腫瘍内科医のひとりごと 93 「がん免疫治療でがん治療の時代は変わる」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年9月
更新:2019年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

ある病院で月に1度、がん治療の相談を受けていますが、先日の相談例は衝撃でした。

40歳男性、右の進行した肺がんで右肺全摘術。でも、がんは全部取り切れませんでした。胸膜に残ったがんは急速に大きくなり、2カ月後には大きいもので径3㎝と5㎝ほどになっていました。発熱など、身体の状態も悪化していましたが、免疫チェックポイント阻害薬が使われたのです。それが、たった2回目治療後のCTで、がんの影はほとんど消えたのです。

これまでの抗がん薬治療ではありえない。これほどの効果は誰にも考えられなかったのです。これまでも免疫チェックポイント阻害薬で効果のあった例は見てきましたが、このCTを見て、私は「がん治療の時代は変わった」と思いました。

肺がん治療の領域では、15年ほど前1度目の大きな進歩がありました。分子標的薬のイレッサ(一般名ゲフィチニブ)の出現です。発売された当初は、不幸にして肺障害で亡くなった方がたくさんおられました。

その後、がん細胞にEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異が認められた場合では70%以上の方に効く。そして、がんが進行して寝たきりになっても、脳に転移があっても、この薬を飲めれば、死人を蘇らせる効果があると言われました。しかし、完全に治ることは少なく、1年位の効果で、その後は効かなくなることが多いのです。

EGFR=がん細胞が増殖するためのスイッチのような役割を果たしているタンパク質のことで、がん細胞の表面に存在。EGFRを構成する遺伝子の一部に変異があると、がん細胞を増殖させるスイッチが常にONの状態となり、がん細胞の増殖を促す。EGFR遺伝子変異は日本人の非小細胞肺がん患者30~40%に出現している

本物の免疫療法が出てきた

今回の免疫チェックポイント阻害薬は、2度目の大きな進歩と思います。

がんの免疫療法は、昔から色々工夫されてきましたがすべて効果なしでした。民間療法的な、あるいは効きもしないのに金儲けのような治療法も〝免疫療法〟と謳ったのがありました。

これまでの抗がん薬治療や分子標的薬は、薬剤が直接がん細胞を叩くことでした。ところが、免疫チェックポイント阻害薬は、自分自身の身体にあるT細胞というリンパ球が、がん細胞を叩けるように仕向ける薬なのです。

免疫チェックポイント阻害薬の種類(2018年8月現在)

免疫チェックポイント阻害薬は、今回の報告のように中にはものすごくよく効く場合もあるのですが、20~30%の方に有効で、どのような患者に効くのかがまだわかっていない。最初はメラノーマ(悪性黒色腫)だけ効くと考えられたが、肺がんにも効くことがわかり、その後、色々ながんで、たくさんの患者に使われるようになりました。胃がんにも保険適用になっていますが、大腸がんには効き難いようなのです。

効果が認められても、いつまで使えばいいのかがわからない。副作用もこれまで抗がん薬で経験したものとは全く違うのです。

皮膚炎、肺線維症、大腸炎、肝機能障害、腎機能障害などの他に、Ⅰ型糖尿病、甲状腺疾患など、これまでの薬剤では全く考えられなかった副作用なのです。

肺線維症や皮膚炎はステロイドホルモンが効くようですが、糖尿病、甲状腺疾患ではそうはいかないようです。

このような副作用から、この薬剤の投与にあたっては、内分泌科、神経内科等々これまでのがん治療ではあまり関係していなかった科も揃っている総合病院での対応が望まれます。

しかし、この劇的な効果をみると、がんの薬物治療の時代は確実に変わってきたと思うのです。ようやく、本物の免疫療法が出てきたのです。

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