腫瘍内科医のひとりごと 80 「胃がん手術後の山歩き」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2017年8月
更新:2019年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

ある「がん遺族会」から会報が届きました。

「がん患者 再びモンブランへ」と題して紹介されていました。30年前(1987年)、がんの告知もタブー視されていた時代、がん患者7人中3人がモンブラン山頂(約4,810m)に立ち、全国の患者を励ました。この挑戦をきっかけに、全国のがん患者会も結成されました。

30年後の今年、がん遺族会関係者7人が、治療発展を訴えモンブランへ挑むというのです。メンバー表の名前を見ると7人中6人は女性(ガイドを入れると男性2人、計8人)で、そしてほとんど60歳以上!

「術後の外国山歩き」医師としてのアドバイスを

「すごいなあ」と思っていたら、同じ日に、以前一緒の職場で事務をされていたSさん(55歳 女性)から次のようなメールが入りました。

「この度、胃がんと診断され、手術を待っていますがまだ予定日が決まりません。早期がんで、胃は3分の1残せるそうです。実はご相談したいのですが、3カ月後に外国旅行を計画しています。その中に山歩きも含まれています。1年前から友人と計画し、友人は諦めるなと言ってくれています。

担当医からは、手術の結果で抗がん剤を飲む必要があったときは無理と言われていますが、それは納得しています。家族は行かせたくないと思っているようです。この計画に、医師としてのご意見を伺いたいのです」

私は返答に困りました。単なる外国旅行とは違って、山歩きが含まれているというのです。胃の手術後でも、山歩きは体調が落ち着いていればとてもよいと思うのですが、Sさんは、これからの手術で、旅行まで3カ月もないのが心配です。

重たい物を持つような腹筋を使うことでしたら、3カ月以上経ってからが無難と言われますが、お腹を切らない腹腔鏡手術ならその点はきっと大丈夫でしょう。

しかし、術後、山歩きまであまり時間が経っていないことで、問題は体力の回復と、胃腸の状態について大変個人差があるということです。

術後の症状は個人差が大きい

手術後の胃は、切られて、小さくなっているので、たくさんは食べられなくなる、食べたものが胃に留まる時間が少なくなる、胃液が少なくなり消化能力が落ちる、などが考えられます。

消化のよいものを、よく噛んで、ゆっくり食べる。1回の食事量を少なめにし、3食の他に2回ほどおやつを食べる、というのがよいようです。

ダンピング症候群という不愉快な症状がでることがあります。食後に汗がでたり、動悸がしたりします。これは、食べ物が胃に留まらずに急激に小腸に出ることによります。ゆっくり食べることが大切です。また、食後2~3時間ほど経過してから、めまいなど低血糖の症状を来すこともあります。

また、下痢をしやすくなっている方、血圧も低めになる方が多くみられます。手術前の体重には戻らない方が多いようです。

そのようなことで、手術前の今は、残念ながら私から安易には返事ができないのです。実際に手術をされる、そしてその後の経過をみてくれる担当医とよく相談しながらの判断がよいと思います。

もし、今回、体力の回復が間に合わず、行けなかったとしても悲観しないでください。体調が整ったところでの山歩きの計画は、ぜひとも応援したいと思っています。

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