治療の前進と治療格差の解消を目指して

正しい情報と新薬の承認、ガイドラインの更新を!

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年12月
更新:2015年3月

  

メラノーマ患者会 Over The Rainbowの代表 徳永寛子さん

30年近く新薬が出てこなかったメラノーマ(悪性黒色腫)の治療法ですが、今年新薬が承認され、今後新たな治療薬も登場する見通しです。メラノーマ(悪性黒色腫)の患者会 Over The Rainbow は2013年に発足したばかりの新しい患者会。病気に関する正しい情報の提供、新薬の早期承認へ向けての嘆願書の作成、患者や患者家族とのコミュニティ作りなど、「虹の向こうの明るい未来を目指して」活動しています。

メラノーマ患者会 Over The Rainbow

ホームページ:melanoma-net.org

悪性度の高いことだけが誇張されている

メラノーマは悪性黒色腫という皮膚がんの一種です。日本人は足の裏や手のひら、手足の爪などにできやすいといわれていますが、胸、お腹、背中、顔など、体のどの部位にもできます。欧米人に比べると日本人の罹患者数は少なく、10万人に1.5~2人といわれ、希少がんの1つとされています。

メラノーマ患者会 Over The Rainbow の代表・徳永寛子さんのメラノーマが見つかったのは2012年、29歳のことでした。

「いつの間にか肩にガタガタした形の小さなほくろができていたのですが、服や髪で隠れるので私自身は気にしていませんでした。でも、別の治療で近所の皮膚科を受診したとき、このほくろも見てもらったら『メラノーマかもしれないね』と。それからいくつかの病院で見てもらい、最終的に国立がん研究センター中央病院を紹介されました。

そこでメラノーマと診断され、大きさは一番長いところで11㎜。手術で取り除き、その後リンパ節転移が判明したので、2回目の手術でリンパ節を取りました。術後は月に1回インターフェロンを注射しています。発覚当初、インターネットを見るとメラノーマの情報はネガティブなものが多く、悪いことばかり考えてたくさん泣きました。

患者数が少ないことからか、メラノーマは正しい情報があまりなく、悪性度の高いことだけが誇張されがちです。患者はそういう情報を見ると悪いことばかり考えて、みんな悲劇のヒロインになってしまう。もっと正しい情報を伝えることはできないのかな、と思いました」

リレー・フォー・ライフで掲げた横断幕を手に。(左から)副代表堀江泰さん、代表徳永さん、副代表平林佳代子さん

リレー・フォー・ライフ=がん征圧を目指し、がん患者や家族、支援者らが夜通し交代で歩き、勇気と希望を分かち合うチャリティーイベント

熟練した専門医が少ない

会のメンバーの1人で広報を担当するMさん(40代女性)は、「病院選びで迷いました」と言います。

「私の場合、生まれつきお腹に2㎝ほどのほくろがあったのですが、突然ほくろの真ん中がポコンと出始めたんです。気になってインターネットで検索したら、自分のほくろと似たメラノーマの画像がたくさん出てきて、すぐに皮膚科を受診しました。『多分、ただのほくろでしょう』という診断でしたが、念のため大学病院へ。受診したら、いきなり切除することになりました。驚きましたが、それだけ早いほうがいいということだったのでしょう。

病理検査の結果メラノーマということがわかり、その後拡大手術とリンパ節切除をし、さらにDAVフェロンという抗がん薬治療を6クールしました。幸運なことに抗がん薬の副作用は、ほとんどなかったです。

メラノーマと診断されてから、この病気について自分で調べました。ところが主治医に質問をしても『僕は専門ではないから……』と言われ、回答が得られないときがありました。そのことに不安を覚え、やはりがんセンターで見てもらおうと、1年後に転院しました。難しい問題だと思いますが、皮膚科の医師がみな、メラノーマについて熟知しているわけではなく、専門医は少ないですね……」

DAVフェロン=ダカルバジン(一般名同じ)、ニドラン(一般名ニムスチン)、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、インターフェロンβの4種併用療法

コミュニティ作りと新薬承認の嘆願

東京・上野にて、がん患者や家族、支援者らとともにウオーキング

メラノーマ患者会 Over The Rainbow が 発足したのは2013年8月。会員は20代から60代までで、ホームページを見て入会した方が多く、会員数は少しずつ増えているそうです。

