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ドイツがん患者REPORT 30 「医療大麻の健康保険適用」
2017年1月、ドイツでは医療大麻に健康保険の適用が決まりました。以前から、医療に大麻を使用することは認められていましたが、その費用は全額患者負担となっていて、それが一部の患者間で問題になっていました。
癲癇(てんかん)の患者さんたちの多くが、医療大麻で発作が治まるとして服用しているのですが、多くの癲癇患者さんは高給な職業につけず、自己負担では月額数万円以上になる医療大麻の費用を払え切れないようでした。このことは何度もテレビなどで報道され、僕も以前見たことがあります。そのような患者さんには、うれしいニュースだと思います。
がん患者の自家栽培を認める判決
2年前に、ある裁判の判決が出て、僕は少し喜びました。末期がん患者が疼痛のため、大麻を服用。他にも多数の疼痛薬を服用していたそうですが、大麻が一番効果があったそうです。しかし、大麻の処方箋を手に入れても全額費用がかかり、職業に従事できない彼は、充分な大麻の服用ができなかったそうです。
そこで彼は、自宅で大麻を栽培することにしました。どういう経緯で警察に発覚したのかは知りませんが、大麻の乾燥時に強い臭いが発生するので、同じ建物の住人が通報したのかもしれません。大麻栽培は警察の取締に合いました。ドイツでは大麻の摂取自体は罪になりませんが、販売目的や一定量以上の所持は罪になり、彼は裁判にかけられることになりました。
結果は無罪。「医療大麻は全額自己負担という経済的な理由で、彼に必要な疼痛治療が行われなかったため大麻栽培を行った」というのが、無罪判決の理由でした。この裁判は、ドイツ国内でかなり大きなニュースとして取り扱われました。この頃から「健康保険の適用を」の声が強まり、それに答えた形となります。
医療大麻を必要とする患者
「医療大麻の是非」についてのテレビのドキュメントを、かなり前に見たことがあります。そこには、異なった持病を抱えた2人の患者が出演していました。1人は、癲癇が持病の患者。彼は癲癇のために一般職にはつけない。しかし、大麻を服用すると癲癇の発作が起きないので、ぜひとも常時服用を希望しているが、自己負担額が大きすぎてできないことを嘆いていました。
もう1人は30代の肉体労働者でした。椎間板ヘルニアを患い背中が痛くて仕事ができなくなり、処方された疼痛薬も効果がなく、彼に効果てきめんな大麻は、経済的理由で服用できない。2人とも仕事をするために大麻の必要性を説いていましたが、大麻は長時間体内に残り、運動能力、判断能力の極端な低下を来すので、服用中の仕事は無理のように思いました。それでも、普段の生活が楽になるのなら、服用させてあげたいと思いました。
僕の友人にも、1人います。彼女は年金生活に入る年齢になっていますが、昔の古傷が痛むそうです。若いころ、バレリーナになるための無理な練習で背中を痛め、その後イタリアでデザイナーの仕事に従事していたのですが、今はもう引退しています。年齢を重ねるにつれ背中の痛みが増し、モルヒネで疼痛治療を行っているのですが、ときにモルヒネが効かなくて痛みの中で過ごすときは大麻で和らげているそうです。彼女も健康保険適用を大変喜んでいることでしょう。
大麻の服用は薬の服用
僕がよく痛み止めに使う薬にティリジンという薬があります。僕が服用し始めた8、9年前からこの薬を乱用する人が増えて、その結果、今は麻酔薬の特別な処方箋扱いとなり、簡単には処方されなくなりました。「暴力ドラッグ」と呼ばれ、大量に服用すると全く痛みを感じなくなり、気分が高揚しアグレッシブになり、暴力に対する恐怖感もなくなるので、ならず者といわれる人たちが好んで使うようになってしまいました。
長年、僕はこの薬を服用していますが、量が増えないようにと毎日気を使っています。この薬と同じで大麻も、麻酔薬と同じような薬なんです。ニュースで扱われたときも、「末期がん患者の疼痛や、特別な場合の疼痛のため」と、とくに念を押して言っていました。ティリジンのように、乱用するべきものではないのです。
痛みは、ほとんどの場合は「個人的な感覚」で、個人差も大きいのです。それ故に、医師は患者の声に耳を傾け、痛みを取り除くために薬の処方をしてくれるのですが、不正使用の場合でも処方してしまう可能性があります。このような懸念もあり、大麻以外の薬で疼痛緩和は可能と考えられていたので、自己負担になっていたそうです。
嗜好品としての、大麻
僕個人としては嗜好品(しこうひん)としての大麻の解禁に賛成でしたが、最近考えが変わりました。ドイツで手に入れようとすれば、たばこを買うよりは困難でも、さほど難しくもなく、一般的にも浸透しています。隣国が、オランダということもありますが。
使用しても罪にはなりませんが、販売目的の一定量以上の所持は罪となります。そういうわけで、闇で流通するよりは、酒やたばこのように、国が管理したほうがよいと考えていました。しかし昨今の「大麻は病気を治す」とか、「健康によい」とかという風評が多く流されるようになり、これは危険だと思いました。もう充分に嗜好品があるのに、これ以上増やす必要もないでしょう。
煙にして吸入することで、たばこと同じと勘違いする人もいるでしょうが、大麻を服用しての自動車の運転は、免許取り上げになるくらい危険な行為なんです。しかも、体内に残る効果の時間もアルコール以上に長いということも、解禁されれば忘れてしまいそうです。疼痛治療薬になるくらい大麻は体に影響があり、薬と同じものなんです。
でも選択肢が増えるのはよいことです。しかし、大麻は病気を治すわけではありません。麻痺させる効果で、症状の緩和や疼痛の薬だということを、服用する人たちは自覚して欲しいです。一般薬をなるべく処方しないのがトレンドになっている医師たちも、万能薬のように処方しないことを願っています。
僕の知合いのルイーゼもナディーンも、がん末期に大麻を服用したことがありました。若くしてがんになった彼女たちは藁にもすがる思いで使ったのでしょう。「大麻でがんが治る」といった、本当にいいかげんな情報を信じて。
依存性は、アルコールやニコチンよりも低いと言われていますが、精神的依存性は相当高いと思います。でなければ、ここまで努力して大麻を解禁したいと思う人など、いないはずですから……嗜好品にするために。
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