
A 声の劣化はあっても 喪失はまずない
甲状腺がんが片側の反回神経に浸潤しているということはそう珍しくはありません。しかし、その手術により声を失くしてしまうことはまずありません。
おっしゃるように反回神経は声帯を動かす神経ですが、たとえ片側の反回神経を切除せざるを得なかったとしても、声を失うことはありません。ただ、声がかすれ、むせやすくなることがあります。声を失くすのはがんがかなり大きくて喉頭を一緒に取るような場合です。しかし、そのような例はめったにありません。
がんが反回神経に浸潤している手術の際、まず外科医が考慮するのは、がんを剥がして神経を残すことです。これが可能であれば仮に手術後、発声障害が起こっても一時的で、通常は2~3カ月もすれば回復します。
がんの反回神経への浸潤が高度であれば、反回神経を切断しなければなりません。その場合、可能であれば切除と同時に神経の再建をします。残った神経と近くの運動神経をつなぐのです。すると声帯の筋肉の委縮が防げるので、神経麻痺による音声の劣化が軽くてすみます。
がんの場所や大きさによっては、神経の再建をがん切除手術と同時に行うのが難しいことがあります。そんなときは手術後1年くらい、声の状態を観察したうえで、必要に応じて音声を改善するための治療を行います。声帯を内側にずらす手術をしたり、声帯にコラーゲンを注入したりします。すると声門の隙間が狭くなり、発声がうまくいくようになります。
神経を残す手術をしても、麻痺が残り、声がしゃがれるなどして聞きとりにくいといったような場合でも、このような処置を行うことがあります。
なお反回神経を残せるかどうかのポイントについてのご質問ですが、術前に声帯に麻痺があれば、がんが神経に高度に浸潤していることが疑われるので、通常は神経を残す手術はできません。麻痺の有無は鼻から挿入する喉頭ファイバーで声帯の動きを見ればわかります。
*浸潤=がん細胞が周辺の細胞に浸み込むように広がっていくこと