「初めは『STUND UP !』という35歳以下のがん患者の患者会に入りました。若い人が治療をしながら学校に通ったり、夢を語ったりしているのを聞いて、メラノーマにも患者会があればと思いました。同じ病気の人なら『あの注射は痛いよね』など、ささいなことでも共感できる。病気の不安を思う存分話せたら、気持ちも和らいでくると思うんです」と徳永さん。

Mさんも、「同じ病気の人と話したい、元気になった人に会いたいと思っている患者さんがたくさんいます。私も大学病院では同じ病気の人に会いませんでしたから、患者会の必要性を感じました」と話します。

コミュニティ作りのほか、病気に関する正確な情報の発信、さらに新薬が承認されるための嘆願運動も、重要な活動の柱になっています。

「今年(2014年)7月、オプジーボが承認されましたが、そのとき患者会としても厚生労働省に早期承認のお願いをしました。長年進歩がなかった治療法が大きく前進しました。臨床試験中の薬もあるので、今後も適切なタイミングで嘆願書を出すつもりです」(徳永さん)

「メラノーマの治療薬は、30年ほど変わりませんでした。でも、新薬が出たことで医師も注目してくれていると思います。患者会として、患者が病院や治療を選択するための情報を少しずつでも提供していければと思っています。患者から発信していくことで先生方も興味を持ってくださるかもしれません」(Mさん)

オプジーボ=一般名ニボルマブ

地域格差、医療格差をなくして欲しい

今年(2014年)の日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会では、患者の質問に医師が応えるセッションに患者会として参加しました。この学会で患者がセッションに登場するのは、初めての試みだったそうです。

「このときは80人ぐらい集まり、大盛況で先生方にも会の存在を知ってもらうことができました。今後も医師と患者の橋渡しをする活動をしながら、いずれは患者も先生方も支えられる患者会になりたい」と徳永さんは言います。

Over The Rainbow のホームページでは、国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科科長の山㟢直也さんが次のようなメッセージを寄せています。

「患者会が発足したことは、この病気に関わる方々にとって、とても大きな一歩だと思っております。私ががんセンターに来て、早いものでもう26年になります。その間メラノーマの診断や治療について、確実な進歩が見られましたが、今ほどその進歩が急速な時代はありません。医師1人ひとりができることは限られていますが、メラノーマの研究グループとしての活動は年々盛んになってきています。患者さんも同じです。みなさんの力や思いの結集が大きな変化や進歩を生み出します。Over The Rainbow は、その始まりだと思います(一部抜粋)」

メラノーマの治療薬は、そう遠くない将来、さらに増えて選択肢が広がると言われています。

「この病気には、まだまだ地域格差や治療格差があります。新薬が出ると治療法が変わるので、これを機にガイドラインも更新されていくことと思います。それが全国に広まれば、どこに住んでいても安心して治療が受けられるようになるはずです」とMさん。

会の名称である Over The Rainbow には、「雨上がりの空に虹を見つけたときのような幸せな気持ちを、患者やその家族みんなで共有したい」という願いが込められています。

メラノーマ(悪性黒色腫)の患者とその家族のための患者会
―― Over The Rainbow ――

●活動目的

メラノーマ患者会 Over The Rainbow は、会員同士が痛みや不安、悩みを分かち合い、未来に向かって希望を持ってともに歩んでいける会でありたいと願っています。

①会員同士が交流できるコミュニティ作りを行うこと
②病気や治療についての最新情報を収集、発信し、会員同士が共有できること
③病気についての社会的理解や認識を高めるための啓発活動を行うこと
④新薬の早期承認のための嘆願活動

●2014年活動実績

1月 患者会発足記念茶話会
4月 会員募集開始
7月 日本皮膚悪性腫瘍学会学術大会に患者会として初参加
8月 キャンサーネットジャパン主催アキバキャンサーネットフォーラムにブース出展
9月 サンケイリビング主催みんなで知ろう皮膚がん(メラノーマ)に協力
リレー・フォー・ライフ東京上野に初参加

以上のような病気の啓蒙と、会員の交流を目指した企画を実施

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