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今後は薬剤の使用順序のエビデンス構築が課題

新薬ラッシュ! 治療選択肢が大幅に増えた多発性骨髄腫

監修●佐々木 純 順天堂大学医学部血液学講座准教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年4月
更新:2017年4月

  

「治療を選択する上で、患者さんご自身の価値観が重要になってきます」と語る佐々木純さん

2015年のポマリストの承認を皮切りに、新薬ラッシュに沸く再発・難治性の多発性骨髄腫(MM)治療。昨年(2016年)には、カイプロリス、エムプリシティと新たに2剤が治療薬として加わり、今後も新たな薬剤が登場する見通しだ。治療選択肢が格段に増えている多発性骨髄腫。これらの薬剤を臨床の現場ではどのように使っていけば良いのか。治療を進めていく上での考え方について、専門家に話をうかがった。

骨髄で形質細胞ががん化する病気

多発性骨髄腫(MM)とはどのような病気だろうか。順天堂大学医学部血液学講座准教授の佐々木純さんは、次のように説明する。

「血液細胞は骨髄で作られていますが、白血球の一種である形質細胞(けいしつさいぼう)ががん化し、骨髄の中でどんどん増えていく病気です。形質細胞は、細菌やウイルスなどと闘うのに必要な免疫グロブリン(抗体)を作る働きをしています。それが作れなくなり、免疫機能を持たないタンパク質が無尽蔵に増えてしまうのです」

初期には自覚症状がないが、進行すると様々な症状が現れてくる。増えたタンパク質の排泄で、腎臓に負担がかかると腎障害が起こる。骨髄にがん細胞が増えて正常な血液細胞を作れなくなると貧血が起きたり、感染症にかかりやすくなる。また、骨には骨を溶かす破骨細胞と骨を作る骨芽細胞が存在するが、骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化するため、骨が脆(もろ)くなって骨折や骨の痛みが生じる。さらに、骨からカルシウムが溶け出すことで、血液中のカルシウム濃度が高くなり、高カルシウム血症が起きる。

このように、様々な症状を来す多発性骨髄腫だが、最初の治療においては、自家造血幹細胞移植(ASCT)を行うかどうかで大きく2つに分かれる(図1)。

移植を選択した場合は、化学療法を行い、骨髄腫細胞の数をできる限り減らした上で、造血幹細胞を採取し凍結保存する。その後、大量化学療法を行って、骨髄の中にある骨髄腫細胞を正常な血液細胞も含めてその多くを死滅させ、採取しておいた造血幹細胞を解凍し移植する。移植後に再発した場合、前回の移植の効果が確認できた症例では再度行うこともある。移植の対象とならない場合は、化学療法が行われる。

ただ、これらの初期治療を行っても、残念ながら再発したり、治療が効かなくなったりするケースも多い。このような再発・難治性の多発性骨髄腫に対しては、救援化学療法が行われることになっている。

ポマリスト=一般名ポマリドミド カイプロリス=一般名カルフィルゾミブ エムプリシティ=一般名エロツズマブ

図1 多発性骨髄腫治療の主な流れ

使用できる薬が増えている

多発性骨髄腫の化学療法では、従来からの抗がん薬に加え、新しいタイプの薬剤が使われるようになっている。そうした新規薬剤のうち、レブラミドとベルケイドは初期治療でも使われる。再発・難治性の治療では、この2種類の薬に加え、サレド、ポマリスト、ファリーダック、カイプロリス、エムプリシティ、ニンラーロ(4月1日現在承認済みだが、未発売)という薬剤を救援化学療法に使用することができる。それに加え、今後の見通しとして、ダラツムマブ(一般名、以下同様)という薬も認可されると見られている(図2)。

「現在、再発・難治性の多発性骨髄腫の治療には、8種類の薬剤が揃っていて、今年(2017)中には9種類になるでしょう。これらの薬のうち、ポマリストとファリーダックは2015年に認可された薬で、カイプロリスとエムプリシティの認可は2016年でした。つまり、この2~3年で治療に使える薬が急に増えてきたのです。新規薬剤の登場によって、長期にわたって病状をコントロールできるようになり、患者さんの生存期間が延びていることは確かです。また、薬の種類が増えればそれだけ治療の選択肢が増えることになります。ただ、新しく登場してきた薬同士を比較する臨床試験は限られていますから、これらの薬をどのように使っていけばいいのか、簡単には結論を出せない状況になっています」

薬の種類が増えて、治療選択肢が多くなったことは喜ばしいことだと言える。ただ、どの薬を選択すれば良いのか、どの順番で使用していけば良いのかなど、エビデンス(科学的根拠)としてきちんと定まっていないのが現状だという。

レブラミド=一般名レナリドミド ベルケイド=一般名ボルテゾミブ サレド=一般名サリドマイド ファリーダック=一般名パノビノスタット ニンラーロ=一般名イキサゾミブ ダラツムマブ=一般名。2017年3月末時点、国内未承認

図2 多発性骨髄腫に対する治療薬

薬の特徴を整理する

まだ認可されていない薬を含めた9種類の薬剤は、その作用によって、大きく4つの系統に分類することができるという(図3)。それぞれのタイプについて、簡単にまとめると次のようになる。

■免疫調節薬……骨髄腫細胞を攻撃する免疫系の細胞の働きを助ける、骨髄腫細胞の増殖を抑制する、骨髄腫細胞に栄養を送る血管ができるのを抑える、といった多岐にわたるメカニズムで効果を発揮する。サレド、レブラミド、ポマリストがある。

■プロテアソーム阻害薬(PI)……プロテアソームは細胞に必要な酵素で、細胞内で不要なタンパク質を分解する働きをしている。骨髄腫細胞内のプロテアソームの働きを阻害し、不要なタンパク質を蓄積させることで骨髄腫細胞を死滅させる。ベルケイド、カイプロリス、ニンラーロがある。

■抗体薬……免疫細胞を活性化させたり、免疫細胞に骨髄腫細胞を認識させたりする働きがある。患者の免疫を利用して骨髄腫細胞を攻撃する。エムプリシティ、ダラツムマブがある。

■ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬……多発性骨髄腫の腫瘍細胞は、タンパク質の合成が盛んだが、腫瘍細胞内に異常なタンパク質が蓄積すると、これを分解する酵素(ヒストン脱アセチル化酵素)が働くようになる。その酵素の働きを阻害することで効果を発揮する。ファリーダックがある。

これらの薬をどのように使っていけばよいのだろうか。

「再発・難治性の多発性骨髄腫は、薬で長期にわたってコントロールできるようになりましたが、この病気が完治することは基本的には難しいと言えます。ある薬がよく効いていたとしても、いずれ再燃してくるケースが多く、そのときは、薬のタイプを変えて、治療を続けていくことになります。薬をどの順番で選択していけば、長期の予後改善につながるのかということについては、現時点では明確になっていません」

そこで、患者さんの年齢、全身状態、合併症の有無などから、適した治療薬を選択する必要がある。さらに、薬の副作用、投与方法や投与スケジュールなど、生活スタイルも考慮し、患者1人ひとりに合った治療法を選択することになる。

図3 多発性骨髄腫治療に用いられる薬剤の種類

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