腫瘍内科医のひとりごと 95 〝転院させられた〟病院の古さ

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2018年11月
更新:2019年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

ある地方への旅で、その地域の中核となるZ病院が新しく出来たと聞いて、宿泊した旅館の方に話しかけてみました。

旅館の方は、「建物は立派だけど、Z病院の評判は良くないのです」と言って、話し始めました。

「大腸がんの手術をした老人が、この間、ひどい下痢があって入院させてもらって下痢は止まった、そこまではよかったのです。

それでも入院中にすっかり足が弱ってしまって、『リハビリして、1人で歩けるようになって退院したい』と言ったら、担当医から、『ここは旅館ではない』と言われ、『まだ入院していたいなら、転院して下さい』と言われたのです。

転院したG病院は古く、リハビリの設備などZ病院とのギャップに驚いた老人は、『Z病院を追い出された』と言うのです」

病院に捨てられた

この話を聞いて、私はAさん(58歳・男性)のことを思い出しました。

Aさんは、Fという大きな病院で胃がんの手術を受け、その後、外来で定期的に抗がん薬の点滴と内服治療となり、1年間頑張ってきました。

ところが、がん性腹膜炎で溜まった腹水を抜くようになり、食事もあまり摂れなくなって、個室に入院しました。

しかし、状態はなかなか回復せず、入院して2週間を過ぎた頃に、担当医から「在宅では無理そうなので、B病院に移ったらどうですか」と言われました。

Aさんは、がんに対しての積極的治療は無理であることを受け入れ、転院することにしました。

B病院に移ってすぐに気づいたのは、建物の古さ、壁の滲み、廊下の暗さ、トイレが遠いことなどでした。しかも、個室料金はF病院と同じだったのです。そこで、Aさんは「F病院に捨てられた」と家族に言ったそうです。

私は、以前このB病院を訪ねたことがあり、その古い建物とF病院を思い浮かべると、「なるほど」と思ってしまいました。

患者の心を思いやって欲しい

この10年余、がん対策基本法・基本計画もあって、がん拠点病院など大病院は立派な建物と設備、そしてスタッフも充実したところが多くなりました。

大病院にはがん患者がたくさん集まり、入院期間は短く、外来での治療が中心となる。もし治療が困難となり、がんが悪化して入院期間が長くなりそうになった場合、患者は在宅が無理なら、ホスピスか、中小規模の病院へ移るのを勧められる。

患者は以前から覚悟は出来ていたとしても、このときは、いよいよ死が迫ったことを実感する。それだけでも、心は大変なことだ。そこで、さらに転院した病院の建物の古さ、設備等、大病院とのギャップを目の当たりにして、〝大病院から追い出された〟〝捨てられた〟との思いになる患者がおられるのです。

もちろん、建物は古く小さくとも、スタッフが親切で、患者の心に寄り添ってくれて、患者から「ここに移ってよかった」と感謝される病院もあります。

大病院、中小病院の役割、それぞれの事情もある。病院の相談支援センターなどで相談して、患者自身が納得して転院したはずでもある。それでも、間もなくこの世を去らねばならない患者が、大病院から「捨てられた」と感じてしまう患者さんの無念さ、その心を思いやって欲しいのです。

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