チームを率い、新しい治療法の開発も仕切る

神経膠腫における最大限の腫瘍摘出と、最小限の術後神経症状の両立を実現

取材・文●伊波達也
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年9月
更新:2015年12月

  

村垣善浩 東京女子医科大学
先端生命医科学研究所大学院研究科先端生命科学系専攻先端工学外科学分野教授/
医学部脳神経外科教授(兼任)

東京女子医科大学の村垣善浩さん

神経膠腫(グリオーマ)は、腫瘍と正常組織の境界が不鮮明で、グレードがあがるとより悪性となり、摘出が極めて難しく予後も悪い。そんな神経膠腫に対して、あらゆる手技とテクノロジーを駆使して、最大限の腫瘍摘出と最小限の術後神経症状の両立を実現してきたのが、東京女子医科大学の脳神経外科悪性脳腫瘍チームだ。そのチームを率い、新しい治療法の開発も仕切るのが村垣善浩さんだ。

むらがき よしひろ 昭和37年(1962年)大阪府生まれ。昭和61年(1986年)神戸大学医学部卒業。同年東京女子医科大学脳神経外科入局。1988年同医学部脳神経外科助手。1992年米国ペンシルバニア大学病理学教室留学。2000年東京女子医科大学脳神経外科医局長。2007年同大学院先端生命医科学研究所先端工学外科学分野/医学部脳神経外科(兼任)講師。2010年同准教授。2012年同教授

術中MRIでスタッフ全員が情報を共有、対応が可能に

「情報誘導手術では、術中MRI(磁気共鳴画像法)を撮ることで、手術に携わるスタッフ全員が情報を共有し、随時更新した情報をリアルタイムで見られるので、局面が変わっても、すぐに対応できますし、途中から手術に入っても状況を把握できます。

したがって、従来の手術のように、執刀医が先発完投型でなくても手術が行えるということです。そして最終的には、戦略デスクで客観的に手術を評価することができます」

我が国における情報誘導手術をリードしてきた村垣善浩さんはそう話す。村垣さんは、現在、東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科と脳神経外科の教授を兼任する。

戦略デスクから気づいた点を手術室に伝達

村垣さんは、この日も戦略デスクから、インテリジェント手術室で、今まさに行われている脳腫瘍の手術を見ていた。

戦略デスクは、通常の業務を行うデスクの上に並ぶ6つのモニターで、手術室の内部や入口の映像、術前の検査画像、術前・術後のMRI画像、病理画像、術野の顕微鏡画像、ナビゲーション画像などを表示し、手術についてのあらゆる情報をつぶさに把握し、気がついたことを手術室に伝達できる。

「客観的に冷静に見ることによって、術者をサポートできるので、1人のオペレーターに過度な負担がかからないのです」

術中プランニングや執刀医の手術器具の可動状況をリアルタイムに管理して、目標に向かう戦術を最適化する役目を担っている。

「結局、手術というのは、答え合わせのない試験を受けているようなものなんです。結果の点数はわかるけど、あの時どこを間違えたのか、どこが正しくて上手くいったのかが術後の画像などではわからないのです。しかし、この手術では、術中に随時答え合わせをしながら、正解を導き出して進めていくイメージです」

戦略デスクで6つのモニター監視しながら、気付いた点を手術室に伝達する

最大限の治療効果をあげることができる情報誘導手術

情報誘導手術は、❶手術中にMRIの撮像ができる術中MRI、❷執刀医が術野にどうアプローチしているかがリアルタイムでわかるリアルタイムアップデートナビゲーションシステム、❸運動機能などの重要な機能を出来る限り守るための術中の脳機能モニタリング、言語機能のときには場合によっては患者さんが起きた状態で機能を確認する覚醒下手術、❹術中にインスタントで病気が脳腫瘍であるかどうかを確認する迅速病理診断-など、手術を安全かつ円滑に進めるために必要なあらゆる情報を得ることができる。

覚醒した患者さんと医師が 会話をしながら腫瘍を摘出

「例えば覚醒下手術の場合は、患者さんの頭蓋骨を開頭した後に、まずMRIを撮ります。その後、言葉に関わる場所の患者さんでは、局所麻酔に切り替えて、覚醒した患者さんと医師が、会話をしながら、脳の機能を確認して、大切な神経を損なわないようにして腫瘍を取る方法がとられるのです。

ここでは、患者さんに腫瘍の広がり状況なども説明することができます。患者さんはその説明を聞いて、“先生、リハビリがんばるからもっと取ってください”というように手術中に自分の希望を伝えた、インフォームド・ディシジョンという究極のインフォームド・コンセントができた方もおられます」

さらに進化した次世代手術室 SCOT

次世代手術室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)

この情報誘導手術が展開される場が、インテリジェント手術室だ。

「コアとなるのは、今も説明したように術中の画像機器であるMRIなど、リアルタイムで画像を見れる装置があって、それに基づいて手術をコントロールできるというのがインテリジェント手術室の基本です」

昨今では、このインテリジェント手術室がさらに進化し、ITやスマート化技術の応用で、低リスク化、ネットワーク化、情報化が高度に実現したSCOT(Smart Cyber Operating Theater)という次世代手術室へと変貌を遂げている。

「術中MRIなど手術の基本機器がユニット化された手術室で、手術室丸ごとを1つの医療機器として機能できるようにするのです」

室内の映像や音などの手術情報の収集、医療スタッフの行動分析、医療行為と患者動態の客観的・分析的記録を行うことで、手術の標準化と手術スタッフの不具合や装置の故障などの不測の事態にも対応でき、安全な手術が遂行できるという。

画像に触れずに、上下左右の手の動きのみで画像の表示をコントロールできる『Opect』、術中に摘出した組織を調べる術中迅速診断において、DNA量を測定して染色体が異常に増殖している腫瘍細胞を正常細胞と見分け、浸潤部分に残った腫瘍量を測定する『フローサイトメトリー』など、近未来的なシステムも数々ある。

術中MRI装置を導入したインテリジェント手術室での手術

手の上下左右の動きだけでモニター画像の切り替えが可能なOpectを操作する執刀医

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