患者のためのがんの薬事典
エルプラット(一般名:オキサリプラチン)大腸がん治療に画期的変化をもたらした薬剤
エルプラットは、2005年に承認された比較的新しい抗がん薬です。
大腸がんの治療薬は5-FUのみだったところにエルプラットが登場し、生存期間や症状が安定する期間は大きく伸展しました。
再発予防の効果もそれまでの抗がん薬よりも高く、まさに「大腸がん治療を大きく変えた」薬といえます。
どんな薬?――エルプラットの特徴
*エルプラットは、「白金製剤(プラチナ製剤)」と呼ばれる抗がん薬の仲間です。がん細胞が増殖するためのDNAの複製を邪魔し、がんを殺します。また、複数の抗がん薬と組み合わせる(多剤併用療法)ことで、効果が高まります。
切除による治癒が不能な進行大腸がん、または再発した結腸・直腸がんの標準治療に使われる薬の1つです。また、術後の再発予防のための術後補助療法にも使用されます。
*エルプラット=一般名オキサリプラチン
代表的なレジメン ❶FOLFOX療法(フォルフォックス療法)
オキサリプラチン:Oxaliplatin は、エルプラットの一般名
図2 切除不能転移性大腸がん標準治療の変遷
投与する薬剤の種類や量、期間、手順などを時系列で示した計画書を「レジメン」といいます。エルプラットを用いた大腸がんの代表的なレジメンはいくつかあります。
FOLFOX療法は、大腸がん治療の中心となる 注1)レジメンです。使用する薬剤の、*ロイコボリン、*5-FU、エルプラットのぞれぞれの頭文字を取って名付けられました(表1)。
がんの薬の効果を評価する指標の1つに「生存期間中央値(MST)」があります。これは、その薬を使った患者さんたちのうち、半分が亡くなるまでの期間のことです。
大腸がん治療では、5-FUだけを使って治療していた時代に、生存期間中央値は12カ月弱でした。
FOLFOX療法の登場により、生存期間は大きく伸展しました(図2)。米国で行われた、化学療法を行っていない進行・再発の直腸・結腸がんの患者さんにFOLFOX療法を行った第Ⅲ相臨床試験では、生存期間中央値は19.3カ月に延びました。
また、FOLFOX療法で用いるエルプラットの替りに*イリノテカンを用いる*FOLFIRIという治療法も同様の効果が認められています。
ここ数年では、さらにFOLFOX療法に分子標的薬の*アバスチンを併用し効果することで効果を高める治療法も行われています。この製造販売後臨床試験では、生存期間中央値は28.5カ月まで延びました。FOLFOX療法に追加する分子標的薬には、*アービタックスや*ベクティビックスを用いることもあります。
《投与法》最初にロイコボリンとエルプラットを2時間かけて点滴します。その後、5-FU 400mg/㎡を急速投与(注射)し、さらに5-FUを46時間かけて点滴します(図3)。
FOLFOX療法を行う場合、「皮下埋め込み型中心静脈輸液ポート」を鎖骨下に埋め込みます。この手術には、1時間ほどかかります。
このポートは、確実に薬剤を静脈内に投与することができるため、通常の腕からの点滴のように安静を保つ必要がありません。そのため、病院で薬剤の点滴を開始し、ポートに針を入れたまま薬剤の入ったボトルを携帯して帰宅し、点滴が終了したら自分で針を抜きます。本来は入院して行っていた丸2日間にわたる持続点滴中も自宅で過ごし、外来での治療が可能になります。
*ロイコボリン=一般名ホリナートカルシウム *5-FU=一般名フルオロウラシル *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン *FOLFIRI療法=ロイコボリン+5-FU+イリノテカン *アバスチン=一般名ベバシズマブ *アービタックス=一般名セツキシマブ *ベクティビックス=一般名パニツムマブ 注1)FOLFOXは、それぞれの薬剤を使うタイミングや使い方によって、1~7までのシリーズがあります。日本でよく使われるのは、エルプラットの用量を減らしたmFOLFOX6(modifiedは修正されたという意味)というレジメンです。
同じカテゴリーの最新記事
- 皮膚T細胞リンパ腫の新治療薬 タルグレチン(一般名ベキサロテン)
- EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療薬 イレッサ(一般名ゲフィチニブ)/タルセバ(一般名エルロチニブ)/ジオトリフ(一般名アファチニブ)/タグリッソ(一般名オシメルチニブ)
- 前立腺がん骨転移の治療薬 ゾーフィゴ(一般名ラジウム-223)/ランマーク(一般名デノスマブ)/ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)/メタストロン(一般名ストロンチウム-89)
- GIST(消化管間質腫瘍)の治療薬 グリベック(一般名イマチニブ)/スーテント(一般名スニチニブ)/スチバーガ(一般名レゴラフェニブ)
- 慢性リンパ性白血病の治療薬 FCR療法(フルダラ+エンドキサン+リツキサン)/アーゼラ(一般名オファツムマブ)/マブキャンパス(一般名アレムツズマブ)
- 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療薬 アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+イホマイド(一般名イホスファミド)/ヴォトリエント(一般名パゾパニブ)/ヨンデリス(一般名トラベクテジン)
- 悪性神経膠腫の治療薬 テモダール(一般名テモゾロミド)/アバスチン(一般名ベバシズマブ)/ギリアデル(一般名カルムスチン)
- 切除不能膵がんの治療薬 FOLFIRINOX療法/アブラキサン+ジェムザール併用療法
- 閉経前ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬 抗エストロゲン薬(ノルバデックス)/LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)
- B細胞性リンパ腫の治療薬 R-CHOP療法(リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+オンコビン+プレドニン)/VR-CAP療法(ベルケイド+リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+プレドニン)