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早めに治療すればQOLだけでなく、予後まで良くなる
前立腺がんの骨転移は「早期発見・早期治療」が肝心

監修:上村博司 横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学准教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年9月
更新:2013年4月

  
上村博司さん
「骨転移を早く見つけ、
早く治療すれば予後も
良くなりそうです」と話す
上村博司さん

前立腺がんは、骨転移を起こしやすい。骨転移が起こると、痛みが出るのをはじめ、骨折や麻痺などまで起こり、QOL(生活の質)が著しく下がる。一体、どうすればいいのだろうか。

前立腺がんにとって骨転移は大きな問題

前立腺がんの患者さんには、骨への転移が起きやすいことが知られている。横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学准教授の上村博司さんによれば、前立腺がんと診断がついた時点で、すでに20%ほどの人に転移が起きているという。

「横浜市大病院では10%程度ですが、全国平均では20%くらい。都市部のほうが低い傾向があります。かつては診断がついた時点で半数近くに転移が見られましたが、検診が行われるようになって変わってきました」

[図1 腫瘍の成長と骨転移のプロセス]
図1 腫瘍の成長と骨転移のプロセス

Adapted from Mundy GR, et al. Nat Rev Cancer. 2002;2:548-593
原発巣の腫瘍に血管新生が起こり、がんが浸潤しだすとがん細胞が血液中に流れ出す。また、骨の中の骨髄には血液が豊富であるうえ、骨は破骨細胞と骨芽細胞によって、常に古い骨を壊し、新しい骨に作り変えられているため代謝が盛んであり、転移が起こりやすくなる

ただ、治療を受けていても骨転移は起きてくる。最終的に前立腺がんで亡くなる患者さんの60~80%には、骨転移が起きているという。前立腺がんの患者さんにとって、骨転移は大きな問題であるといえそうだ。

では、どうして骨にがんが転移するのだろうか。

「骨には、骨を壊す破骨細胞と骨を作る骨芽細胞があって、常に古い骨を壊して新しい骨に作り変えています。つまり、骨は非常に代謝の盛んな臓器で、そういう部位には、がんが転移しやすいのです」

前立腺のがんは、血液に乗って骨に運ばれていく。骨の中の骨髄には血液が豊富で、がん細胞はここから骨に入っていくのである(図1)。

痛みや骨折などでQOLが低下する

骨転移で引き起こされる症状はさまざまだが、まず問題となるのは痛みである。じっとしても痛むのが特徴だ。

骨折も起きやすくなる。前立腺がんは高齢者に多いため、それが寝たきりの原因になってしまうことも少なくない。

神経障害が現れることもある。最初は下肢のしびれだが、だんだん運動麻痺の症状が現れ、ある日突然歩けなくなったりする。

「転移するのは骨盤の骨が最初ですが、脊椎にまで転移することがあります。そうなると、転移したがんが大きくなることで、脊椎の中を通る脊髄を圧迫してしまいます。それで麻痺などの重い症状が出ることがあるのです」

[図2 骨転移に伴う骨関連事象]
図2 骨転移に伴う骨関連事象

このように、骨転移があると、それに関連していろいろなことが起きてくる。そうした事柄をまとめて骨関連事象(SRE())と呼んでいる(図2)。

「骨関連事象が起きると、QOL(生活の質)は確実に低下しますし、患者さんの予後にも大きく影響します。骨転移のある前立腺がんの治療では、骨関連事象をいかに防ぐかということが、非常に重要になってきます」

そのためには、骨転移をなるべく早期に発見し、早い段階から治療を行うことが必要になってくる。

SRE=skeletal related event

骨転移をなるべく早期に発見する

骨転移が起きていることを診断するためには画像検査が必要だが、なるべく早期に発見するためには、血液検査の数値の変化を見ていく必要がある。まだ骨転移が起きていなくても、いずれ起きる可能性が高いので、定期的に検査していくことが勧められる。

「PSA(前立腺特異抗原)の値が上昇するのはもちろん、ALP(アルカリホスファターゼ)の値が上がってきたら、ちょっとあやしいなという段階です。その場合、もっと詳しく調べるために、骨代謝マーカーの検査を行います」

骨代謝マーカーには、BAP(骨型アルカリホスファターゼ)、ⅠCTP(Ⅰ型コラーゲンC-テロペプチド)、NTx(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド)、P1CP(Ⅰ型コラーゲンC-プロペプチド)などがある。血液や尿を調べることで、骨転移の可能性を知ることができるわけだ。

骨代謝マーカーの数値が上がってきたら、画像検査が行われる。画像検査には、単純エックス線検査、骨シンチグラフィ、CT()、MRI()、PET-CTなどがある。

CT=コンピュータ断層撮影
MRI=核磁気共鳴画像法

痛みがないときから治療を始める

骨転移をなるべく早期に発見したいのは、治療する方法があるからだ。治療にはゾメタ()という薬が使われる。骨粗鬆症の治療にも使われるビスホスホネート製剤の一種である。

「ゾメタは骨に取り込まれて、破骨細胞が骨を壊すところで作用します。破骨細胞にアポトーシス(細胞死)を起こさせて、骨代謝を抑える働きをするのです」

こうした作用により、ゾメタは骨関連事象を防ぐ働きをしてくれる。骨が強化されることで、骨折などさまざまな事象が予防できるのである。

注意すべき副作用としては顎骨壊死がある。ゾメタによる治療中に、歯の治療で抜歯などを行うと、その部分から顎の骨が壊死することがあるのだ。発生率は1%程度だが、口内を清潔に保ち、ゾメタ治療中は抜歯しないなど、細心の注意を払いたい。

もう1つの副作用は低カルシウム血症。手足のしびれ、口のしびれ、筋肉の痙攣などの症状が現れるので、そのときはすぐに主治医に連絡する必要がある。

従来、ゾメタによる治療は、骨転移による痛みなどの症状が現れてから行われることが多かった。しかし、痛みのない段階から治療を開始することで、骨関連事象の発生をより予防できることが明らかになっている。

[図3 ゾレドロン酸の効果](骨関連事象の発生率の比較)
図3 ゾレドロン酸の効果(骨関連事象の発生率の比較)

Saad F, et al. Urology 2010
早期からゾレドロン酸を投与することで骨関連事象の発生を抑えることが示唆された

もともと痛みのある患者さんと、痛みのない患者さんを対象に、ゾメタによる治療を行う群とプラセボ(偽薬)を投与する群に分けて比較試験が行われたのだ(図3)。その結果、どちらもゾメタ群のほうが骨関連事象の発生率は低かったが、もともと痛みのなかった患者さんたちのほうが、骨関連事象をより多く抑えることが明らかになった。

「骨関連事象をなるべく防ぐには、痛みのない段階から骨転移の治療を開始したほうがいいということです。それに、私たちの研究では、早期から治療を開始することは、骨関連事象を防ぐだけでなく、予後を延長させることも明らかになってきました」

最新のデータを見てみることにしよう。

ゾメタ=一般名ゾレドロン酸


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